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G.A. ヘンティの歴史小説 By Pike and Dyke: A Tale of the Rise of the Dutch Republic

管理人の勝手訳タイトル 「長槍と堤防:オランダ共和国勃興の物語

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著者: G. A. Henty
出版社: -
ページ数: 300p前後
発行年月: 1890年

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あらすじ

「パイク&ショット」というフレーズも意識した、韻がちょっとかっこいいタイトル。(なので日本語訳するとイマイチ)。主人公はオランイェ公ウィレム一世の使者として雇われたエドワード(ネッド)・マーティン少年。貿易船「グッド・ベンチャー」号の船長であるイングランド人の息子で、母親はオランダ人、本人は英語・蘭語をネイティブとして話すことのできるハーフという設定です。

導入部のストーリー運びは無理がない作品です。何より、家族や父親ウイリアム・マーティンの存在が大きく、彼の行動の基準となる動機も自然です。最初の1/4くらいは、父ウィリアムの話として進みます。父と一緒に反乱真っ最中のオランダの祖父や伯父たち(母の父と兄弟)を訪ねたネッドは、彼らがスペインの「血の法廷」の犠牲となって皆殺しにされてしまったことを知ります。父ウィリアムはその復讐としてスペイン船団と戦い勝利しますが、片足を失う大怪我をしてしまいました。義勇心に駆られたネッドは、2-3年だけという約束でオランイェ公ウィレムへの紹介状をもらい、反乱に身を投じることにします。

とはいっても、何も武器をとって戦うというわけではなく、「女性や子供などの弱者を救いたい」というのが彼の動機です。そのため、オランイェ公のもとでも兵士としてではなく、個人的な従者として雇われ、まずはブリュッセルにいる同志たちへ書簡を届けるという仕事を与えられます。

その途中、「血の法廷」でも最も残忍といわれるファン・アールト(架空人物)とその部下「細目の男」に疑いをかけられ、捕らわれの身となります。 ブリュッセルからの脱出、その後の逃避行にかなりのページ数が割かれます。ブリュッセルで密かに亡命生活をしている未亡人フォン・ハルプ伯爵夫人母娘の助力も受け、最終的に「細目の男」を倒して無事にオランイェ公のもとに戻ったネッドは、オランイェ公の信頼を得ることになりました。

その後ネッドは、ハールレム攻囲戦、アルクマール攻囲戦、義足を着け船に乗れるようになった父ウィリアムとともにゾイデル海海戦やレイメルスワール海戦を転戦します。 実はこの辺あたりまでが物語のおもしろいところで、この後1/4はなんだか駆け足で話が進んでいきます。

レイデン攻囲戦の最中、熱病に罹ったネッドはいったん故郷のイングランドに帰国します。半年ほど後に病の癒えたネッドは、ウォルシンガム卿の計らいで今度はエリザベス女王の使者の役目を打診されます。父のウィリアムはネッドがこのまま船の仕事を継いでくれないのではないかと危惧しますが、ネッドはまたもや2-3年との約束で、女王の任務に就くことになりました――。ここでだいたい19章まで。

もくじ

  1. The "Good Venture"

  2. Terrible News

  3. A Fight With the Spaniards

  4. Wounded

  5. Ned's Resolve

  6. The Prince of Orange

  7. A Dangerous Mission

  8. In the Hands of the Blood-Council

  9. In Hiding

  10. A Dangerous Encounter

  11. Saving a Victim

  12. Back with the Prince

  13. The Siege of Haarlem

  14. The Fall of Haarlem

  15. Ned Receives Promotion

  16. Friends in Trouble

  17. A Rescue

  18. The Siege of Leyden

  19. In the Queen's Service

  20. The "Spanish Fury"

  21. The Siege of Antwerp

読書メモ

アマゾン版の画像がオリジナル表紙。

導入部の動機が自然なことから感情移入はできるものの、実はラストに疑問を感じざるを得ず、読後感があまり良くない作品でした。最終章の「アントウェルペン攻囲戦」は、ネッドも2回くらい名前が出る程度の史実のみの章で、完全におまけというか正直いって蛇足です。書いている途中に、次作への構想のほうが勝っちゃったのかな、と邪推するほど。

作品全体を通しても、章立てごとの内容の良し悪しにムラがあり、中間部分だけをとってみれば文句無く良かっただけに残念です。それでも、『三銃士』のローシュフォール侯よろしく「敵」としての個体である「細目の男」が出てくるのは良い。もっとも彼には比較的早い段階でリベンジできてしまうため、もうちょっと引っ張っても良かったかなとも思いますが。

この作品のいちばんの山場といえるネッドの演説がカッコ良かったので、適当に訳して載せておきます。徹底抗戦せよというオランイェ公の意向をアルクマール市庁舎前で民衆たちに伝えたネッドに、市長が「協議するから1時間待ってほしい」といった際に答えたものです。元ネタはレイデン攻囲戦時の市長リッペルダの演説かな?

「市民諸君に訴えたい。今や協議が何の役に立つと? 既にあなた方はアルバに抗戦する意志を示したのでは? 既にスペイン軍は行軍1日の距離に居るのでは? あなた方が国に、そしてオランイェ公に対する反逆者となって、アルバに城門を開けたとしても、今さら救われると思うのか? 恭順はナールデンを救ったか? 考えてもみよ、降伏することで一体何人が略奪を免れ得るか? そしてそんな生き方に何の価値があると? 危機の迫った街で何もしなかったと、アルバが行軍4日も離れていたときばかり威勢良く、スペイン軍旗が翻るのを見た途端に子供のように震え上がったと、ホラント中の人々の非難と嘲笑の的にされて生きていくのか? もう一度訴えよう、いまは躊躇や協議の時か? そして問おう、オランイェ公の名において、あなた方は真の男か否か? オランイェか、アルバか? 回答せよ!」

By Pike and Dyke: A Tale of the Rise of the Dutch Republic

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