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【超短編小説】多分、アダルトチルドレン。

 私は、成人式が嫌いだ。私は、卒業式が嫌いだ。

 私は、素直に親に感謝することができない。だから、上に挙げたような行事が嫌いだ。嫌いな理由はいくつかあるが、ひとつは全員が親に素直に感謝をすることが当たり前で、それができなければあり得ないという顔を向けられるからだ。誰でも親なのだから感謝くらいはできるだろう。そう決めつけられるのが嫌だからだ。

 もうひとつは端的に、親が苦手だからだ。今まで親としての愛情を受け取った覚えはないし、はっきり言って、嫌な思い出しかない。なのに感謝なんて、できない。

 そうしたらみんな、私のことを白い目で見てくる。私は異常者で、異端で、常識知らずの親不孝者だ。そう言われているような気がして、でも頼る場所なんてどこにもない。そんな孤独を味わうから、成人式も、卒業式も、それらを報道している瞬間の地元のニュースも嫌いだ。

 これを初めての恋人に打ち明けた時、彼は驚きと共に、目の光が一瞬にしてなくなっていた。私はそれを忘れることができない。彼の、私を見る目の憂いや失望感の冷徹さ。私の普通は、恋人であった彼にとってすら異常だったのだと、ひどく落ち込んだ。

 それからその日はずっと、視界に強く濃い霧がかかったような、耐えられるはずの重力に押し潰されるような、唯一の理解者になってくれるだろうと淡い希望を抱いていた自分に絶望した。

 誰にも受け入れてもらえない。私の単なる気狂いなのだと思うしかなかった。だから私は死に物狂いで自分を変えようと、ネットで「強くなる方法」を調べまくった。自分の異常性を正常性に変えようと、自分の間違いを正そうとした。

 真っ暗でか細く、長い夜道の静寂を独り行くような、何の光も見えない作業だった。自分が傷つく記事を見つけることもあった。「甘え」や「気のせい」、「普通じゃない」など、私が感じてきていたものがそのまま書かれていた。私は私の中で何度も葛藤していたこともあるし、周りとの違いだって痛感している。

 わかりきっていたはずなのに、結局強くもなれず、気がつけばボタボタと大粒の涙をスマートフォンの上に垂らしていた。きっと一生、普通の人にはなれない。このまま独り暗い夜道を歩くのだと、そう確信した出来事だった。

 そして今日もまた、私は普通の人の皮を被った異常者として生きている。もうそれしかないと思っているからだ。次に恋人ができても、打ち明けずに、自分だけで両親との確執を抱え、その人の前では普通の家族を演じよう。心は痛むだろうけれど、頼る人間のいない孤独の今よりマシだろう。

 そうやって自己承認して、私は残る人生を歩むしかない。本来の「ありがとう」を、「ごめんなさい」に変えて、普通になれない私を抱えて、私は夜道を抜け出す。


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