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21世紀を生きる人たちのための「アメリカ大統領選挙」(後編)

合衆国は民主制の理念を刷新して、今度は政治理念で世界に影響力を持つ国となることができる

この記事の前編で最初に書いたのは、こうした意味の文章でした

8月半ばに行われた直近に迫った合衆国大統領選挙に向けた、民主党大会を解説した記事を前編でも一番上に置きましたが、こちらから読む方のために、再度リンクしておきますね

大変良く書かれた内容のある記事なので、これで充分とも思うほどなんですけど…

下手くそな付け足しになることは承知の上で、自分の思うところを書いてみたいと思います

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再度言わねばなりませんが、8年前や4年前とは異なり、2024年の合衆国大統領選挙は、「Z世代」が投票権を持ち大きな影響力を発揮できる環境下での初の大統領選挙です

ハリスとウォルツは次期正副大統領候補者として、21世紀を希望を持って生きていく社会のあり方を見事に提示してみせました

20世紀を通して合衆国は軍事力と経済力で派遣国家として君臨し続けました
しかしながら、これからの21世紀は違うんだよと民主党のコンビは示してくれた
そのように自分はこの記事を読みました

寛容と人権を慈しむ合衆国建国の理念をアップデートして民主制そのものを21世紀を生きる人たちに沿ったものに刷新する
ハリスとウォルツが訴えたのはまさにそこだと

前編はこちらです


民主制なんて欧米だけのものでしょという声もあるでしょう

しかしながら、石丸伸二氏の「一夫多妻制度」発言を確かめるために、イスラーム信仰を持つ人たちが多いマレーシアに訪れて取材した記事を読みましたが、イスラーム法に基づいて「一夫多妻制度」を現実のものとしているにも関わらず、かの国の人たちはこの家族のあり方を最早あまり肯定的には考えていないようです

イスラーム法は聖典であるクルアーン(コーラン)に基づくもので、クルアーンは一字一句変えてはならないとされています

本当はアラビア語でしか認められないとすらされますが、人類学研究で世紀を跨いでインドネシアのムンタワイ諸島の研究に打ち込んでいた友人は、対岸のスマトラに位置するパダンにも夫婦で長く暮らし、ムスリムになろうかという勢いで当地の様子やムスリムの人たちの生活や価値観を熱心に語ってくれました
数えきれないほどページをめくり皮脂の汚れで黒じみたインドネシア語のクルアーンに目を落としながら


クルアーンに全面的に従いその解釈の変更は許さないとされたがゆえに、イスラーム信仰を持つ人たちの多い国々はどこか中世的な素朴でユルい生活を楽しんで暮らしていますが、経済発展を続ける中でマレーシアのムスリムの人たちの意識は変わりつつあることをこの記事は伝えてくれます

イスラームの社会も大きな転換点に差し掛かりつつある、欧米発祥の民主制に由来する価値観があまり違和感なく入り込みつつある、それが2024年です


仏教徒の多いタイでは、グローバリゼーションの時流に乗って巨万の富を築いたタクシン・シナワットが政界に進出して首相にまで上り詰めたことで、民主化の意識が急速に高まっていきました

2024年5月に行われた総選挙では、絶対のタブーだった王室批判を唱えた前進党が躍進するまでに
(後に違法行為として解党を言い渡されますが)


儒教圏に目を向けると、大陸での覇権争いで共産党に負けた国民党政権による戒厳令下に長らく留め置かれた台湾は、李登輝氏が民主化を導入するや急激なまでの勢いで民主制を丸ごと理解していきます

オードリー・タンはまさにその申し子のような存在で世界中に輝きを放ちながら、今も現政権に関与してデジタル・テクノロジーを駆使したデモクラシーを次々と実現しています

オードリーの最新の声は、日本語ならばここで知ることができます

20世紀に大きな貢献を果たした芸術家のヨゼフ・ボイスの影響を強く受けた欧州人が、デジタル・デモクラシーに関して東洋人のオードリー・タンの話を聞く
それが2024年です

ユニバーサル・ベーシック・インカムについて問われたオードリーが、「お金の持つ直接的な力」という表現で、カネカネカネの時代にマネーの本質を突くあたりは日本人もよくよく考えるべきことかと強く思います


軍事独裁政権が長く続いた韓国は、多くの人たちの流血を伴いながら民主化を実現しています

1997年には金融破綻でIMFの管理下に入るほどの危機に直面していますが、時の大統領でノーベル平和賞受賞者の金大中氏が経済の根本的な立て直しの一環として始めた韓流カルチャーの世界への発信は、音楽や映画で世界を制したのみならず、彼らが纏うファッションや華やかに彩る美容の分野でも世界的な影響力を持つまでの成功を果たしました

(私事ですけど、今シーズンは春夏からこんな格好をメインにして過ごしていました
だってカッコいいだもん😅)

