第3号 『本の「使い方」 1万冊を血肉にした方法』

著者:出口治明
出版社:KADOKAWA
発行日:2019/6/21

読書とは、真剣勝負なり

この本は74年ぶりとなる内外の保険会社を親会社としない独立系生命保険会社のライフネット生命を旗揚げし、のちに全国初の学長公募で立命館アジア太平洋大学(APU)の学長となった出口治明氏が読書に対する哲学を語った本である。

本を人だと思って読むことを説いた読書法は世に数多い。その中でも氏の徹底ぶりは目を見張るものがある。寝転がって本は読まない、速読はしない、付箋を貼ったりマーカーで線を引いたりしない、などなどである。

本書の特徴は重みのある言葉とユニークな読書論の数々である。先述した通り氏は本を人だと思ってアリストテレスやデカルトと対話するつもりで1ページずつ読み飛ばさずに真剣に読む、という。

これだけ聞いたら速読派の読者は反発するだろう。しかし、氏は初版時の前書きでこのように述べている。

といっても、「本はかくあるべきもの!」「本はこう読め!」などと押し付けるつもりは毛頭ありません。およそ価値観の押し付けほどつまらないものはありません。本の読み方には個性があっていいし、その個性もまた、読書の楽しみ方のひとつだと思うからです。
出口治明『本の「使い方」 1万冊を血肉にした方法』(KADOKAWA・2019年)より

つまり氏は多様な本の読み方を認めたうえで、「でも私ならこう読むよ」と述べているのである。これに反発した方はそれこそこの前書きを速読してしまった人だろう。

また、「付箋を貼ったりマーカーで線を引いたりしない」や「厚い本から読む」、「ベストセラーは読まない」、「解説書より原典を読む」、「冒頭から読む」といった氏の読書論は巷の読書法に対するアンチテーゼと取ることもできよう。

日本のリーダーの教養の浅さや自分の頭で考える能力を最後に身に付ける場であるはずの大学にいる大学生の読書経験が少ないこと、企業が大学生を在学中から採用する青田買いが行われていること、そのせいで大学生が勉強をする機会が奪われていると氏はダメ出ししており、教養の本質を理解している氏ならではの発言が歯切れのよい言葉で飛び出してくる。

この本はスルメのような本である。最初は思想が合わないと感じるかもしれないが、氏のようにじっくりと読み込めば読み込むほどこれには一つの理由があって納得させられ、なかなかに真理を突いている。
多くの本を読み込むことで知識と教養を蓄えた氏の言葉には一字一句に重みがある。1万冊は伊達ではない。

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