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新米農家がベテランに直撃。教えてください!農業のはじめの一歩

農業を始めたばかりでは特に、さまざまな問題にぶつかるものです。地元の産業をいかした仕事をしたいこと、おじいちゃんとおばあちゃんがしてきたことを残したいという思いから農業に携わるようになった黒沼友実さんも目下、困難に直面しています。ORECユーザーでもあり、同じ山形県在住のお米づくりのベテラン、浦田英明さんと初対面し、今抱える悩みのアレコレを相談しました。愛妻家でもある浦田さん。取材当日は不在だった奥さんとのエピソードもたくさん飛び出して、初心者の黒沼さんには大きな学びとなる対談となったようです。

浦田うらた英明ひであきさん
農業大学卒業後、アメリカ・カリフォルニアに渡り、現地の生産法人に勤務。帰国後、就農し、現在は奥さんとの二人三脚で無農薬や減農薬の米や枝豆、モチトウモロコシなどを生産している。お米の食味コンクールで国際大会で二年連続入賞。山形県川西町在住。

黒沼くろぬま友実ともみさん
大学で地域計画学を学ぶ。卒業後、実家の祖父母が稲作をしていたこともあり、農業に関心を持つように。今は野菜の販売もしているが今後、より本格的に取り組むにはどうしたら良いか、悩み中。山形県村山市在住。

最初に挑戦する野菜は何がおすすめですか?

黒沼:本日はよろしくお願いします。
浦田:いいよ、なんでも聞いて。
黒沼:早速ですが浦田さんが米や豆を作るようになったきっかけは何でしたか。何を作っていいのか、迷います。
浦田:話せば長くなるんだけど(笑)、すっ飛ばして話します。大学で有機農業を勉強させてくれるサークルに入って、卒業後にカリフォルニアに渡ったのね。割と極端な人工環境での生産を体験したんだけど、そこでトマトとイチゴならどこでもできるということを知ったわけです。
黒沼:なるほど。
浦田:本来、一番いいのは土地の特産物よ。世間やつきあいも広がるし。
黒沼:そうなんですね。
浦田:でも約30年前の当時、地元の市場に行ってみたら、ちょうど松茸の最盛期。それは作れないと。ましてや新規就農の”し”の字もない時代でしょう。それで自分でトマトとイチゴをやろうとなった。
黒沼:そこからはどんな風に。
浦田:トマトは大成功と大失敗しやすい野菜なのよ。露地栽培で美味しいのができてたんだけど、雨が降ると全てさよならとなる。
黒沼:まさか実割れして・・・。
浦田:そう。売れなくて家で保管してたら、家中が売れないトマトの山で真っ赤になった。これじゃ生活できないと奥さんに怒られちゃって。そこで違うものに変えていったの。ずっとやってるとね、まわりが見ていてくれるの。腰掛けか本気か、やるかやらないかってのをね。そこ、重要だよ。
黒沼:はい、メモします。
浦田:そうすると土地が寄ってくるの。ここがいいからやらないかっていう話が。
黒沼:そうなんですね。
浦田:最初は山の畑地やいらない土地なのね。でもそれをやってるとだんだんと田んぼが集まってくるんだよ。田んぼってここらの農家のなかでは一番の信用の塊だよね。そして田んぼが集まりだすと機械もそろいだす。面積も増えていくから次に機械を活用してラクにできるものがないか、ストックできるものはないかと考えて、米と枝豆にたどり着いたのよ。枝豆は地域の特産物でもあるしね。

浦田さんが栽培されている有機秘伝枝豆。

黒沼:葉物はストックできないですね。
浦田:そうだね。すると野菜はないじゃんと思うでしょ?
黒沼:はい。
浦田:じゃがいもがある。
黒沼:芋ですね。
浦田:芋系じゃなくてじゃがいも。さつまいもは10〜20℃で保管しないともたない。里芋は保存が難しい。じゃがいもは転がしておいても大丈夫。しかも作った分だけ買う大手の業者もいるからね。
黒沼:聞いたことがあります。
浦田:うちに研修にくる人たちにはじゃがいもかニワトリをすすめているよ。
黒沼:ニワトリは苦手なんですよ。
浦田:苦手ならいいんだけど(笑)。ニワトリは毎日見なくちゃいけないから。すごく観察力がつくの。しかも卵はすぐお金になる。さらに売って歩くことでお客が増えて、あなたを知っている人が増えるんだ。ちょっとだけカゴに菜っ葉とかのっけておけば、それなに?となる。すると全部売れるから。
黒沼:野菜は今、売っていますがついついサービス過剰になります(笑)。浦田:それは普通(笑)。