しかしながら、その金大中氏は元大統領だった朴槿恵氏のお父さんである軍事独裁政権下での大統領だった朴正煕氏による苛烈な迫害を乗り越えた人物でもあります
(日本も無関係ではないんですよ)


台湾は大陸の一党独裁と、韓国はかつての軍事独裁政権の残党と、今も熾烈に闘っています
台湾や韓国の人たちは、闘うことで民主化を常に刷新しています


2024年とは、民主制が包含する価値観が世界中に拡散して後戻りできない、そんな時代の中にあるのですね


ハリスは移民大国でもある合衆国を体現する人物です
彼女は大統領としてはそれほど優秀ではないかもしれないし、女性でもあるから多様性の訴求力は確かに強いものの、それはこれまでの大統領選でいつも民主党が勝つ東西の海に面した「青い州」でしか通用しないものでもあり続けてきました
彼女だけならば、それほど強い候補者ではなかった可能性はあり得たと考えます

しかしながら、副大統領候補に現ミネソタ州知事のティム・ウォルツを選び、僕はこれで勝負あったと見ました
急いでなぜそうなのかとnoteに記事を上げたほどです


ウォルツ氏は「白人」の集うバーベキューで機嫌よく肉を焼く普通のおじさんと紹介されたりしています

でも、ウォルツ氏のその親しみやすさはピューリタン由来の敬虔なクリスチャンであるということからくるものであることを指摘する人は残念ながら、日本語ではほぼ見かけません

合衆国のキリスト教信者といえば、進化論を否定する福音派ばかりが取り沙汰されますが、建国の理念はそこにはありません

寛容で人権の感覚を持っていたピューリタンを継ぐ者に連なるウォルツ氏は、合衆国の理念を体現する人物であり、故にLGBT法に賛成し政治家として行使できる権力を使います
当然ながら「Z世代」との相性は抜群によいです

それに加え、「赤い州」に多く暮らしている、それほど若くもなく、人好きのするキリスト教信仰の篤い人たちに響くものを持ち合わせているのですからね

この正副大統領候補者コンビだからこそ打ち出せたのが、冒頭の記事にあるような21世紀を否応なしに生きていかねばならない人たちに響くであろう、建国来の理念を21世紀に合わせて刷新したものだと強く訴えたい次第です

因みにウォルツ氏が副大統領に選出されたならば、現副知事のペギー・フラナガン氏が繰り上げで知事となりますが、そうすると建国来初の女性のネイティブ・アメリカンの州知事となります

ミネソタ州は、13州で独立を果たした合衆国に当初から属していました
当然ながらネイティブ・アメリカンとの良い悪いを含む歴史を残す州です
ハリスが大統領に選ばれるよりも大きなこととも考えるほどですが



一方で、問答無用で共和党の大統領候補者となったドナルド・トランプ氏が唱えるMAGAの中身は、所詮は1980年代のネオリベラリズムによるレーガノミクスの焼き直しに過ぎません

もうとっくに死んだ奴らやもうすぐ死んでしまう爺さんに、自分たちが生きねばならないこれからの社会を決められるなんてまっぴらごめんという感覚を「Z世代」の人たちは持っています
「Z世代」という呼称さえ、年長世代が勝手に付けただけと不満気味の人たちです

そしてトランプ氏が相棒に選んだヴァンス氏がとんだ失敗になりました
その演説は下手くそ極まりないとバレてしまい、女性を敵に回す発言ばかりで人気は急降下しています

ウォルツ氏が人の心を打つ演説の名手であることは候補者選出後の始めての場で、全米の有権者が呆気にとられるほどの誠実さと共に既に示されたのとは、あまりにも対照的だと言えましょう

生中継された初めての演説で、熱中症で倒れた聴衆一人のためだけに、その方の救助が終わるまで演説そのものを止めて待ったのですから、これはもうそりゃ演出なんかじゃなくてホンモノだとなりますよ

ウォルツが出た時点で「勝負あり」と僕は断言したと判定したと前編で書きましたが、それはそうしたすべてを含んでのものでした


21世紀を生きていく人たちは、いつ見ても口汚ない言葉で罵ることしかできない犯罪者でもあるような爺さんは、もう退場してもらって結構とすら感じているとも思いますね

勝負勘の鋭いビジネスマンでもあるトランプ氏自身だからこそ、これは負けたディールだと判断を下しているはずの勝負です
でなければ、ヤケクソ気味で弱気を感じる発言ばかりが目立つなんてあり得ない、「強い人」なのですから

もちろん選挙は終わるまでわからないものではありますから、絶対ということは誰にも言えません

ただ、将来に希望を感じさせるものと、今現在まで支配し続ける過去の亡霊を体現するものを比較して、どちらを選ぶかとなると答えは見えるんじゃない?と再確認させられました

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