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初日の幕が、開いた

何年か前に客席に座っていて幕が開かなかったことに遭遇したことがある。舞台の幕が開くというのは当たり前のことじゃないってわかってたけど、3年前からはよりシビアになっている。

いつからか舞台の幕は「開く」ものから「開ける」ものになってきた気もする。みんなで気をつけつつ精一杯の想いで開けて「初日おめでとうございます」の習わしな挨拶に気持ちが込められるようになった。ここにはご時世のおかしな話もあるんだけど、そんなおかしさを吹っ飛ばしてくれる初日の幕が8月17日に開いた。

今回は劇団と共演者に本当に恵まれた。稽古初日の読み合わせから、みんなが良い作品に向けての気持ちが似ていたこと含めて、こんなに何のストレスもなく稽古したのは初めてかもしれない。どんなに作品が明るくなくても、シーンが難しくても、しんどい疲れがなかった。むしろ毎日が楽しくて、作品の中にはない笑いが、休憩時間にはみんなでお腹抱えて笑っていた。

この恵まれた環境で乗り越えられたことがたくさんあると思う。ある稽古休みの日、稽古場は開放してたけど休むのが最優先な状況だったから朝起きた時は稽古場なんて一切よぎらず、眼科や耳鼻科やいろいろ用事を済ませてると、

ふと「あ、今日の私ダメだ。メンタルもいい状態じゃない。何しても全くうまくいかない」と感じた。こういうのは店員さんとかへの自分の態度や良くない連鎖でわかったりする。今日はもう素直に帰ろうと思って最寄駅に着いた瞬間に「あ、そうだ、稽古場に行こう!そしたらみんなに会える!作品に会える!」と思い立ち、1時間かけて稽古場に向かった。

扉を開けると、みんなが、居た。その瞬間「何もうまくいかない日だったけど、この選択は間違ってなかったー!」と心の中でつぶやいた。
そしたら私と全く同じ理由で稽古場に来てた人がいた。愛おしくて笑ったよ。どうしたってダメな日ってあるよね。

「ここに来てほんとによかった」そんなこと稽古場に対して今まで思ったことがない。休みの日に稽古場に来て心が落ち着くなんて、そんな感覚知らなかった。

20代前半は、闘い、争い、比較の場にさせられていた。20代後半は、葛藤、もがき、苦しみの場にしていた。それを経て、安心、楽しい、幸せを感じる場を経験させてもらえるのは心から感謝だった。

それは一緒に試行錯誤してくれる演出家、やさしい笑顔で見守ってくれるスタッフの皆様、そして愛溢れる魅力的な共演者陣のおかげ。

だからこそキャスト10人で開けたかった初日。
「初日を無事に迎えられて感謝です」ってSNSに投稿した直後に劇場で「無事」ではないことがわかった。動揺が止まらなかったけど、出演できなくなった彼女のことを思うと悔しくてたまらなかった。だって、彼女はずっと楽しそうだったから。「むずかしい役だけど、なんのストレスもないのが救いです」とかわいい笑顔で言ってくれたのをずっと覚えている。

そんな小さなたくさんの積み重ねがあるからこそ、どこかで聞いたことあるナレーションみたいな言葉だけど「みんなで一致団結する時が来た」という初日だった。難易度高めの転換も一発でクリアできたチームワークを発揮する時。でもそれは今まで10人で稽古してきたからできることで、1人居なくてもやっぱり10人なんだよなぁ。

始まる前に円陣なんて組んだりしちゃって、そこでまたみんなのやさしい温もりを感じちゃってね。ただただ今できることをみんなでやりきった初日だった。稽古初日からの関係性があっての本番だから、このカンパニーじゃないとできなかったと思うと、忘れられない一日になった。

そして昨日は代役やまうちせりなちゃんの初日。1日でセリフ覚えて動きも心情も状況も把握するだけでも凄まじいのに、東京芸術劇場シアターウエストの舞台上で堂々と役として存在し、周りにたくさん影響していた。ただただ圧巻。おかげで一昨日の初日とはまたちがう景色を見させてもらった。

何が起きるかわからない日常のように舞台でも何が起きるかわからない。とにかく貴重な時間を経験させてもらっていることが、もうずっと感謝。信頼し合える人たちと共に。また今日も、明日も、楽しもう。

ご来場いただいた皆様、
これから観劇予定の皆様、
本当にありがとうございます!
舞台『哀を腐せ』は8月27日まで続きます。
1人でも多くの方に出逢ってほしい作品です。
まだの方も、また観たい方も、
どうぞよろしくお願いいたします。

また素敵な人たちに出逢えたから
やっぱ芝居が、好きなんです。

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