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幸せを手に入れる最後の方法 ~2年間のカウンセリング実録~ 34.エピローグ

 その年の秋、僕はパーティー会場に向かっていた。




 そう、咲笑ちゃんと旦那さんとの結婚披露パーティー。



 誰にも伝えられない苦しみの声を聴かせてくれた咲笑ちゃんが、今度は幸せ溢れる場に、笑顔いっぱいの場所に、僕を呼んでくれる。

カウンセラーとして、こんなに幸せなことはないと思う。




 ここまで来るのが容易でなかったことは知っている。

でも咲笑ちゃんはきっと僕が知る以上に、もっとたくさんの苦しい思いをしてきたに違いないと思う。


結婚後も、披露宴までにたくさんの困難を乗り越えてきたと思う。

だからこそ、この日の幸せな笑顔がこんなに尊いものだと感じることが出来る。


 幸せを手に入れる最後の方法を咲笑ちゃんが選択し続けることを、僕は祈り続けよう。


 おめでとう。幸せになってね。
そして、ありがとう。





 実はひとつだけ、僕が咲笑ちゃんに伝えていないことがある。



 その年の大晦日、咲笑ちゃんのお母さんからメッセージをもらった。



「お忙しい中、失礼いたします。ご無沙汰しています。やっぱり年内にご挨拶したくて。

お陰様で咲笑は挙式も終わり、結婚に関する全てのことが終わりました。
私から飛び立ちました。


以前、咲笑はこんなことを言っていました。

『お母さんやお祖母ちゃんの子育てが悪かったから、自分はこんな風になってしまった。だから自分は結婚もしないし子供も生まない。自分でこの悪のループを止める。』って。


でも咲笑は、彼氏が変わるたびに服や鞄に小物全部を買い換えるし、死にたいとばかり言うし、お金がないって言うから、私は結婚資金にと思って貯めていたお金を少しずつ渡していました。


そして結婚が決まったときにはもう渡せるお金は無くなってしまっていました。



戸籍を見た時には、『自分が養女と記されるなら妹が生まれたときに捨ててくれたら良かったのに!』と泣きながら言われました。

最後のトドメのように。

私が思う愛情は伝わっていませんでした。



でもどうであれ、あれほど死にたいと攻撃してきた娘の命は守りきることが出来ました!


咲笑を支えて下さってありがとうございました。


私は真っ正面から咲笑と向き合い、自分と向き合いました。

今までは親のためや咲笑のための自分でしたが、これからは自分らしく生きていこうと思います。


本当にありがとうございました。

長々と失礼いたしました。どうか良いお年をお迎え下さい。」



 お母さんからの愛情は伝わっていなかったのかもしれない。
でもやっぱり咲笑ちゃんは愛されていた。
僕はそう思っている。





 蛇足になるが、もう一つだけ伝えておきたいことがある。


 咲笑ちゃんの頑張りに刺激されて、僕にもやり残したことがあることに気付いた。


本当は気付いていたのかもしれない。

でも、この2年間を振り返ってみて、僕は咲笑ちゃんから背中を押された気持ちになった。


 意を決して、僕は妻を、日本メンタルヘルス協会の体験講座に誘ってみた。


「あなたは嫌いかもしれないけれど、僕はメンタルの考え方はすごくいいと思っていてね、だからその内容を実際に聴いて感じてもらえたら嬉しいなって思ってるんだよね。


こんど体験講座が土曜日にも開催されることになったから、良かったら行ってみない?

もちろん、あなたが良ければ、なんだけど。」



 断られると思いながら言ってみた。
拒絶されることも想定していた。
でも思いがけず、妻は了解してくれた。



「うん。まあ、そんなに言うなら一回くらい聞いてみてもいいかな。」



 クライアントさんに勇気をもらうなんて、カウンセラーとしては失格かもしれない。

でも僕は、咲笑ちゃんからたくさんのことを教えてもらい、一緒に歩いてきた。

二人三脚のカウンセリング。
これが僕の初めてのカウンセリングだった。
僕をカウンセラーにしてくれた、咲笑ちゃんとのカウンセリングだった。




 日本メンタルヘルス協会の心理学講座で、基礎コースの最終講座にあたる12講座目に、「トランスパーソナル心理学」というものがある。

講座タイトルは「生きる意味を見いだせない人に未来を与える未来心理学」となっている。



 白状すると、この講座を初めて受講した時、僕はよく理解できなった。
正直に言うと、ちんぷんかんぷんだった。
そもそも「『未来心理学』って何?」って感じ。


 でも今なら少し分かる。

 生きる意味を見いだせなかった咲笑ちゃんは、確かに未来を掴んでくれた。


 自分一人では乗り越えられない人生も、自分以外の誰かの言葉を受け止め、個人を超え、新しい自分になることで未来を掴むことができる。


 受容し、共感することで、自分以外の誰かに寄り添い、その人に未来を与える環境になることができる。

そして誰もが、その誰かにとってかけがえのない環境になることができる。
僕は、そんな誰かの環境であり続けたい。


それが咲笑ちゃんと歩みながら見つけた、僕のカウンセラーとしての原点だから。




咲笑ちゃんには、苦しい過去を忘れるほどの幸せを手に入れて欲しい。

でもだからこそ、これまで歩んできた道程を、僕はしっかりこの身に刻み、忘れることなく進んでいこう。


咲笑ちゃん、幸せになってね。

ありがとう。









幸せを手に入れる最後の方法
~2年間のカウンセリング実録~ end.




このカウンセリング記録は、クライアントである咲笑ちゃん(仮名)の許可を得て公開しました。


本人の特定に繋がる内容以外は全て正確にお伝えしています。


少しでもこれを目にした人の力になれば、心から嬉しく思います。


長期間おつきあいいただき、本当にありがとうございました。

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