黒沼さんが栽培された野菜

スケジュールの上手な立て方がわかりません

黒沼:計画の立て方が苦手なんです。時間配分というか。畑作業や配達の時間をどう組み立てていったらいいか。
浦田:もしかして作業を飽きずにずっとやれる人なんだ。
黒沼:収穫をひたすら4時間とかやれます。
浦田:(拍手)いいじゃん。一番の財産だよ。
黒沼:そうでしょうか。
浦田:それならタイムスケジュールは簡単だよ。飽きないで続けられるのは何時間かということと、欲しい成果を考える。あとは行動パターンを書き出して時間の使い方をあてはめていけばOK。(時間のやりくりについては)技術の問題もあるけど、技術なんてそう簡単に身につかないから。
黒沼:はい…。
浦田:そう認めてハードルを下げるのも大事。一番は畑にいることだね。畑にいないことには技術は付かない。技術というのは自分なりのやり方でできることが技術なのよ。うちの奥さんは人に伝えられて再現性があるものが技術だというんだ。俺は快適にやって、またやりたいなと思うのが技術だと思っていて、どうしたら畑やニワトリとのコミュニケーションが快適にとれるか。それを探すのが技術だと思ってる。だから俺は技術がない、と言われるんだけどね(笑)。
黒沼:なるほど。技術といえば今は情報がたくさんあって揺らぐのも悩みです。
浦田:いいんだよ、揺れれば。できそうならどんどんやればいい。考え方が大きかったり、初期費用が大きいのは注意したほうがいいけどね。

黒沼さんがORECのスパイダーモアーを使用し、草刈作業をしている様子。

自分の玉ねぎの芯を見つけるとは?

浦田:そういえば、事前に電話で話したとき、心が折れたって言ってたね。黒沼:じいちゃんばあちゃんに、農業は失敗するからやめておけと言われて。それを聞くと、やんだぐなるんです(嫌になるという意味の方言)。
浦田:可愛がられてるから言われるんだよ。何が好き?ウキウキすること。黒沼:収穫しているときは楽しいです。
浦田:農業に限らなければ?
黒沼:いろんなことを知るのが好きです。本を読んだり、今日みたいにお話を伺ったり。
浦田:折れそうなときは、農業と関係ない好きなことをして、頭をいっかい休ませるといいよ。
黒沼:1回リセットするんですね。
浦田:それが5分じゃなくて1時間、2時間もかけちゃうと、なんだか悪い気するでしょ?
黒沼:はい。
浦田:でも大丈夫。人生は長いから。それよりもグットなイメージをもつこと。あなたに一番伝えたかったのは、なぜ有機農業をしたいのか、なぜ好きかをいっぱい考えるといいということ。もっと言うとなんで農業したいのかなというのもね。玉ねぎの芯があるはずなんだよ。
黒沼:玉ねぎの芯。
浦田:俺と嫁さんって面白いんだよ。俺はね、畑や田んぼに立ってりゃそれで満足なんだよ。作物とか虫とかあいつらと対峙しているだけで満足。あいつらって総合的なものじゃない?俺たちはこれっぽっちで、そのなかで草刈りとかして参加してる。ああ、今、でっかい何かの中に俺がいる。ああ俺も幸せ、みたいな。これが俺の玉ねぎの芯。うちの奥さんはそれが人の中。人とコミュニケーションをとって、手の中のものをいろんな人に紹介して喜んでもらうのが楽しい。それが彼女の玉ねぎの芯なの。あなたにもきっとあるから、どんなときに自分が輝いているかなと考えるといいよ。何かのときにも立ち戻れる場所にもなるから。

浦田さんご夫婦が作業をされている様子

前例がないことをやってもいいですか?

黒沼:前例があまりないことをしたことありますか?
浦田:むしろそれしかない(笑)。
黒沼:情報がなく、ましてや見込みもあまりない。そんなときどうしますか?
浦田:まず不安の原因を探す。何が不安なのか。なんでそう思ったのか。なぜやりたいのか。原因がわからなくても一晩寝てやりたかったらやればいい。
黒沼:農家とは離れるんですが父が趣味でヤマメの養殖をしていて、そこで釣り堀をしたいとずっと考えてまして。一からするにはどうしたらいいんだろうと。ただ親の説得が…。
浦田:(拍手)すばらしいぞ、俺の300年先を行っている(笑)。それはあなたの個性よ。立派。
黒沼:農業に入ったきっかけも地域で産業がしたいってことだったんです。
浦田:黒沼さんは今よりもっと入り込んで大丈夫。私はこんなにだめなんて言ってないで。ヤマメだっていいと思うよ。自分は何かってことを常にブラッシュアップして、本質を見失わなければいいから。自分の好きなことをやっているんだから幸せでいるべきなんだよ。
黒沼:実は今日まで自分のことを農家といっていいのか自信がありませんでした。
浦田:私は農家だ、と言う限り農家。自分の気持ちの問題だから。
黒沼:今日は勉強になりました。ありがとうございました。

【編集後記】
黒沼さんと浦田さんが直接会うのは、このときが初めて。取材の数日前に、オンラインで顔合わせをしていたおかげもあり、二人は会ってすぐ農業の話で盛り上がっていました。浦田さんのようなベテラン農家さんの存在は、就農して間もない農家さんにとっては有難い存在です。実はこの対談、ORECの仙台営業所の営業担当者がとりもった縁で実現しました。これからも何らかの形で農業の輪を広げるお手伝いができたらいいなと感じました。

■浦田農園 HP

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