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第31回 折り句と沓冠(くつかぶり)【早稲田の古文・夏期集中講座】 

2015年の早稲田大学文学部の入試では、『折り句』という技法に関する問題が出されました。
『折り句』とは、五・七・五・七・七の各句にある一文字をつなぎ合わせると、意味を成すように作られた和歌の技法です。
古くは『伊勢物語』第九段に、その例が見られます。

らころも つつなれにし ましあれば  るばる来ぬる をしぞ思ふ

ここでは、「かきつばた」が隠れていることがわかるでしょう。

まずは、藤原実家の『実家集』にある和歌を見てみましょう。

くら花  かぶ水際の ら波は ちて日数を たるとぞ見る (和歌Ⅰ)

くら花 かぶ流れは ろたへに に消えせず する波かな 
(和歌Ⅱ)

この歌には、和歌Ⅰ「草子給へ」、和歌Ⅱ「草子見よ」が隠れており、折り句となっていることがわかります。

和歌Ⅰでは、「歌集が見たいので見せてくれと言っていたのに、なかなか見せてくれなかったので催促している」という内容となっています。
しばらくして、やっと和歌と共に歌集が送られてきました。その時の歌が、和歌Ⅱです。

次は『沓冠くつかぶりという折り句の技法です。
これはもう少し高度な技法となります。
五・七・五・七・七の各句の「最初の一文字(冠)」と「終わりの一文字(沓)」をつなぎあわせて、意味ある文とする技法です。
辞書では、兼好法師の次のような例がのっています。(旺文社『古語辞典』参照)

もすず ざめのかり まくら そでもあき だてなきか

この歌では、最初の一文字である「冠」部分をつなぎ合わせると米賜へよねたまえとなりますが、各句の最後の一文字「沓」部分は、逆につなぎ合わせて読むことでぜにし」となっています。

今回とりあげた設問で、問題となっているのは、次の二つの和歌です。

花 惜しみてはまた つつみかね 手ごとにさのみ はては折らめ(和歌Ⅳ)

かなしな 小野の小山田 作りかね 手をだにも君 はては触れず (和歌Ⅵ)

これが(問二十)の問題となっています。
同一の隠れた文は何か、平仮名で書けというものです。
正解は「はなをたづねて見ばや」となります。
このような問題では、和歌の表面上の意味と無関係ではありません。
その点が解答のポイントとなるのです。

最後は『俊頼髄脳』からの引用で、「『あはせ薫き物すこし』といへる事を据ゑたる歌」というものです。

ふさかも ては行ききの もゐず づねてこばこ なばかへさじ (和歌Ⅶ)

各句の文頭の一文字をつなげると「あはせたき」という折り句になっていることがわかります。
設問とは直接関係ありませんが、一応理解しておいた方がよいでしょう。
なお、(問二十二)では「たづねてこばこ きなばかへさじ」の解釈が問われています。
正解は㋺の「やって来るなら来なさい。もし来たらあなたを帰さないよ」となります。

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