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渋谷教育学園幕張中学校 過去問研究 「日本の幽霊」諏訪春雄 岩波新書

渋谷教育学園幕張中学校は平成13年に「日本の幽霊」(諏訪春雄著 岩波新書1988年刊)という本を出題しました。諏訪春雄氏は、東京大学大学院人文学研究科を終了されており、近世国文学・芸能史の専門家で、当時学習院大学の教授をされていました。「元禄歌舞伎の研究」「近松世話浄瑠璃の研究」(笠間書院)といった著書もある方です。

 実は、能や歌舞伎などの伝統芸能の世界では、幽霊・妖怪・物の怪もののけといったものが、実に多いのです。有名なのが、鶴屋南北の歌舞伎「四谷怪談」です。

 お岩さんの例や皿屋敷のお菊さんのように、女の怨霊というものは庶民に愛されました。おそらく男の身勝手さに苦しみ、封建制度という男尊女卑の社会に苦しめられた女性達の救いになったのではないかと思われます。

 幽霊と妖怪はどう違うのか。このテーマが渋谷幕張中に出題されたところです。(同書P11から)そんなことは非科学的で事実ではないと切り捨てることは簡単なことです。筆者は次のように述べています。

人類が長い間、幽霊や妖怪の存在を信じつづけてきたことは事実であり、その神事つづけてきたことのなかに、霊的な存在や超越会に対する人びとの理解の仕方や考え方がこめられている。人間の過去から現在に至る精神生活の実態を明らかにするためには、幽霊や妖怪の研究は避けて通ることのできない大切な課題である(同書P15)

としています。人々が愛し、熱狂し、感動し、大切にしてきたもの、何百年、何千年と歴史と伝統と文化に残ってきたもの、それを科学的に研究するのが、人文科学、いわゆる人文学の分野なのです。

自然科学のみ科学的であって、他の分野は非科学的であると決めつけることの方が非科学的なのです。合理性を欠く、偏見だと言えるでしょう。
東京大学が予算を確保し、人文科学研究所という研究機関を設けているのはこのためにあるのです。

東京大学文学部は1877(明治10)年に設置され、人文学にかかわる学問の継承と保持、発展を目的とした教育組織として、その後いくたびかの改組を経て、1995年(平成7年)には、思想文化学科、歴史文化学科、言語文化学科、行動文化学科の4学科となりました。
 近年、急速なグローバル化の進展により世界は不確定化し、複合性の度合いをますます高めつつあり、特定の専門分野における知識や技能だけでは解決できない問題群も数多く存在しています。このような状況において、過去から現在まで蓄積された、人間と社会に関する人文学的叡智を統合的に理解し運用しうる人材が求められています。
 このような状況に鑑み、人文学の各領域が提供する教育の相乗効果を高めつつ、領域横断的な教育体制を新たに構築するために、文学部では既存の4学科を統合し「人文学科」を設置しました。

 幽霊と妖怪の違いには、異界他界の違いがポイントとなるようです。
異界とは、人の住む世界の周辺にあって簡単に行き来できる所であり、他界とは人の住む世界とは違う世界で簡単に行き来できない所としているようです。

そうすると、妖怪は異界に住んでおり、人間世界に出入りする存在、幽霊は他界に住んでおり、あまり人間世界に出入りできない存在と言えるようです。

さらに筆者は、前身と現状に分け、前身が人間か非人間かを問題にしています。
前身が人間であり、現状人間であるのが幽霊で、前身が人間であっても、現状が非人間になってしまうのが妖怪だということになります。(同書P23)

 その定義で考えると、今人気の鬼滅の刃きめつのやいばは、前身人間であっても現状非人間なので、妖怪であるということになります。

自然科学だけでなく、このような人文科学についても学習し、偏りのない知性と教養を磨くことが必要になると思います。

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