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未明ライナーノーツ⑦「残月と夜の輪郭」

https://open.spotify.com/intl-ja/album/1ZTBIoMaUmEYVoImJHHmeS?si=6-KfuysyQ1inbANnfvSP9g

これは2024年の年始に実家の自室でギター以外のベーシックを作った記憶がある。種明かしをすると、「李徴meetsマイケル」。中島敦の「山月記」とマイケル・ジャクソンのアルバム「スリラー」の世界観・音像を結びつけて作った曲。空間を埋めるような不穏なパッドの音が、夜霧を想起させる。DTMはついつい音を重ねがちになってしまうのだが、この曲はそのギリギリのラインを狙ったのだがどうだろうか。

https://youtu.be/ZEHsIcsjtdI?si=78bnEE_e3sTqkNAI

https://youtu.be/OZGtRvYF-A4?si=M7tGdWRT3LFDB00O

実はそれまで、マイケル・ジャクソンをちゃんと聴いたことがなく。「スリラー」は世界で最も売れたアルバムと言われているが、自分にとってはとてつもなく新鮮で、ギタリストとしてかなり勉強になる盤だ。「ビリー・ジーン」の、おそらくライン直で録ってそうなあの「ポコポコ」としたカッティングとかめちゃくちゃかっこいい。「残月〜」でのギターもDAW上のアンプは通さず、ライン直で録音。単音カッティングのフレーズは何回も弾いて吟味。特にサビの裏で弾いているギターフレーズは気に入っている。当初はコード進行はそのままに、もっとメロウかつエレクトロな歌モノにする予定だった。ただ、アルバム候補曲のラインナップを並べてみたときに、もっと生々しい質感が欲しかった。それが出発点になり、この「残月〜」と「太陽」を制作することになった。図らずも月と太陽が対になって…。

歌詞はかなり内省的。挙句全て自分に返ってくるような言葉ばかり。アルバム「未明」の各トラックは、個人的にあらゆる自己ベストを出している楽曲ばかり。旧作をはるかに上回る完成度・充実度であるが、きっと誰にも届かない。裏ではそういった諦念もある。

「チャイナブルー・スカイライン」や「ベイサイド・ラヴァー」が陽の曲だとすれば、これはひたすら陰。他の陰の曲(「未明-カタルニオチル-」「北京オペラのマスキングテープ」)は、陰が何周もしてポップになったり、シュールさを醸し出したり。

言ってしまえば、自分こそが「山月記」の李徴のようなもので。旧友たちとの交わりを絶って、肥大していく自尊心とひとりで闘いながら創作して。でもそれも他人の目や耳からすれば、何か足りなくて。また自尊心と闘いながら、の繰り返し。あの話のラストみたいに、醜さを気高さに昇華できるはずもなく。30歳を超えると、下の世代・年代からの突き上げもあるし、自分の人生の天井を叩いてしまったような気さえする。

田舎町に生まれて、そこから出ようと受験を頑張って、挙句出られず、他人の顔色伺ってはいつの間にか自分の人生が他人にコントロールされ…。
そんな最中、劇団・コントユニットを始めようとした。組んでは崩れ、組んでは崩れを繰り返す。空回り続ける。公演に向けて一緒に進めていた人間が突如音信不通になって、公演自体がポシャったこともある。(しかもその公演予定日に、そいつが自分の劇団の公演を入れていた。その劇団はまだ続いているみたいだね。)自分の力だけではどうにもならないことばかりだ。
「あなたにはカッコいいままでいて欲しかった」と言って離れていった昔の仲間もいる。人間的に未熟で、何者にもなれなかった自分の不甲斐なさから、自ら仲間からも距離を置いた。やがて一切のお笑い、演劇への接触もやめる。クソの役にも立たないネタ帳は、ジメついた部屋のどこか。エンタメ系のニュースを見るのが毎日心苦しくてならない。実力、運、縁全て兼ね備えた人がその道ど真ん中を生きていける。自分にはその全てが足りなかったと言うこと。

もうこの先大したことをなさないまま歳を重ねていくだけか。出来ることなら、20代までの人生を全て無かったことにしたい。人生において一番気力や体力、鋭い眼光のあった20代を無駄に過ごしてしまった。もっと言うと、生まれないほうが…と。どこまで生きても、自分の人生を肯定できない。何者かになれたら自信を持って昔の仲間たちに会いに行けるだろうか。例えば自分が死んだと言うニュースが入ったら、あなたが好きな曲をBGMに、そっと思い出してほしい。出来るだけ楽しかった頃の思い出をありったけ思い出してよね。

サビで繰り返しているコーラスは中国語。「烧掉你的诗 残月的光下」。
お前の詩を焼き捨てろ、残月の明かりの下で。

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