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Ryuichi Sakamoto: CODA レビュー

予告編を観て東日本大震災、津波、反原発活動に焦点が当てられ、坂本さんの紡ぐ音や音楽以外にあまり興味を持てずに来た私にとって戸惑いもあったのだけど、観てよかった。本当に。

坂本さんは長いキャリアの中で、非常に豊かなバックボーンを持つ作品を聴かせてくれる。ふりかえると、オリエンタル/エスニック/ボサ・ノヴァ/オーケストラ/オペラ/フュージョン/ピアノ・ソロ or トリオといった過去の作品群にはあまり愛着を感じなかった(むしろ苦手ですらある)反面、ノイズ/アヴァンギャルド/電子音楽/現代音楽といった抽象度が高い作品群がとても好きだ。前者に感じてしまう巧みさに比べて、後者が持つ偶然性により惹かれるからだと自分では思っている。

2017年にリリースされた「async」は、前作「out of noise」(2009年)の世界からさらに新境地を拓いた後者の代表的な作品で、自分にとって非常に印象深いものとなった。個々の音や「鳴り」「響き」の存在感たるや、何度聴いても飽きないし、特に屋外で聴くと自然音やノイズと混じり合って風景や気配を一変させる。

映画は、冒頭の予告編からの想像を裏切り、「async」の制作を通じて音や音の連なりとしての音楽を手繰りよせる坂本さんの試行錯誤の様子が写し取られていた。雨音や氷河の溶ける音、モノとしてのピアノが出した音/出た音、アナログシンセサイザーのフィルターから発された音に耳を澄ませ、非同期な音の断片を音楽として聴かせる(同期させる)ギリギリのバランスを踏み外さないよう、耳を澄ませながら制作が進められていく。坂本さんが「あまりに好きすぎて、 誰にも聴かせたくない」様子は映像から伝わってくる。「いい音だねぇ」とニッコリする彼の無邪気な笑顔が印象的で、いつまでも作っていたい、作り終えたくないという想いが伝わってくる。5年間坂本さんに寄り添ったスティーブン・ノムラ・シブル監督による、温かで優しい眼差しを感じる映画だった。

asyncが坂本さんにとっての最終楽章(CODA)の始まりだったとしても、まだまだ最終楽章は続きそうだ。

Top Image : Rodrigo Gallegos Pinto / Flickr / Creative Commons


※この記事は、noteの使い方を知る習作として書いてみました。

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