マガジンのカバー画像

短編小説

4
運営しているクリエイター

記事一覧

「サラダとワインと夫の」【短編小説】

「サラダとワインと夫の」【短編小説】

 結婚して五年。夫婦のセックスレスは世間的にどのくらいの年月で訪れるものなのか。ご近所の山田さん、坂口さん、森井さん、その他の奥さんは未だに旦那様に抱かれているのかしら。
 容赦の問題。ええ、わかるわ。いつまでも女として見られるための努力。それは怠らず毎日磨いているはず。山田さんの皮膚の垂れた首元、坂口さんの大きな腹や尻、森井さんの手入れのされてない髪、それぞれと見比べても私はまだ保っている方じゃ

もっとみる

「若きに真髄」【短編小説】

 老いた男はその潤しい肌に囚われている。罪とも言いたいその芸術にどう触れていいのやら、この醜い指紋一つですら付着してしまうのは惜しい。この衣服一つとっても邪魔だ。布団の上で捩れ動く彼女をこんな淫らな姿にしたかったのではない。けれども私にはどうすることもできないのだ。自ら脱ぐ若きその身体に手を出してしまっては、私の中の悪魔が黙っていない。そうだ、淫らになってしまうのは私の方なのだ。彼女の裸はどれだけ

もっとみる

「四十路」【短編小説】

 忘れてはいけません、女としての何かを。
 思春期という輝かしい桃色なお年頃はとっくに過ぎて、別人の誰かのようでもあるあの頃は鏡が好きでした。お風呂が好きでした。はだかが好きでした。つやつやと滑る白いそれに触れ、鏡の前で見つめるのが好きでした。綺麗でしたもの。細胞一つ一つが汚れを知らないようで、男の子に興味もございませんでしたわ。私が私でいられたらそれで満足であって、私を一番に愛せるのは私しかいな

もっとみる

「昨晩」【短編小説】

 昨晩。あんなに愛し合っていたのに。愛し合っていたはずなのに。
 カーテンの隙間から差し込んだ日差しで目を覚ました私は、生まれたままの姿だった。性器の違和感が昨日の熱い夜を思い出させる。淫らにうねり、快感のままに喘いだ自身の姿が二日酔いのように蘇った。私は感じるばかりで、記憶の中の視界は朦朧としているけれど、あなたの名前を確かに呼んだわ。何度も何度も、大股を広げながら背中に腕を回して、呼んだわ。あ

もっとみる