見出し画像

追憶

少女は歌うことが好きだった。
細い腕、色白の肌、やせこけた頬。
そこから考えられないような澄み切った美声。
低くつやのあるその声は多くの人を魅了した。

少女のそばには決まってロボットが控えていた。
きしむ関節、武骨なボディ、まぶしく光るセンサー。
そんな外見でも彼のライブ演出は特別だった。
遠く響く少女の歌が人々を魅了する様を彼は残さず記録した。

その様子はSNSで拡散され、初めてのライブが開催される。
「ここまでこれたのはあなたのおかげ、ありがとう」
ロボットの背中に回されたその腕は木の枝のように細く青白い。
少女は抱擁を解くと光るステージへと走っていった。

とある博物館に一体のロボットが展示されている。
彼にリクエストをすると、ある少女の歌がきけるのだという。
そして、それを聞いた人々は口をそろえて言うのだ。
その歌の間、ロボットが泣いているように見えるのだと。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?