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【女子高生エッセイ】『短冊の願いは永遠に🌃💫』#七夕祭り

七夕になると短冊で願い事を書かされた。

一年に一度ある願い事をひねり出す日。

保育園の時は何も考えずに願い事を書くことができた。

『絵がうまくなりますように』

『かわいくなれますように』

『ダンスがうまくなりますように』

今思い返せば自分のダメな部分を願いとして書き出して一年かけて直していく作業だった。

来年も同じ願いならもう一年やり直し。

そうして中学三年生まで願いを書き続けた。


憂鬱なただの作業だった私の七夕に革命が起きた。


高校入学した一年のこと。

七夕が近づいてきたころ。

当時好きだった人と二人でプラネタリウムに行くことになった。

初デートだった。

彼にどこに行きたいか尋ねられて映画かプラネタリウムの二択で迷った。

私は映画鑑賞後は解釈を納得いくまで語り合いたい派だった。

一回目のデートでそれを求めるのは違うなと感じ『プラネタリウムがいい』と伝えた。

そのままスケジュールが流れるように決まり週末に出かけることになった。

五駅ほど電車に揺られた。

マップで調べると駅から徒歩で20分ほどかかるみたいだった。

話題には困らなかった。

私の右手と彼の左手がたまに触れた。

「あ、ごめんね」

「いや、大丈夫だよ」

それを五回ほど繰り返した。

そのたびに会話は止まって次の話題が少しだけぎこちなくなる。

まだ六月の終わりだったのにやけに暑く感じた。

このまま手を繋いでしまおうかと思ったが勇気がでないまま目的地に到着した。

自動ドアが開いて中に入ると涼しい風が私のほてった顔を冷やした。

すぐ右側に受付があった。

学生証を提示しプラネタリウムのチケットを購入する。

受付の綺麗に髪をくくった女の人がチケットを二枚差し出す。

「チケットこちらです。」

彼と受付の方の手が触れてもやっとする。

「ありがとうございます。」

受付の横にあるパンフレットを一枚手に取った。

もう一枚とるか迷ってやめた。

友達となら二枚とるんだけど。

彼とは一枚のパンフレットを二人で見たいと思った。

「一枚でもいい?」

彼に尋ねる。

「俺が持ってあげれるし一枚のほうがいいね」

私の手からパンフレットを取って優しく微笑む。

受付のお姉さんがもう一度口を開いた。

「あ、七夕近いのでよければ願い事書いていってください!」

タイミング悪いなぁと思いつつお姉さんの手がさす方向を見る。

申し訳なさそうに頭を垂れた笹がちょこん一本立っていた。

ぶら下がっている短冊は少なくて秘境の神社に着た気持ちになった。


「えっと、じゃあ願い事書こっか」

彼はかわいらしい笑顔を浮かべて照れながら話しかけた。

いわゆる犬系彼氏というやつだ。

受付の時はあんなに冷静だったのに。

私は嬉しくなって声を弾ませながら答えた。

「もう七夕かぁ、出会ってから2か月経つと思うとはやいね。」

「そうだね、出会えてよかったなぁ」

彼はさらっと照れくさいセリフを言う。

そのあとに顔が赤くなって「やっぱ、いまのなし」というのまでがセットだった。

私は「なしにしていいの?」といたずらっぽく笑った後にオレンジ色の短冊を手に取る。

マッキーのふたを開けて何を書こうか考える。

「なしって言ったのがなしね」

そう言って彼は黄色の短冊を手に取ってすらすらと願い事を書いていった。

「先に結ぶけど焦らずゆっくり考えていいよ」

彼が照れながら私に見せた短冊にはこう書かれていた。

『〔私〕とずっと楽しく過ごせますように』

文字を読んだ瞬間ドキッとした。

そんな風に思ってくれてるんだと思って胸が熱くなった。

「えっと、ありがとう…?」

照れた私は短冊で顔を隠しながらお礼を言った。

ちらっと彼の顔を見ると耳が真っ赤になっていた。

「照れられると俺も恥ずかしいんだけど」

彼も同じように短冊で顔を隠して笑った。


私も彼とずっと一緒にいたいと短冊に書こう。

そう意気込んでペンをしっかり持ち直した。

でもその願いを書くことはできなかった。

手が動かなかった。

彼ともしこの先何かあった時、その願いはどうやって消費すればいい?

その疑問が頭を埋め尽くして脳がショートしそうになった。

私は彼が結んでいる間に願い事を必死に考える。

一つだけどうしても叶えたい願いができた。


今までで一番強い願い。

そして今までで一番他人任せな願い。


『〔彼〕がずっと幸せでいられますように』

私が幸せにすると心の中で思ってもそれを書くことはできなかった。


プラネタリウムは気づいたら終わっていた。

「手、繋いでいい?」

私の右耳にささやいた彼の声。

私が頷くと優しく手を握ってくれた。


あれから二年、彼は私のそばにはもういない。

短冊の願いと右手のぬくもりだけは今も残っている。


やっぱりあの時の選択は間違っていなかった。

これからも短冊には消えない願いだけを書き続ける。



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