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「面で捉え、点で動く」 藤棚デパートメント・ 永田 賢一郎

OPEN MAGAZINE "Interview"では、「場づくり」に焦点をあてて、その領域を担う人物にインタビューを行うことで、未来へのヒントを探ります。

今回は、横浜の藤棚一番街にある日替わりシェアキッチン・藤棚デパートメント。みんなの「やりたい!」を実践する場所として、2018年にオープンしました。オーナーの永田さんは建築家でありながら、なぜシェアキッチンをはじめたのか。ご自身の過去から現在、展望も含めて伺いました。

藤棚町と立科町で「2拠点生活」

-- 建築家を目指されたのはいつ頃だったのでしょうか。

永田さん:小さな頃からものづくりが好きだったのですが、雑誌で建築家の作品を観たときに「実際に創り上げる建築家ってすごいな」と思ったのがキッカケで、建築に興味を持ったんです。

それ以来、1人で有名な建築物を見に行ったり、建築雑誌を読んで勉強するようになりました。気がついたら「建築家になりたい」と思うようになっていて、高校卒業後に大学の建築学科へ進学しました。

-- ご経歴を拝見すると建築のお仕事を軸にして、マルチにご活躍されている印象を受けました。具体的には日々どのように活動をされているのでしょうか。

永田さん:横浜に3つの拠点(藤棚デパートメント・野毛山Kiez・南太田ブランチ)を持っていて、建築家としての仕事をしながら運営も行っています。

これらの拠点は僕が作業するアトリエやスタジオ、住居としても使ったりしていますが、それぞれシェアキッチンやスペース貸しといったサービスを提供しています。

あとは、長野県の立科町で地方創生の取り組みも行っています。地方では空き家が増えていて、老朽化や活用方法が課題になっているんですよね。僕は建築家として携わっていて、移住定住を促進する役割を担っています。

なので、今は横浜の藤棚町と長野県の立科町を行き来しながら活動しています。

外と内が溶け込んだ場所

-- 藤棚デパートメントを開業された経緯について教えてください。

永田さん:ある時、商店街の方から「1日限定のチャレンジショップが開ける場所ができないか」という相談を受けました。藤棚デパートメントがある藤棚一番街も例に漏れず、時代の変化による衰退傾向にあったので、商店街の方も必死でした。

ご相談いただけてとても嬉しかったのですが、そのとき、商店街の中にはそのような使い方ができる場所がなかったんです。

悩んだ末、持続的に商店街を盛り上げる為にも、自分で空き物件を貸りて人が集う場所を作ろうと考えたんです。

-- なるほど。「人が集う場所」を目指して工夫されたことはありますか?

永田さん:開業当時から閉鎖的な空間にならないように気をつけています。
藤棚デパートメントは、シェアキッチンだけではなく、本屋と建築事務所が合わさった複合施設になっています。さらに、利用者さんごとに提供する商材が異なるので、お客さんからしたら「何のお店?」ってなりますよね。

なので、少しでも分かりやすく、気軽に立ち寄っていただけるように、入口付近をガラス張りにしたり、外の通りと床の色味を合わせたりして、商店街と室内が溶け込んでいるような空間を目指して設計しました。

-- 床に『T』や『P』と書かれていますが、何か意味があるのでしょうか?

『T』はテーブルを、『P』には植物のプランターをといった具合に、設計当初に決めた設置場所を意味しています。

ですが、利用者さんの営業スタイルに合わせて家具の配置はどんどん変わっていきました。最初はただのマークだったものが、今では利用者さんたちの試行錯誤の軌跡が可視化できるデザインになっているんです。

コロナで町の魅力を再発見

-- 開業されたのが2018年ということで、コロナの影響もかなり受けたと思いますが、前後で比べて感じる変化はありましたか?

永田さん:横浜市内まで行かずに地域内で暮らす人が増えたからか、商店街にも活気が出てきたように思います。夜営業のスナックが日中にお弁当販売を始めたり、散歩する方が増えたり、雰囲気がガラッと変わりましたね。

藤棚町のようなローカルな場所は、コロナ禍で可能性が開いたのではないでしょうか。商店街は地域の人が集まる場所なので、コロナによる町の変化がとても感じやすかったです。厳しい時期もありましたが、町の魅力を再発見できるキッカケにもなりました。

地域のネットワーク的な存在

-- 永田さんは藤棚町にどのような魅力を感じているのでしょうか。

永田さん:僕はこの町の程よい下町感に魅力を感じています。
昔、藤棚町には港で働く工員さんが大勢住んでいて、大変栄えたと聞いています。その時の名残からか、この町に漂う庶民的で気取らない雰囲気がとても心地良く感じられます。

あとは、自然豊かな地域に囲まれているところですかね。横浜と言えば「海」をイメージされる方が多いですが、意外と公園や山が多い地域なんです。

横浜は『みなとみらい』といった海沿いに注目されがちなので、藤棚デパートメントが「案内所」のような役割を担って、内陸地域にも魅力があることを伝えていきたいと思っています。

-- 横浜に藤棚デパートメントのような「案内所」が増えれば情報や人も集まって、きっかけや出会いも増えていきそうですね。

永田さん:そうなんです。最近は利用者さん同士の繋がりも増えていて、今ある3つの拠点を行き来して利用してくださる方も多いです。

藤棚デパートメントを運営する上で「そもそも横浜の中で藤棚町がどういう場所なのか」を考える必要があると感じています。俯瞰した視点で地域を「面」で捉えながら、地に足をつけて「点」として活動することが大事だと思いますね。

-- 「地域を面で捉えて、点として活動する」という視点は大変勉強になります。
まさに、建築家らしい場づくりだと思いました。今までの活動を通して得られた、場づくりでの気づきや学びがあれば教えていただきたいです。

永田さん:それで言うと「ショップカード」が地域との関係性を可視化する役割を担っているのでは、と思ったりしています。

藤棚デパートメントに置いてある色んなお店のショップカードを見て「このお店に行ってみよう」とか「この方、知り合いだ!」みたいな、キッカケや出会いの種になっていて、人や店舗同士の繋がりがなんとなく見えてくるんです。

こういった繋がりが地域全体の繋がりとも言えるかもしれないですよね。ここに来れば地域のことが知れる、みたいな地域のネットワーク的な存在になれたら嬉しいです。

自らが「地域の人」になる

-- 最後に、今後挑戦したいと思われていることがあれば教えてください。

永田さん:内と外が溶け込んだ場づくりを追求していきたいと思っています。
公共空間を活用するには規制上の問題もありますが、藤棚デパートメントのような商店街に溶け込んだ場所に可能性を感じているんです。

僕はある地域の場づくりを行うなら、その地域の住民になった方がより良い場づくりができると考えているんです。そうすれば意見も住民としての声になって、説得力も増します。

住民だからこそ知れる情報や魅力ってたくさんあるんです。逆に「こうしたらいいのにな」という要望も出てくるので、そういった気づきは活動に全て活かしています。活動の場所と生活の場所を紐づけて場づくりを行うのは、僕らしいやり方なのかもしれません。

藤棚デパートメント

日替わりカフェや料理教室が開けるシェアキッチンと設計事務所、書店を兼ねた地域のコミュ二ティースペース。

Open = 詳細はWEBサイト記載の営業スケジュールをご覧下さい。
Adress = 横浜西区中央2-13-2 伊勢新ビル1F

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