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手芸における著作権とその先にあるもの

いろんな方の意見をもらいたいので全文無料で公開しています。


はじめに

コロナ禍も追い風となり個人間で売買が出来るハンドメイドサイトが拡大を続けているそうです。利用者が多くなるのに伴いハンドメイド作品における著作権の侵害問題について度々SNSなどで話題に上がります。

これは○○さんの作品のパクリではないか?手芸本に掲載されている作品をそのまま参考にして作り販売してもいいの?有名なキャラクターを無断で使用して作った作品をインスタにアップして怒られない?

なんとなくの線引きは自分の中にありましたが今回とあることをきっかけにしっかり調べようと思いました。あくまで個人の見解なので間違ったところがあればコメント欄でご指摘いただけると助かります。

ハンドメイドを仕事としている者として業界の発展と手芸作家の地位向上のために今回このnoteを書きたいと思います。

■参考 クリーマの成長可能性、ハンドメイド市場で構築する「経済圏」
https://media-innovation.jp/2021/12/08/creema-business-plan/


著者プロフィール

大図まこと

大図まこと プロフィール
手芸店退職後、刺しゅう作家として独立。その作品は国内外のカルチャー&アートシーンからも熱い注目を浴びる。近年は手芸の枠を越えディズニー、サンリオ、BEAMS、G-SHOCKなどとのコラボが話題に。東京・蔵前でショップ&ギャラリーTOKYO PiXEL. を運営中。

Twitter https://twitter.com/makotooozu
Instagram
 https://www.instagram.com/makotooozu/



他者の著作物を自由にハンドメイド作品に使う事は出来るのか?

まず最初に誰かが作った著作物を誰の許可も取らずに利用できることが出来るのかとネットで調べた所、文化庁にそのまんまのページがありました!

著作権法では,一定の「例外的」な場合に著作権等を制限して,著作権者等に許諾を得ることなく利用できることを定めています(第30条〜第47条の8)。
 これは,著作物等を利用するときは,いかなる場合であっても,著作物等を利用しようとするたびごとに,著作権者等の許諾を受け,必要であれば使用料を支払わなければならないとすると,文化的所産である著作物等の公正で円滑な利用が妨げられ,かえって文化の発展に寄与することを目的とする著作権制度の趣旨に反することにもなりかねないためです。
 しかし,著作権者等の利益を不当に害さないように,また,著作物等の通常の利用が妨げられることのないよう,その条件は厳密に定められています。
 また,著作権が制限される場合でも,著作者人格権は制限されないことに注意を要します(第50条)。
 なお,これらの規定に基づき複製されたものを目的外に使うことは禁止されています(第49条)。また,利用に当たっては,原則として出所の明示をする必要があることに注意を要します(第48条)。

私的使用のための複製(第30条)
家庭内で仕事以外の目的のために使用するために,著作物を複製することができる。同様の目的であれば,翻訳,編曲,変形,翻案もできる。

文化庁HP 著作物が自由に使える場合
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu_jiyu.html

ハンドメイド作家に関わる条項で確認しておくのはこの第30条です。
これは結構有名かもしれませんが私的使用であれば複製が自由です。話が少し古いですがレンタルCDを借りてきてダビングすることは当時みんなやっていましたよね。家族間での貸し借りはOK家庭内以外はNGです。なので例えば自分が持っている手芸本のレシピをコピーし知り合いに渡したりするのはもちろんNGです。

販売を目的としていない私的使用のものであれば誰の許可も取らず有名キャラクターをモチーフに手芸作品を作りインスタにアップしても良いと解釈出来ます。

作品自体を販売しないとしてもそれが手芸教室などの広告宣伝として利用される場合は違法とみなされるので注意が必要です。



自分の著作権を侵害された!?

