見出し画像

G.A. ヘンティの歴史小説 Won by the Sword: A Story of the Thirty Years War

管理人の勝手訳タイトル 「剣の勝利:ある三十年戦争の物語

Project Gutenberg の無料パブリックドメイン

著者: G. A. Henty
出版社: -
ページ数: 300p前後
発行年月: 1900年

G.A. ヘンティの小説の概要については「まとめ」ページへ。

あらすじ

主人公はヘクター少年。父親がラ・ロシェルで戦死したスコットランド人将校で、フランス軍スコットランド連隊内で育った孤児という設定です。そのため本人にとっては故郷スコットランドは見知らぬ土地で、「フランスのため」に戦うことにとりあえず違和感はありません。

導入部は他作のだらだら感に比べて非常にシンプル。だけに唐突。ヘクターはいきなりテュレンヌに副官として雇われることになります。彼にイタリア語の能力を求めたテュレンヌに応じるため、ヘクターはフランス語とイタリア語を話せるサヴォイア人従者のパオロを雇うことにしました。同じ年頃でウマの合うパオロは、今後すべての冒険を共にする忠実な従者になることになります。

ちょうどこの時はサヴォイア公妃(ルイ十三世王妹)対サヴォイア公弟たちによるピエモンテ内戦の最中です。まずはトリノ攻囲戦での働きの功として、ヘクターはテュレンヌから中隊長の地位を与えられます。

リシュリュー枢機卿とルイ十三世が相次いで死去し、マザラン枢機卿の世になりました。兄ブイヨン公が陰謀の失敗により失脚していたこともあり、今後自分にあまり重要な戦線がまかされなくなるかもしれないと危惧したテュレンヌは、アンギャン公(のちの大コンデ公)のもとで軍事経験を積ませようとヘクターを彼の元へ派遣しました。ヘクターはここでもパオロとともに斥候を成功させ、ロクロワの戦いでフランスの勝利に貢献します。今度はこの功によって、ヘクターはアンギャン公から連隊長の地位を与えられました。大貴族でもない十代の少年がまず与えられることの無い地位です。

さらにこの功績は宮廷をも動かし、ヘクターはマザランと王太后の信頼を得て、ド・ラ=ヴィラール男爵のタイトルと領地を与えられました。連隊長として自らに所属するポワトゥ連隊も新規に徴募されることになります。また、ヘクターはマザランに対する陰謀を未然に防ぎ、さらに彼からの信頼を高めます。

この後、フライブルクの戦い、メルゲントハイムの戦い、第二次ネルトリンゲンの戦いなど、テュレンヌ・アンギャン公対バイエルンのメルシー将軍の戦いが相次いで描かれますが、ヘクター自身はその合間合間に独自の冒険を続けます。フライブルクの戦いの後と第二次ネルトリンゲンの戦いの後、二度に渡り領地で農民の反乱が起こり、その対処に追われます。メルゲントハイムの戦いの直前には、ヘクターは敵の捕虜となり、パオロの助けを得て脱獄したりもしています。

1646年になり、パリでは再度マザラン暗殺が企まれていました。ヘクターはまたこれを阻止しますが、このような度重なる活躍に反マザラン派で王族のヴァンドーム公・ボーフォール公(アンリ四世の庶子セザールとその次男フランソワ)の怒りを買うところとなりました。シュヴルーズ夫人の警告どおり、ヘクターに刺客が送られました。ヘクターは決闘でこの刺客を殺害し、ヴァンドーム公らの怒りに火を注いでしまいます――。ここでだいたい20章まで。

もくじ

  1. A Stroke of Good Fortune

  2. Choosing a Lackey

  3. The First Battle

  4. Success

  5. The Relief of the Citadel

  6. A Change of Scene

  7. The Duc D'Enghien

  8. Rocroi

  9. Honours

  10. An Estate and Title

  11. The Castle of La Villar

  12. The Poitou Regiment

  13. The Battles of Freiburg

  14. Just in Time

  15. The Battle of Marienthal

  16. An Escape

  17. A Robber's Den

  18. Nordlingen

  19. The Peasants' Revolt

  20. An Old Score

  21. The Duke's Revenge

読書メモ

5冊のうち、最も最後に書かれたもの。著者自身、三十年戦争前半にあたる「北方の獅子」を書いたときに、後半を舞台にしたものを書きたいと語っていましたが、そのせいもあるのか、内容の細かい部分にも酷似している箇所(塔内での戦闘や農民兵の襲撃など)が多いです。

しかし同時に最も荒唐無稽な作品ともいえます。主人公ヘクター少年本人も会う人ごとに何度も「fortunate」と説明していますが、それにしても、最初の雇われかたといい、その後命令ではなく独断で偵察を成功させたことによって昇進するなど、個人的には「fortunate」では済まない感が半端無いです。それがラストにつながるといわれればそれまでですが…。

そして女性関係は最も希薄。当時のフランスの退廃的な雰囲気に反して、ヘクターは女嫌いかと思うほどに女性を拒否しています。「テュレンヌが2人居るようだわ」とご婦人方に笑われるほど。お約束の男爵令嬢は登場時期も遅く、接点もほとんど無いため、ラストの結婚も単なるテンプレート以上の何者にも見えません。

テュレンヌとコンデ公は比較的その性格が書き分けられています。マザランはやや一般的な像から外れていて、こんなに気前の良いマザランはめずらしいです(笑)。

他にヘンティの小説4件についての記事書いてます。

この記事が参加している募集

歴史小説が好き

サポートいただいた費用は、おもに本館『金獅子亭』サーバ・ドメイン維持管理費用や、関連書籍の購入に充当いたします。