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世界の失明と視覚障害の人口


初めまして、都内で眼科医をやっています。
よく患者さんから、病気になる確率や、治療が成功する割合など、定量的な回答を求められるご質問をいただきます。基本的に医師は、エビデンスに基づいた、数字を回答します。このエビデンスは、学会が出しているガイドラインであったり、エビデンスレベルの高い文献の数字を引用したり、自分の経験やその病院での成績をもって回答することが多いように感じます。

数字を使って、定量的に回答ができると、患者さんの納得感が全然違うな、と日々感じており、このnoteでは、すぐ臨床で使えるように、勉強したエビデンスを、備忘録的に書いていこうと思います。

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世界の失明と視覚障害について

第一回は眼科医にとって、一番重要な「失明」をテーマに勉強していこうと思います。
Lancetの姉妹誌である、Lancet global health (当時のIF: 18.705)に掲載された2017年のレビューです。本レビューは288の研究(98ヶ国、1980-2015年)をまとめたものになり、73.3億人の世界人口のうち、3600万人が失明(視力<0.05)、2.17億人が中等度-重度の視覚障害(視力: 0.05-0.3)、1.88億人が軽度の視覚障害(視力: 0.3-0.5)と報告しています。

さらに、高齢者においては、失明と中等度-重度の視覚障害は、先進国より途上国の方で割合が高い。失明と中等度-重度の視覚障害の頻度は東南アジアで最も高く、年齢調整した失明の有病率は西東のサブサハラアフリカ、南アフリカで多い、という結果になっています。
他にも、未矯正の遠視や老視によって、50歳以上では6.67億人、35歳以上では、10.9億人が近見視力に障害が出ていると推定されており、世界の失明や視覚障害が非常に多く存在していることがわかりました。
それでは、この失明人口がこれからどうなるのか?2020年には3850万人、2050年には1億1500万人に増加する、と予想されています。

失明や視覚障害は、患者さんに単に眼が見えなくなるだけでなく、経済的損失、教育機会の損失、QOL低下、死亡リスクの上昇など、様々な不利益をもたらします。これら、失明や視覚障害に対する、手術や点眼、屈折矯正など、視覚に対しての介入 (治療) は、非常に費用対効果が高いことが報告されており、必要器具の少なさから、途上国でも、十分実行可能な治療と言われています。例えば、白内障手術は顕微鏡と白内障手術機器、眼内レンズ、一般的な滅菌器具以外にがあれば、局所麻酔で手術可能です。他にも、屈折異常であれば、屈折検査を行い、眼鏡の処方で治療可能です。
これらの見解より、予防可能な失明や視力障害をなくすために、WHOはじめ、世界レベルでの取り組み強化の必要がある、と述べられています。

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私たち、眼科医にとっての「失明」や「視覚障害」は内科医や外科医にとって患者さんがお亡くなりになるという事とほぼ同義と考えています。
世界の失明、それも「予防可能」な失明や視覚障害をなくすことは、視力が低下してしまった患者さんが光を取り戻すだけでなく、社会活動への復帰や、ご家族の介護からの解放など、様々な波及効果があると思われます。
眼科医や研究者の役割の一つに、「予防可能な失明や視覚障害を可能な限り撲滅させること」が、あるのではないか、と考えさせられる論文でした。


Citation

Bourne RRA, Flaxman SR, Braithwaite T, et al. Magnitude, temporal trends, and projections of the global prevalence of blindness and distance and near vision impairment: a systematic review and meta-analysis. Lancet Glob Health. 2017;5(9):e888-e897. doi:10.1016/S2214-109X(17)30293-0

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