この記事を書くにあたった発端となる出来事が今年2022年1月末にありました。取引のある手芸メーカー数社から商品の値上げ連絡が届きます。
取引の無い会社の動向も知っておこうとHPを見て回っていた所、フランスに本社があるDMCのサイトで自分が作ったと思われる刺繍の図案が刺繍糸の販売促進用として配布されていることに気づきました。
明らかにこれは私的使用ではありません。

表紙にも掲載されているスペースシャトルの図案
モチーフを縦に2ドット小さくして濃淡色を反転させている。

何かの間違いかとダウンロードして確認したところデザインがほぼ一緒だということに気づきHPのフォームから問い合わせをしました。

翌日すぐに日本の支社長(小山田光晴氏)から著作権侵害したことに対してDMCを代表してお詫びするという内容のメールが届きました。また後日部下よりフランス本社へ経緯の説明、該当デザインの取り下げ、配布されている国、配布期間などを確認し連絡をもらえるということになりました。

無断で掲載、配布されていたデザインはすぐに取り下げられました。
2017年よりフランス、イギリス、アメリカ、ドイツ、イタリア、ポルトガル、スペイン、日本の8ヶ国で配布が行われたがその経緯やダウンロード数などはわからないと言われました。
またスペースシャトルの図案は「old DMC archive」として本社で管理保管しているという情報ももらいました。

使用料の請求を算出するにあたって不明点が多かったので5回程メールのやりとりを行った後、先方より突然の別れを告げるメールが届きます。

大図まこと様

お世話になっております、DMCの○○です。

大変お待たせして失礼しました。
問題の図案につきまして、本社とのやり取りと弊日本支社としての立場をお伝えいたします。

まず、大図様より頂戴した一連のご質問に対し、本社からは「no comment」と回答を頂いています。
Dmc.comで配布している図案の制作、配布は本社の責任の下行っており、
一支社である日本支社はこれ以上お答えできない立場にございます。

日本支社ができることとして、該当図案を日本を含め全世界で公開を取り下げいただいております。

直截な回答をお送りできず恐縮ですが、以上をご理解いただけますと幸いです。
何卒よろしくお願い申し上げます。

ディー・エム・シー株式会社
マーケティング ○○
101-0035 東京都千代田区神田紺屋町13番地山東ビル7F

DMC日本支社 部下からメール

DMCを代表してお詫びするといった日本支社長の言葉は無かったかのようなメールの文章です。

私たちは著作権侵害を認めがんばって全世界での公開を取り下げました。申し訳ございませんでした。これ以上何も出来ないので連絡してこないでください。さようなら。と自分には読めました。


DMCとは?

手芸をやらない人はあまりピンと来ないかもしれませんがDMCとは業界では誰もが知っており刺しゅうをする人であれば一度は憧れるフランスの老舗刺繍糸メーカーです。

手芸業界のトップメーカーの1つであるDMCに刺しゅう作家の私が意見をすることはこの小さな業界で生きていくことを諦めるに等しく、周りから奇異の目で見られることになると自覚しています。

今自分を動かすのはこれまで手芸の仕事を通して理不尽だと思う事でも何も言ってこなかった後悔とそれでも刺しゅう作家としてここまでやってきたんだと言う小さなプライドだけです。

どんな不利な条件でも仕事がもらえなくなるのが怖くてこれまで何も言えず泣き寝入りしてきた自分や周りの手芸作家の地位向上のためにももう少しだけ戦おうと決心しました。


弁護士に依頼する

ノーコメントと返事をもらってから1週間程悩み弁護士に相談することにしました。経緯を説明しまずはこちらの要望を内容証明で送ってもらいました。

先方へ内容証明が到達してから3週間が経過。全く回答が届きません。無視されています。もしかしたらこちらの弁護士費用がかさみ諦めることを企んでいるのかもしれない。そう思うととても悲しくなりました。


フランスの代理人弁護士から返答が届く

弁護士から督促してもらうとDMCフランス本社の代理人弁護士から返答が届きました。
メール内容を抜粋したものが下記になります。

日本支社はDMCの単なる販売代理店である。よって日本支社とはやり取りを行わないようにしてください。

ご存知のように、私たちのクライアントは刺繍糸と工芸品の世界的なリーダーです。フランス国内はもとより、海外でも有名な会社です。

今回のスペースシャトルの表現にはオリジナリティが全くないため、いかなる著作権もありません。このデザインはフランスDMC社の仕事です。

あなた方の当社のクライアントによって著作権を侵害されたとされる要求には根拠がありません。この件は終了とさせていただきます。

フランスDMC本社代理人からの返答抜粋

やっと返事がもらえたと思ったのに、またもや突然のお別れの報告です。


1月末にメールで著作権侵害を先方に訴えてから3ヶ月が経ちました。お金も時間も労力も掛かりました。

一度は著作権侵害を認めデザインの取り下げを行ったのにも関わらず、侵害をしていないと言い始め、日本支社は全く何も言わなくなり疑心暗鬼になりました。

精神的に辛くなるときもありましたがそれでも不思議なことに刺しゅうをしている時は全てを忘れて没頭が出来ました。これだけ嫌な事があっても自分はまだ刺しゅうが好きなんだなとこのとき感じました。


ここで突然の宣伝!

