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中国政治の本質 早稲田社会科学2013年 鴻鵠先生の「英語教室」2

早稲田大学・社会科学部の英語問題で、中国政治の本質について出題されました。
早稲田の社会科学部は英語が難しい、という受験生の声をよく耳にします。しかし、それは英語自体が難しいのではなく、書かれている内容の専門性についていけないため、理解できないからではないかと思います。その一例が、中国の政治に関する、いわゆる政治学の問題でしょう。

「中国政治というものは、1949年の共産革命によって大きく変わったように見えるが、大昔の王朝時代から変わらない中国政治の本質があるのではないか」というのが、この英文の問題提起なのです。
一般的に政治学というと、ヨーロッパの古代、即ちギリシア・ローマ時代の政治は問題にしますが、アジア、特に中国の古代が政治学の対象になることは、まずありません。

ここに明治以来の学問における「西洋偏重主義」の欠点が浮き彫りになるのです。特に政治学の世界は、アメリカ政治学に偏っており、アメリカ政治=世界の政治のような偏りすらあります。
そのような学会の偏重が高校の学習にも影響し、政治経済の学習において、中国古代の政治学というものは存在しません。これは、明治以来の学問の偏りが150年たった21世紀になっても是正されていないことを表しています。
学習内容として、高校の科目の中にある中国は、倫理科目の古代思想の中で、儒教があげられているだけです。そこには、儒教が政治学の一つだという認識がありません。

早稲田の文学部には東洋哲学科があり、儒教・仏教・道教を専門的に扱っているという特徴があります。これをみても、早稲田大学は東洋という視点を大事にしている大学だと言えるでしょう。
儒教系の専門書の中に、「中国古代政治思想」という学術書があります。ルソー思想で有名な中野兆民のお父さんである中江丑吉ちゅうきちさんが大正時代に書かれた原稿なのですが、昭和23年に岩波書店から出版されています。このように戦前には、中国古代を政治学として扱う考え方があったのです。

中国古代の政治学や儒学の中で、大事な概念は「天命思想」です。
天命思想とは、帝王というものは、天帝から天命を授かることによって初めて王朝がひらくことができ、その王朝の統治は、徳のある者にしかできないという徳治主義なのです。帝王が徳をみがく努力を怠ると、民衆の反乱が起きたり、地震や飢饉などの転変地変が起きたりして徳を失い、天罰が下り、そして天命を失うということになります。これがめいあらたまる「革命(レボリューション)」ということの本来の意義です。

英文で「mandate of heaven」と書かれているのを見て、これが「天命」だとわかる受験生は極めて稀です。
この「mandate」という単語を辞書で引くと、

①権限、使命、民意
②命令書、指令書
③委任統治、委任契約

「レクシス英和辞典」(旺文社)より抜粋

と書かれていることから、しっかりと考えれば、「天からの命令書」「使命」「権限の委任」と解釈することは可能です。しかし、このような解釈が今の英語教育の中でなされているかは、甚だ疑問だと言えます。
アメリカ偏重の政治学が、学問として偏っているのと同様に、アメリカ偏重の英語教育も、英語学習として偏っているのです。

ハーバード大学では、中国の古代思想や日本の経営学の実態を、ケーススタディで学ぶのが人気講座となっています。このように、アメリカ人ですら、中国や日本という東洋の考え方を学ぶ時代となっているのです。
ペリーと共にやってきた通訳のヘンリー・ヒュースケンが、「日本人の話すオランダ語が、200年以上前の古いオランダ語なので驚いた」という話が残っています。
それと同様に、日本で行われている「アメリカ偏重の英語教育」は、時代遅れだと言えるのかもしれません。

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