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地方で探究学習塾を開いてみた

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不登校を選ぶ子どもたち

「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない。」

村上龍さんの『希望の国のエクソダス』を読んだことはありますか?学校という場に不満を持ち不登校になった中学生が起業し、世界を変えていくという物語です。

私はいま、山形県の米沢市という土地で探究学習塾を開いています。成績を伸ばすよりも、好きな事を見つけ、追及していくことに力を入れている塾です。

どんな生徒が通ってくれているかというと、これまで大手の学習塾や家庭教師をしていた経験からみても、不登校(あるいは不登校経験者)の生徒が割合多くいると思います。

なぜ彼らは不登校になるのか?勉強ができないから、ではないんです。逆です。

むしろうちに来る子は、勉強ができすぎてしまい不登校になる子が多い。自分の頭で考えているからこそ、学校の仕組みや一律的に同じことをやらされることに疑問を感じ、通わなくなっていく。そんな感じです。

だから、めちゃくちゃ面白い子が多い。学校に行っていなくても、「そんなことできるの!?」ってびっくりさせられる子がいます。例えば、ある子はマリオメーカーで個性的なステージを作っていて、世界ランキング上位に入ってたりする。ある子は授業の進行が止まるくらい次々と質問をしていって、時にはぱっと答えられないような鋭い質問をする。もちろん不登校の子に限らずですが、本当に面白い子が集まってくれています。

まちづくりで見えてきたこの国の課題

そもそも、なぜ私は探究学習塾を米沢という地で開いたのか。実は、山形県に来てから、東大卒ということもあって塾を開いてほしいということはよく言われていました。でも、まったく塾をする気はありませんでした。

受験塾をしたら、東京の先生方から学んだいろいろなノウハウを伝えることはできるかもしれない。でも、受験を乗り越える子が増えたからといって、地域が変わっていく未来は見えませんでした。

そして、もう一つ大事なこととして、中高時代の友人・知人にもいましたが、親に「成績」のことを言われれば言われるほど、本人も楽しくなくなり、成績も伸びないという人をたくさん見てきました。

成績を伸ばすための受験塾を作っても、地域は変わらないし、生徒も不幸になってしまうかもしれない。だから、塾は作りたくなかったんです。

でも、山形に来てまちづくりを進めていく(詳しくは前の記事を見てください)うちに、教育の重要さに気づきました。

まちづくりで関わる大人たちに、「こんなことやったら面白いよね」「こういうことをやってみたい」と話す人がほとんどいなかったんです。「まちのために何かしたい」「手伝うことがあったらぜひ呼んでほしい」という人はたくさんいました。しかし、自分から何かアイデアを出してやってみたいと思う人はほとんどいませんでした。

もちろん、そういう人たちもまちづくりの上では重要です。何も、劣っているとかそういうわけではない。だけど、手伝う人ばかりで、発案する人がいなければ、きっと地域は変わらない。要はバランスの問題です。アイスの乗っていないコーンばかりでは美味しくないのです。

アイデアを考えて実践してみることはとても楽しいことなのに、なんでみんなやらないんだろう?

その答えも、まちづくりの中で見えてきました。

まちづくりの中で出会う中学生や高校生たち。彼らと話していると、「特に中学では好きな事をさせてもらえなかった」「こういうことをやりたいと言ったらダメだと言われた」という話がいくつもありました。

新しいことや他の人がしていないこと、他の人が通らないような進路を行こうとすると、言い方は悪いんですが、「それが当たり前なんだ」と、知らず知らずのうちに潰されてしまう。失敗する経験も、成功する経験も、他の人がやっているような形でしかできない。

それでは、主体的な人が育たないのも仕方ないと思いました。極端な話、「自分で考えたことはやっちゃダメ」という環境にいて、自分で考えたことをしていく人はなかなか出てこないですよね。不登校にもなります。私も同じ環境にいたら、きっとなります。

この国には希望がない。

目前の世界を自分なりに研究し、未来を妄想し、未知に自分を投げ込んでいく。そういう楽しみを奪われたならば、きっと希望はない。

それが、僕が塾を始めた理由です。

探究学習塾ESTEM

勉強は楽しい。やらされる勉強ではなくて、知識を得ること、そしてそれを活用することは楽しい。そう感じられる場所があれば。

好きな事をするのは楽しい。自分で思いついたことならなおさらだし、他の人がやっていなければ想像もつかなくてわくわくする。好きな事に取り組むことを全力で応援する場所があれば。

塾を開きました。

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学校の勉強も教えますが、探究コースという様々な分野を面白く伝えていく授業と、学び実践コースという学んだことをもとに自分でアイデアを考えて実行していく授業が、今は中心です。

探究コースは、大航海時代の人に焦点をあてて歴史を楽しく学ぶ授業(YouTubeに公開しています)、目の前にある見えない世界というテーマで元素や微生物について考える授業、ギャンブル統計というゲームや世の中の事象を数学的に考えてみる授業など、好きな分野を見つけてもらえるよういろいろなテーマで授業をしています。できるだけリアルなものに触れてほしいということで、今進めている微生物の授業ではシュールストレミングやくさやを実食(希望者だけですが)したり、微生物の培養をしたりしています。

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学び実践コースでは、今はお金の教室と題して、株式投資のシミュレーションサービスで競争をしながら、世の中の会社や稼ぎ方を深く知っていく授業をしています。これから実践的な事業立案に進んでいくところです。

これまで授業をしてきた手応えとしては、、、毎回勝ったり負けたりです。

生徒のためと、いろいろ画策してもまったく生徒に届かないことも多々あります。思いがけないところで授業の影響がみられて生徒の成長を感じるときもあります。普通の塾と違って点数が伸びたとかで測れないので結果が見えづらいですが、それでも塾を開いてよかったと思っています。(そんなわかりづらい塾に通わせてくださる親御さんには本当に頭が上がりませんm(__)m)

生徒たちが、周りの大人に流されることなく、客観的に自分の現在を考え、すべきことを見つけ、没頭することが、将来の可能性を拓いていくと信じています。これからも試行錯誤を続けていきますので、こんな取り組みをしているやつがいると知っていただけると嬉しいです。

機会があれば実際にやってみた授業アイデアとか、エピソード的な話とか、探究塾を開いたうえで感じているハードルだったりとか、いろいろ書いていこうと思うので、ぜひフォローよろしくお願いします!

Twitter:@oogakitakahiro

今回の記事はYUKIYAサイエンスエデュケーター/バーチャル理科おねえさんの企画「学術教育サイエンスコミュニケーション系 Advent Calendar 2020」に乗らせてもらって書きました。YUKIYAさん、こんな機会でもないとなかなか書こうとしないので、企画ありがとうございます!

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