インスタライブを使って不定期で刺しゅうの楽しさを伝える生配信してます。是非遊びに来てください!

https://www.instagram.com/makotooozu/


そもそも著作物とは?

一方的に振られてしまったフランスDMC本社代理人からの書面の中で気になる一文があります。

今回のスペースシャトルの表現にはオリジナリティが全くないため、いかなる著作権もありません。このデザインはフランスDMC社の仕事です。

フランス本社の代理人弁護士からの書面

著作権を侵害していると言ってくる前にこれはそもそも著作物では無いからね。ということです。
確かに少ないマス目でスペースシャトルを表現しようとしたらパっと見どれも似たようなものになる可能性はあります。

著作物とは一体何なのか?ネットで調べたらまた文化庁にそのまんまのページがありました!

著作権法で保護の対象となる著作物であるためには,以下の事項をすべて満たすものである必要があります。
(1)「思想又は感情」を表現したものであること
→ 単なるデータが除かれます。
(2)思想又は感情を「表現したもの」であること
→ アイデア等が除かれます。
(3)思想又は感情を「創作的」に表現したものであること
→ 他人の作品の単なる模倣が除かれます。
(4)「文芸,学術,美術又は音楽の範囲」に属するものであること
→ 工業製品等が除かれます。
 具体的には,小説,音楽,美術,映画,コンピュータプログラム等が,著作権法上,著作物の例示として挙げられています。
 その他,編集物で素材の選択又は配列によって創作性を有するものは,編集著作物として保護されます。新聞,雑誌,百科事典等がこれに該当します。

文化庁HP 著作物について
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu.html


なんだか難しいことが書いていますがさらに調べて行くと今回の事例と似たような裁判の判例が2つ見つかりました。

編み物と編み図の著作物性についての判例
「女性用ベスト事件」平成23年12月26日東京地方裁判所(平成 22(ワ)39994)/平成24年04月25日知的財産高等裁判所(平成24(ネ)10004)

https://ipforce.jp/Hanketsu/jiken/no/1856

折り紙の折り図についての判例
「吹きゴマ折り図事件」 平成23年05月20日東京地方裁判所(平成22(ワ)18968)/平成23年12 月26日知的財産高等裁判所(平成23(ネ)10038)

https://ipforce.jp/Hanketsu/jiken/no/2130

興味がある方は詳しく調べて欲しいのですがどちらも手芸・工作のデザインに関して著作権を侵害されたと裁判を起こした方が結論として侵害ではない、その作品は著作物では無いとして敗訴していました。
編み図に関しては一般的な編み方を組み合わせたものであってそこに創作性は無いと判断されています。作家側にはなかなか厳しい判決です。

モチーフを縦に2ドット小さくして濃淡色を反転させている。

今回問題となっているスペースシャトルの図案をもう一度だけ見直してみて下さい。



DMCフランス本社代理人の言葉がDMCとしての見解に間違いが無いとすれば歴史あるDMCのデザインアーカイブも実はほとんどが著作物では無いので私たちが自由に使って販売をすることが出来るということになります。
※現時点ではあくまで著者の見解です。販売する場合はご自身の責任で行ってください。

さらっと書きましたが暗黙の了解でこれまで過ごしてきた手芸に関わる著作権についてパンドラの箱を開けてしまったのかもしれません。DMC本社からこの見解を引き出したことはユーザーにとってはとても大きいと思います。

もちろん自分はプロの刺しゅう作家なのでこれからもオリジナルを作り続けます。たとえそれが著作物として認められなくても。



後日談

一方的に振られたフランス本社からも日本支社からもその後こちらからメールをしても何も返事が来なくなりました。こうなるともう為す術がありません。費用対効果を考えた場合このまま続けるとマイナスが増えていくばかりで悔しいですが先方の思い通りの流れになってしまいました。

