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「一度あげた旗は下げない」 cafeREDBOOK〔カフェレッドブック〕・井上 愛

OPEN MAGAZINE "Based in Nakameguro"では、中目黒エリアに拠点を構える店舗や人を特集し、街の魅力を繋いでいきます。

今回は、1999年創業のインドカレー屋・cafeREDBOOK〔カフェレッドブック〕。開業当初はコーヒーやパスタを提供するカフェダイニングでしたが、開業8年目にカレー屋に転進。今やカレー通のあいだではよく知られるインドカレーの名店になっています。

創業20年を超える老舗の名店に取材できるということもあり、私も思わず気持ちが高ぶります。これまで中目黒で起こる数々の変遷を見てきたオーナー・井上さんに「中目黒という地域」についてや「お店の在るべき姿」についてお話いただきました。

自分からお店を独立させる

-- 1999年の開業当初はインドカレー屋じゃなかったそうですね。最初はどのようなお店だったのでしょうか?

井上さん:最初は昼でもワインが飲めて、夜でもコーヒーが飲める、ヨーロッパのカフェをイメージしたお店でした。散歩中にふらっと立ち寄って、軽食を取ったり、コーヒーをさくっと楽しめるような、街の人が気軽に顔を出せる場所を作りたいと思っていました。

-- まさしく街に開かれた場所ですね。では、カフェという業態から、どのようにしてカレー屋に転進されていったのでしょうか?

井上さん:開業3年目にカレー作りを得意とする人がお店に入ってくれることになって。それで試しにうちでもカレーを提供してみることになったんです。

カレーの味はとても好評でした。しばらく定番商品として提供し続けていたのですが、ある時、常連さんから「ここはカフェなの?カレー屋なの?それとも飲み屋なの?」と言われたことがあって。何屋か分からないと入りづらいよなと思ったのがきっかけで、開業8年目にカレー屋として転進することにしたんです。

-- たしかに、何屋か分からない状態だと気軽に立ち寄ることは難しいかもしれませんね。

井上さん:そうなんです。開業当初から通ってくれる常連さんも多かったのですが、それが逆に閉ざされたお店になっていることも薄々感じていました。うちは飲食店で小さな商売ですが、もっと開かれた場所にしていきたいと思ったんです。初心に返った気持ちで「中目黒と言えばcafeREDBOOK」と言ってもらえるお店を目指そうと。

これまで自分よがりに作りすぎてしまったお店だったので、自分からお店を独立させて、より多くの人に楽しんでもらえるお店にしようと思いました。

-- 属人的なお店はメリットも多いですが、おっしゃる通り「閉ざされた場所」になりやすいデメリットもありますよね。これまで店舗運営をされてきて、数々の苦労があったかと思いますが、特に印象に残っている苦労があれば教えてください。

井上さん:大変なことはたくさんありましたが、苦労したことはなかったかもしれません。ですが、うちのような1店舗しかない個人店だと稼ぎはよくなくて。
なので「お金を回し続ける」ことだけは常に意識してきました。それさえできれば、お店を続けられるので。

-- 「お金を回し続ける」この言葉に長年お店を続けてこれた秘訣が詰まっているように思います。では、ふとした疑問なのですが、カレー屋に転進されたタイミングでお店の名前を変更しようとは思わなかったのでしょうか?

井上さん:これまでに多くの節目を迎えてきましたが、一度も店名を変えようとは思いませんでした。

カレー屋を連想するような店名にすれば、集客UPに繋がったかもしれませんね。ですが、お店は1つのキャラクターだと思っているので、一度つけた名前を簡単に変えるようなことはできなくて。

それに、母からの教えで「一度あげた旗を下げるな」と言われて育ってきたこともあって、一度決めたことは最後まで貫きたいと思っています。お店を続けるということは、ただお金があればできることでもありません。足を運んでくださるお客様や店舗で働いてくれるスタッフがいるおかげで成り立っていること強く感じます。

私はこのお店に期待してくれる人がいる限り、お店を続ける努力をやめないと決めています。母の教え通り、この場所でcafeREDBOOK〔カフェレッドブック〕という旗を、可能な限りあげ続けたいと思っています。

