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【読書メモ】歴史とは『生きていること』#2

前回の記事では、「生産」という行為について、
生産のプロセスに焦点を当てることで、
動物も人間も実際には変わりはないことをやっているということが書かれていたという記事を書きました。

今回は、インゴルドの「歴史」についての考察をまとめていきます。


2つの歴史

モーリス・ゴドリエは、【動物の歴史】と【人間の歴史】を分けて考えていた。動物の歴史(history)は、動物たち側の意図的活動によって生じたものではない。系統の流れを下るとき、生殖活動の結果生じた偶然の変異と遺伝物質の組み合わせ。生物の個体群において(歴史は)生じるが、生物の個体群によって、(歴史は)生産されたものではない。

それに対し、人間だけが歴史(HISTORY)をもつ。HISTORYは人間の手が自然を改変することによって作られる。

ゴドリエは「生きるために社会を生産すること」が人間にとって重要であるとした。環境に対して、働きかける(行為の設計と目的の策定する)ことで生活の糧という形の報酬を産む行為が社会的関係の源になるという。(行為の設計と目的が先にあり、それに対して自然に対して働きかけるということ??)

自然環境に対する創造的な行為を通して人間は人間と環境との関係のみならず、社会を構成する人間同士の関係にも変化を生じさせるとゴドリエは述べている。

しかし、ゴドリエの考えによると人間は物質世界の中から切り離した存在として考えないと自然環境に対する創造的な関わりはできない。人間は世界の内部であり、物質的な意味として縛られているのは確かであるが、人間は自然の物質性を超えて、間主観的な、社会的な心的現実の領域があり、人間は自らの運命を形作っていくことができるということになる。

それに対しマルクスは、「人間は生きるために社会を生産していない」と否定した。「人間は自分自身を生産し、あるいは互いを生産し合う」と述べた。自らの生活を通して、成長発達するための状況を埋めていくことで、自分と他者を生産し合う。人間は社会を生産するだけでなく、社会生活の発展プロセスを産んでいくものだ。

また、哲学者のオルテガは「人間らしさは絶えず紡いでいくもの」であるとし、
人間が生きるときの唯一の与件は、「何事かをせざるを得ない」ということだけだと述べ、「生は課題である」とした。

マルクスやオルテガによると、人間が何か、何であり得るかはあらかじめ出来上がった状態で手に入らない。絶えず果てしなく、自身をつくり続けないといけない。
それが生きることで、歴史であり、生産の意味すること。そして、それが人間であるということ。

人間が生きていることについて探求することは、

(絶えず動き続ける)世界の可能性のありようを探究することであり、そこに住む人々のアイデンティティは、受け継いだ血筋や文化的属性よりも前にまず成し遂げた生産によって築かれるものである。

ゴドリエのように、「生産を物質世界の改変とみなす」のではなく、世界自体の変化に参加することとするなら、行為を通して、進行しつつある自らの成長と発達を可能にする状況を築くことで、自己と他者を生産するといえる。自己と他者の発達のための状況を相互に築いていくことに歴史の意味があるのではないかとインゴルドはいう。

相互とは人以外の生物にもである。
(農家は畑で作物になる植物の成長のために適した状況を作るように)

「生産」を人間のみの営みであるという枠を外すと、逆に、人間以外の生物が、それぞれの環境で自分達だけでなく、人間の成長発達にも寄与している。私たちは生物世界全体の一部である。人間の社会生活は自然から切り離されたものではない。あらゆる生物がそれぞれの振る舞いを通して、同世代、世代間を跨って、他の生物存在の条件を構成するプロセスである。

生物のかたちがこのようなプロセスから生じる時、「進化的なプロセス」と言われる。しかし、それは有機体のかたちは遺伝子など差異の詰め合わせでなく、成長のプロセスの絶え間ない創発の結果である。

インゴルドは有機体のかたちについて、発達システム理論を人類学に取り入れようとしていた。

発達システム理論とは、

有機体のかたちは、あらかじめ遺伝的にデザインされているのではない。相互に状況を作っていく関係の網の目における発達の結果として創発し続ける。(自らも変化するから?)生は関係性の網の目における生成の連続で、そこで有機体の形が展開し持続する。進化とはこのような展開のことであるだろう。

従来のゴドリエのような歴史の2分法(historyーHISTORYと分ける)ではなく、発達システム理論を用いることで人間の歴史的経験を、あらゆる生物が侵されている発達の動的な網の目の中に位置付け直すことが可能になる。

歴史とは、人間の歴史と動物の歴史の交錯ではない。人間と人間以外の動物が、相互に巻き込み合う、工作が織りなす一つの歴史なのである。

地理学者のトルステンは、環境全ての構成物を「生成変化」の軌道とみなすことで、自然と(人間の?)文化の分断を一つの視野に収められると述べた。時間を通して、共に運動し、互いに出会うことで軌道はもつれあい、巨大な発展し続けるタペストリーを形成するのだ。

タペストリー(英語: tapestry)は、壁掛けなどに使われる室内装飾用の織物の一種。タペストリーは英語で、中期英語ではtapisseryといい、仏語のタピスリ(tapisserie)からきている。製織の技術では日本の綴織(つづれおり、(平織の一種で、太い横糸で縦糸を包み込むことで、縦糸を見えなくして横糸だけで絵柄を表現する織物)に相当するものであり絨毯を作る要領で製作される。最盛期は中世末期であり、現在では、ゴブラン織とも呼ばれる。

wikipedia

人類学とは、世界という織り物の中で繰り広げられていく人間の「生成変化」を探求していくことである。

人間によって作られたものでも、人間のために作られてものでもなく、「織り成されたものとしての歴史、進化、社会生活であるという見方」が、次の「住まうこと」への関心へ続いていくのであると述べている。

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