そもそも自分は何のために刺しゅうをしているのかと考えました。お金のためでしょうか。もちろんお金のためじゃないなんて嘘は言いません。食べていくため、新しいデザインを作り出していくためにもお金は1つの理由です。

でもそれだけなんだろうか、そうだったらなんであんな毎日のように無料のインスタライブで刺しゅうの配信をするのだろうか。


そうだ、単純に自分自身が楽しいからやっているんだ。自分が楽しいって思っていることをみんなにも伝えたいって思ってやっているんだ。


色んな人にやってもらいたくて2021年より自分が作ってきた刺しゅうの図案の商用利用を全てOKにしました。おそらく世界初です!
(※個人のハンドメイド作品に限る。)
HPのQ&Aにその理由を記載しています。

どうして商用利用OKなのですか?
ハンドメイドの商品を販売することが一般的になりお問い合わせを頂くことが多くなりました。全てを一律に断るのではなく個人でハンドメイドを楽しむ範囲であれば商用利用を許可していいのではないかと数年前から考えていました。
電子書籍「Mega Mini Cross Stitchシリーズ」4冊に掲載した図案に関してはベースとなる図案を掲載していた書籍が絶版となり、各出版社との契約が終了したこともあり今回商用利用を許可することにしました。
作者としては電子書籍化と商用利用をOKにしたことにより、世界中で広く長く利用され続ける図案になればと思っています。今後も活動を続けていくので新作も是非楽しみにしていてください。


普段デザインをしているときは作った後のことまで考えていませんがSNSに上がってくるこんな投稿を見ては人の生活に寄りそう仕事をしているんだなってしみじみ思っています。うれしいなぁ。

もしかしてスペースシャトルの図案も世界中で楽しまれているのかもしれませんね!

事実翻訳された書籍は日本以上に海外で売れているのできっとたくさんの人に楽しんでもらってるはずです。そう思いたいです。

日本では紙の本は絶版になっているので興味を持たれた方は是非電子書籍をご検討下さい!アマゾンではどれもプレ値になってしまっています。






後日談の後日談

先週メルカリで2010年にDMCから発売されたキットをたまたま発見して購入しました。ちなみに3300円しました。
そこには今回問題となったスペースシャトルのデザインが掲載されしっかり「デザイン:大図まこと」と記載されていました。2008年に出した本の中からデザインを提供していたのでした。

DMCのHPで無断配布が始まったのが2017年からなのでこの図案のデザイナーが大図まことのものだとDMCが知っていたという決定的な証拠です。

この件に関して代理人からメールを送りました。返答が無いので督促メールを送ってもらいましたが結局なんの進展もありませんでした。

またこのnoteの記事に関しては公開前にDMC日本支社長、部下両名に私から事前に送り返答を待ちましたが期日までになにも連絡がありませんでした。


最後に

今回「手芸における著作権とその先にあるもの」というタイトルを付けて記事を書きました。長くなってしまいましたが手芸作家の方に少しでも参考になり、業界として議論を起こすきっかけとなれば幸いです。

残念ながら手芸作品はよっぽどのことが無い限り著作物として認められることは判例を見ても難しいのだと感じました。
作家としては厳しいですが著作権法が文化の発展を目的としている以上、全ての創作物が著作物であるわけでは無いと言う判断は一定の理解が出来ます。

だからと言って模倣が許されるとは思いませんし、このことにより自分が創作活動をやめることもありません。だって作りたいものがまだまだ沢山あるんだから。


さぁそれではそろそろみんなで一緒に針を持ちましょうかっ!



ご支援のお願い

最後まで読んで頂きどうもありがとうございました。
今回掛かった弁護士費用と刺しゅう作家大図まことの創作活動費のご支援を募っております。
ご支援いただいた方には刺しゅうのインスタライブで視聴者の方と都道府県をモチーフにしたクロスステッチの図案集を作ろうと盛り上がったものの、まさかの1つ目の県で企画が終了した幻の図案「埼玉」をプレゼントします!
どうぞよろしくお願いします。

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