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食事をするということ/【文章のきほんコース受講生作品 Vol.6】

この文章は、大阪編集教室の「文章のきほんコース」受講生作品です。
課題原稿に添削が入って書き直したものを、一部編集した文章になります。
詳しい授業の内容はこちらからご確認ください。

今回の課題のテーマは「自分の好きなコト・モノ」でした。

食事をするということ

「これほんとに簡単なんですよ。ほったらかしにしているだけでおいしくできるんです」

ぼんやり観ていたバラエティ番組での女性のことばにはっとした。映っていたのは古くさいフォルムをした台湾製の『大同電鍋』。普段は時間をかける買い物も、このときは不思議なほど悩まず「ポチっ」としていた。

家事の中でも特に料理が苦手だったからかもしれない。大根の煮物を作ると、ある日は硬くて味がしなかったり、ある日は小さく焦げて鍋の底に張り付いていたり。とにかくおいしくできない……。

練習すればもっとおいしくできる!と信じて試行錯誤したが、あっという間に時間が過ぎる。平日は終電近くまで残業し、休日にまとめて家事をしている私にとってもどかしい時間だった。

結局、掃除も満足にできていない部屋で、たいしておいしくもない食事を、とりあえず時間が来たから食べる。それが、日常になっていた。

この電鍋に一番惹かれたのが、加熱の方法。電気ではなく水蒸気を使う。火の調整がいらず、勝手に電源が切れるので空焚きの心配もいらない。電子レンジのような電磁波の影響も受けず、食材本来の旨味を保ったまま調理ができる。仕組みがシンプルなだけに、私がやってもうまくいくかもと思えた。

初めて使ったときは他とあまりに違うので不安もあったが、テレビで聞いたあのことばは本当だった。ほったらかしを何度やっても、失敗なくおいしい。苦戦していた大根の煮物もふわふわとした食感。素材の味が活きた料理があっという間に出来あがる。前までの気負いもなくなり、ゆったりとした気持ちで料理ができるようになった。

追いついていなかった掃除や洗濯も、今ではこなせる。何よりも鰹出汁の香りがいい後押しとなり、家事へのモチベーションは高まる一方。とりあえず間に合わせていたごはんが嘘のように、部屋片づけてからじゃないと食べたくないという気持ちが湧くようになった。

あの時、ためらわなかった「ポチっ」。
そのおかげで、キレイな部屋でごはんを食べることがあたり前になっている。

おいしい料理をリラックスした気持ちで食べる。

食事をするということはそういうことなのだと、大同電鍋を使うようになって気づいたのだ。

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