見出し画像

映画「天間荘の三姉妹」感想 家族の存在×一人の存在×のん

観てきたが、実際の災害が背景にあるとは思わなかった。主人公の小川たまえだけが現世の人間であり、他は天間荘という架空の旅館の従業員で、現世の人間でないというのがわたしの先入観だった。蓋が開ければ、女将も若女将も、その妹もたまえの腹違いの母親、姉だったわけであったわけだ。たまえは一人だったのが、家族との出会いや行動により、自分で生きていくことになる。特に、宿泊している財前との対話は素晴らしく、真っ直ぐなたまえだからこそ、心を溶かし、対話をしていく。美しい景色を見たいという財前。美しい景色は、外にあるものではなく、身近にありものだろうと思った。確かに見たことがないものは美しいが、身近にあるものにこそ、綺羅びやかなものは宿ると信じている。外に外に美しいものをイメージしても案外なくて、見つからないストレスでますます病んでしまう。劇中では、財前は自分の人生を走馬灯という道具を使うことで見る。その中で、娘が病室におり、孫の存在を知る。変わっていく財前が印象に残る。人、家族の存在で人間は変わるものだ。たまえも、天間荘で大女将や姉との会話で変わっていく。現世に帰るか、天界に行くか、その二択を迫られる。しかし、父親との再開や天間荘での出会い、三ツ瀬との人々の願いにより、たまえはある目的を持つ。人間は、目的、役割を認識することで大きく変わると思った。役割はあるが、それは自分で探さないと見つからない。

今年はのんの映画を2作見た。さかなのこもそうだが、本作はイルカショーもあったから思い出した。天真爛漫さとは裏腹に、本音を出すときの怖さがある。しかし、すぐに謝れるなど可愛くも素直な役者だ。可愛いが、真剣な顔つきからのプレッシャーもある。一緒にいると楽しそうだなあと思えるから不思議だ。中々いない役者だと思う。当たり前の表情ではない。さかなのこのような天真爛漫かと思いきや、父親がいなくなり、家族がいない寂しさ。さらに、自分のせいではなく、他人のせいと思い込むことでは自分をガードしてきたというのはつらいところである。笑顔の裏には寂しい表情を演じる「のん」は素晴らしい役者に感じる。だからこそ、違う作品でも観てみたい。また、寺島しのぶの演技が光る。三姉妹の母親役だが、嫌味なことをストレートに言う胆力があり、十番になるとすごく頼もしくなる。特に、最後の夜の大女将としての服装と顔付きは別格だった。

エンドクレジットを観て分かったが、本作はスカイハイの外伝だ。柴咲コウがおいきなさいというセリフはどこかで聞いたことがあると思ったら、まさにそれだった。実は、3.11で被害にあって、亡くなった人々が暮らしている街なのだ。魂の安定のために。特に、父親が天間荘に来るシーンで、場面の中央に「2時46分」を指した時計を観て、理解した。その後には具体的な当時の様子が示されるわけだが、物語中盤でフワフワしていた街の人達の背景や過去が分かり、少しゾクッとした。住人はのんと同じような境遇と思ったからだ。終盤は一気に物語の色が変わるから、心が乱される。


この記事が参加している募集

#おすすめ名作映画

8,156件

#映画感想文

66,844件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?