第1号 『20代で隠居 週休5日の快適生活』

著者:大原扁理
出版社:K&Bパブリッシャーズ
発行日:2015/4/21

ゆるい隠居生活のすすめ

作者の大原扁理氏は高校を卒業後の3年間を引きこもりとして過ごした後世界一周の旅に出て海外で暮らし、帰国後は東京で生活する。
その後コンビニエンスストアのアルバイトをやめて多摩地区に引っ越し、書店で働いていたときのの経験をきっかけに20代にして隠居生活に入った。
この本はそんな隠居生活とそこに至るまでの経緯、および隠居人生の哲学をつづった本である。

作者は週に2日ほど働いて1ヶ月を約7万円で過ごし、ゆるい玄米菜食や完全食を基本とした食事に趣味は散歩や読書、映画鑑賞などと至って健康的な生活を送っている。
そんな隠居の暮らしがユーモアのある語り口で読者を楽しませ、クスリとさせる筆致で書かれている。例えば、著者が自分は携帯電話を持っていないという話で、待ち合わせをした際に約束通りの時間に行っただけで大変喜ばれたという体験に絡めて

今どき姿を現しただけで喜ばれる人間なんて、ハリウッドスターか携帯持ってないかどっちかですよ。

とおどける。

また、著者は健康のために散歩とラジオ体操を実践しており、その体験をありがちな健康本に絡めて

ところで、健康法って、ひとたび注目されると、必ず賛成派と反対派に意見が分かれて議論を呼び、ネット上で話題になったり、書籍が発売されたりしますよね。
そりゃ、人によって合う合わないがあるから仕方ないだろう、と思いますが、散歩とラジオ体操に関しては、不健康だとする話は聞いたことがありません。
ですからまあ、地味だけど万人向け、ということかもしれませんね。

たとえアンチ本が出たとしても、

『長生きしたけりゃ、歩くな!』
『ラジオ体操をすると、早死にする!』

……売れなさそうです。
以上、大原扁理『20代で隠居 週休5日の快適生活』 (K&Bパブリッシャーズ・2015年)より

と笑いを取ることも忘れない。そんな文章の端々に散りばめられた小ネタは読者を飽きさせない。

また、本書には隠居食として野草の採りかた、簡単な見分けかた、野草料理のレシピなど実践的なノウハウも書かれている。
この本を読んで野草の知識を身に付ければ少なくとも飢えて死ぬことは少なくなるだろう。

手取り15万円の時代といわれブラック労働などが問題化する昨今、まともに働いても人間的な生活を維持するのが難しいということも少なくないだろう。そんなとき、どうしても人並みに働いて暮らすというのがつらいのであれば著者のように世間との交流を断ち、ちょこちょこ働きながら慎ましく暮らすという選択肢がある、ということに気づかせてくれる。

世の中にはこんな肩の力を抜いた生活がある、今の生活がつらいときに読むとせめてもの救いになるだろう。

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