『春だよね』
僕は昔から君の事を知っているけど、君の名前を知らない。
私はずっと前からあなたを見てきたのだけど、あなたを知らないの。
僕は他人の名前に興味が湧かないから。
私の、先祖の、先祖の代からあなたを知っているはずなのだけど。
君は、良い香りがするよね。
あなたからは、太陽の、日向臭い匂いがするわ。
君はいつも、水面に落ちる水滴みたいに、パッと姿形を広げるよね。
小さい頃から、あなたは大地を駆けまわっていたわ。
いつも、雪が溶けた後に出てくるよね。
いつも、雪が溶けた後に出会うよね。
私は、あなたの名前をまだ知らないの。
僕も、君の名前に興味は湧かないよ。
お互いさまだよね。
お互いさまかもね。
温かいから出てきたの。
温かいから君を見つめているんだよ。
春だよね。
春だよね。
写真 小幡マキ 文 じゅうばんばん
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