味への追求心を止めない

-- 中目黒にcafeREDBOOK〔カフェレッドブック〕のような場所をつくろうと思ったきっかけについて教えてください。

井上さん:同世代の友達が気軽に集まれる場所をつくりたいと思ったのがきっかけでした。90年代は働き方改革とは程遠い時代だったので、広告代理店などのクリエイティブな仕事に就いている友達は毎日夜中まで仕事漬けでした。

とはいえ、みんな仕事の合間に会って遊んだり、家でお酒を飲みながら一緒に仕事をする、なんて日も多くありました。それはそれで楽しかったのですが、もっと気軽に集えて、仕事の合間にさくっと寄れる場所があったらいいのにと思っていました。

毎日夜遅くまで働いて、まっすぐ家に帰るってすごい寂しいじゃないですか。誰かと一緒にご飯を食べるだけでも、疲れは取れると思います。「また明日も頑張ろ」「もう一踏ん張りするか」みたいな一息つける場所を目指して、cafeREDBOOK〔カフェレッドブック〕の開業を決意しました。

-- とても素敵な開業動機ですね。では、cafeREDBOOKの1番の魅力を挙げるすると、どのような点になりますでしょうか?

井上さん:1番はカレーの味だと思っています。うちは飲食店なので、味に対する追求心は如何なる場合でも止めてはいけないと思っています。

飲食店なら、味が美味しいという認知を得ていかないと、お店としてはなかなか育っていかないと思います。お店のスタッフにお客様がついている状態だと、やっぱりお店は長続きしないんですよね。

-- 味への「追求心」を辞めない、飲食店として欠かせない心構えだと思いました。
次は中目黒という地域についてお話を伺いたいと思います。

地域の基盤を支える

-- 開業当初の中目黒と今の中目黒、それぞれどのようなイメージをお持ちか教えていただきたいです。

井上さん:開業当初はオシャレな街というよりかは、庶民的で下町感ある街というイメージでした。今の中目黒は「30代の人が楽しめる街」だと思っています。中目黒に住むのであれば、ある程度の稼ぎが必要ですし、オシャレな飲食店やアパレルショップも多いので、ちょっとお金に余裕がある人が楽しめる街だなと思いますね。

-- 「30代の人が楽しめる街」という例えは斬新で的をえている気がしますね。
では、中目黒という地域ならではの「良さ」は、どのようなところに感じていますか?

井上:中目黒は十分都会なのに、高層ビルが少ないところですかね。だからか、ローカルな雰囲気も漂っていて「すれ違いざまに挨拶し合う」みいたな、田舎ならではの光景も今だによく見かけます。

中目黒には、まだ中目黒を地元にする方々が多く住まわれている気がします。そういった方々が昔からのコミュニティーや地域性を保ってくれているように思いますね。cafeREDBOOK〔カフェレッドブック〕も昔の中目黒を知る身として、地域の基盤を支えていけるような存在になりたいです。

トレンドで終わらない街

-- これまで中目黒で起こる数々の変遷を見てこられたと思いますが、今後、中目黒がどのように発展していってほしいと思いますか?

井上さん:トレンドで終わらない街で在り続けてほしいです。
一時期の中目黒は「富裕層に人気のオシャレな街」みたいな風潮がありました。その時期は、目黒川沿いや駅前を中心に流行のお店が一気にできてしまって、街の印象がガラッと変わってしまったことがありました。振り返るとあの時期の中目黒は混沌としていた気がします。

でも、今は落ち着いて昔ながらのローカルさと時代ごとに変わるトレンドが共存している街になっているように思います。

cafeREDBOOK〔カフェレッドブック〕はカフェダイニングから、カレー屋に業態変更しましたが、時代の変遷を受けても開業当初となんら変わりのないお店です。

これからもこの場所で変わらずにお店を続けられるように、支えてくれるスタッフと一緒に頑張っていこうと思います。


cafeREDBOOK〔カフェレッドブック〕
1999年創業・東京中目黒にあるインドカリー店
Open = 11:30-15:00 (Lo) , 17:30-21:00 ※ 土曜日のみ通し営業
Regular holiday = 日曜日・祝日
Adress = 東京都目黒区上目黒1丁目3−2
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