【詩】誰かのささやき
「もう土木草にでもなりたい」
芽吹くところがきっとある
「もう動けない」
そっと寄りかかるといい
「もう我慢できない」
曝け出せばいい
「もうだめかもしれない」
忘れるといい
時が教えてくれる
「もっと愛されたい」
愛してみたい
「もう消えてなくなりたい」
* * *
日没時間16時30分
彼らは車を海に走らせた
高速の一番右側を
赤い光の軌道だけ残して
目的地より少し遠くに見つけた駐車場には
くたびれた太陽と海が広がっていた
彼らはうっとりする間もなく浜を歩きだし
収まりのいい堤防に腰掛けた
彼はすっかり彼女と手を繋ぎそうな距離で
風前の灯といったところだ
消えていく姿を見届けるはずだった
彼は隠れたっきり一向に出てこようとしない
何かに包まれてもごもごしている
温もりが廊下の光のように水面に差し込んでいた
残念そうにしていると一人の少女が現れた
片手にはシロツメクサの花束を握っていた
「こんにちは」
現在時刻17時30分
あたりはいつのまにか暗くなった
「ありがとう」
水平線に消えていくはずの彼は
いつの間にかいなくなった
「さようなら」
なぜ海に行きたくなるの
彼らはまた現れるだろう
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