農業機械メーカーが挑戦する農機の電動化とは
全世界で当たり前になってきている「SDGs」。
持続可能な社会づくりへの取り組みは、農業の分野も例外ではありません。
2021年に農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」は化学農薬・化学肥料の低減や、有機農業の拡大など、環境負荷を削減する取り組みを推奨しています。
また「みどりの食料システム法」が施行され、新たに短期目標として2030年までに、電動草刈機、自動操舵システムの導入を促しており、化石燃料使用量の削減を目指しています。
これを受けて、農業業界でも電動化や省力化が進んでいます。ORECでも2022年6月に、電動機能を兼ね備えたハイブリッド式のラジコン草刈機「スパイダーモアーRC」を発売しました。
今回はORECで電動化のリーダーとして12年前から開発に取り組んできた大城さんに、ORECにおける電動化の話と未来の展望を聞きました。
ORECの電動機械、第一号ができるまで
ガソリンを使わない電動製品を開発するプロジェクトが立ち上がったのは2010年ごろ。しかし当時は社内に電気系に詳しい人材はいませんでした。ちょうどその時期に入社したのが、大学でパワーエレクトロニクス(電気系)を専攻していた大城さん。入社すぐに新プロジェクトの中核メンバーとして奮闘することになりました。
「まず取り組んだのは家庭菜園に適した小型の耕うん機でした。他社も一斉に開発していた時期だったので、差別化させる為に女性や高齢者でも使いやすいように、耕うん作業に最適な電子制御基板を業界初で搭載しました。
深く耕す際に大きな石などで負荷がかかると自動で停止する制御機能や、ワンタッチでバックする機能を開発しましたが、この機能を搭載するのが一番難しかったです。
苦労したものの、バッテリーの持ちが想定よりも短時間だったり、当然ですがエンジン式と比べると、パワー不足だったり、電動ならではの課題が残りました。」
しかし、課題に直面したことが本格的に電動制御グループが発足するきっかけとなります。のちに、高専専攻科で知覚情報処理(情報系)を専攻していた下窪竜さんが新卒入社したタイミングで、「電動制御グループを作らせてください」と大城さんが上司に直談判、2012年7月から正式に二人で動き出すことに。
二人で初めて開発した製品は、2015年に発売した「電動除雪機 MX50A」。
この開発で先に述べた課題が活かされます。
「電動除雪機も小型耕うん機同様、オリジナリティ溢れる製品にするため、アタッチメントを取り付ければ耕うん機、草刈機としても使えるようにしようと考えました。」
2年の歳月を経て、手作り試作機も出来上がり、量産試作の日を迎えました。しかし、いざ工場で組み立てると、なんと10台中10台、アタッチメントが上手くはまらなかったのです。
「その日は夜遅くまで、メンバーと原因追及をしました。結局、ドッキングする部分のフレームが溶接段階で歪んでいたのが原因だったのですが、工場メンバーの協力のおかげで何とか乗り越えることができました。」
スマート農業の難しさと課題
それからも、次々に電動製品の開発に携わってきた大城さんですが、実際に販売につながらなかった製品もあると言います。
「2018年の『下町ロケット -ゴースト-/-ヤタガラス-』というドラマで、スマート農業を題材にしたシーンが話題になり、その影響で国内の農機販売店からも自動化や電動化について、よく聞かれるようになりました。」
その当時、電動制御グループでも海外からの需要を受け、ラジコン式の乗用草刈機『ラビットモアー』を開発していましたが、販売価格と機能が見合わなくなり、商品化を見送ることに・・・。
しかし、この乗用型のラジコン草刈機の開発で得た経験こそが「スパイダーモアーRC」の実現につながります。各部の機構をモーターで動かすことや、それらの制御法などを検証していたことが役立ったのです。
「私は現場で開発する立場ではなくなりましたが、『スパイダーモアーRC』の開発はグループメンバーが頑張ってくれたおかげだと感じています。これからもメンバーには社内で足りない知識は積極的に社外へ学びに行き、そこで学んだことを社内で共有し、全体の開発レベルを上げていって欲しいです。」
また2020年5月からオープンイノベーションの取り組みである「My-IoTコンソーシアム」に参画し、九州大学、NEC等と共に自動走行草刈機の開発を行っています。
「My IoTでは、技術マッチングと社内の技術者が習得しやすい開発プラットフォームが揃っていたため、2019年に参入を決意しました。
トラクターや田植え機などの大型機械では自動運転技術が実用化されていますが、草刈機の自動化には課題が山積しているのが現状です。
草刈機の場合、斜面や果樹園など、さまざまな圃場で使用することが想定されます。
地形や枝下、作物などの上空方向の障害物が多く、GPS信号の受信環境が悪くなるため、それを補完する自動運転システムが求められます。」
自動運転には周辺情報を検知する各種センサーの特徴や自動走行アルゴリズムのノウハウなどが必要な為、一社だけでは限界がありましたが、プロジェクトに参画し他社と協業することで開発が加速したのです。
自動走行草刈機は2023年頃までに一般販売し、お客様にお届けすることを目標に開発を進めています。
ORECが目指す未来
「自動走行草刈機が完成しても、まだまだ刈払機で草刈りをしないといけない作業場はたくさんあります。
急斜面や足の踏み場がない場所でも草刈りができるような機械の開発に力を入れていきたいと思います。
例えば、車輪やクローラーで踏み入れることが出来ない箇所にどうやってアプローチするかと考えた時、電動制御グループのノウハウが活きてくるのでは」と、大城さんは語ります。
さらに「有機農法を拡げるためには草刈機だけでなく、病原菌や害虫などに効果のある製品開発も必要だと考えています。そういった製品は今の業界以外でも活用が可能となりますから」と農業分野以外でも貢献していく将来を見据えていました。
持続可能な農業を実現するために、ORECは農業機械という枠を越え、挑戦を続けています。