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誰もいない東京

東京の街から人混みが消えて、ひっそりしている様子をニュースで見ていると、中野正貴さんの『TOKYO NOBODY』という作品を思い出した。


誰もいないであろう早朝などに出かけて、フレームから人がいなくなる瞬間を辛抱強く待ち、いなくなった瞬間を狙って撮る、という撮影方法を作者のインタビュー記事で見かけたことがあって、どうしても都会は人が多く、清掃員の方や通行人が入り込んでしまって大変だった、と撮影の裏話がとても興味深かった。

この写真集が発売されたのが2000年。ちょうど20年前。私がこの写真集をたまたま手に取ったのが初めての海外旅行でフランスに行った時、ポンピドゥセンターの中にある本屋さんだった。旅先で、しかも遠い海外からこの写真集を眺めると日本にいる時と見え方が違ってくるというか、新鮮に東京の風景が見えてきたことを覚えている。東京に住んでいると有益で(有害な)情報が沢山入ってきてしまうけれど、遠くの国から日本を眺めると余計なノイズが入らずにクリアに東京が見えてくる(こともある)かもしれないと思った。

私は当時、絵画を見たり描いたりすることが好きだったけれど、少し行き詰まっていたというか、もう少し視野を広げたい気持ちもあって写真を撮ったりしていた。会社を辞めて思いつきでフランスに来てみたものの、長時間の移動と時差、初めての海外旅行でかなりびびっていたし、中世の美しい街並を見てタイムスリップしてしまったような気持ちになり、「ちゃんと日本に帰って来られるのだろうか」と不安な気持ちでいっぱいになった。

あれから度々気分転換の為に海外へ行くようになったけれど、行く度に日本を実感させられるというか、日本について考えてしまう。タクシーのドライバーさんと『あなたはどこから来たの?』「日本ですよ。」『この車はTOYOTAだよ。』などと会話したり、街を歩いていても日本食レストランに目が留まったり、本屋さんで沢山の日本のマンガが並んでいるのを見つけてしまう。海外の中の日本を無意識で探してしまう。

海外で日本庭園や浮世絵などをたまたま通りがかりに見たことがあったけれど、ないはずのものがそこにあったり、またあるはずのものがそこにないと、改めてそのこと(もの)について深く感じたり考えたりするきっかけになる。

旅行は色々なメリットとデメリットがあるけれど、いつものものの見方、考え方、捉え方がリセットされて頭の中がクリアになるというか、色々とリフレッシュできる感じがする。今はどこにも行けないけれど、20年前とはまた違った視点でこの写真集を見て色々と考えることができた。



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