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君のこと。

幼馴染、かなあ。

あの頃の二人の関係は、
そうとしか
呼ばれたことがない。




学校が休みの日、
丘に登って
草原に座り込んで、

君は本を読んでた。

うちは
サンドイッチとか作って
持って行って、
君とそれを食べて、

あとは寝てるだけ。

ピクニック


「何読んでるの?」
「ドストエフスキー。”罪と罰”」

(うーん、知らないなあ。
でも題名からして、そんなすました顔で
読めそうな本には思えないけど。)

「ちょっと貸して?」
「いいよ。」

【パラパラ...】
「ごめん、やっぱり返す。」



その場に寝転がって、目を閉じた。

君が本をめくる音が聞こえる。
風がわたる音が聞こえる。
小鳥の声が聞こえる。

5月なんだ。
今年も、もう。

何をしようかなあ、
明日もお休み。

「ねえ、明日も晴れたらさ、
またここに来ない?」
「いいよ。」

「でさ、ねえ。
本を交換しようよ。一番おすすめのやつ。」
「いいよ。」

あっさりしてるなあ。

でもま、よし
明日も会えるみたいだ。晴れるといいなあ...





寝ころんだまま

本を読む君の
しずかな横顔を見て、

うちは
明日の約束をしたことが
恥ずかしくなってきた。

今うちらは、
二人でここにいる。
君は今日も、
時間を割いて
うちと過ごしてくれてる。

今日はこんなに晴れて
いい天気。

だのに、
何でうちは
明日の約束なんてしてしまったのかな。

雨で会えなかったら、
とっても悲しいじゃないか...

そしたらきっと、なんで昨日の時間を、
もっと大切にできなかったのかって
後悔する。


もんもんと考えてる
うちの横で、

相変わらず君は
すました顔で、落ち着いて、
本を読んでる。





落ち着くことにしよう。
このひと時を
味わい直そう。

もう一度寝転んで目、閉じる。

風がシャラシャラ、いってる。
頬に当たってくる感触、
気持ちがいい

君がそこにいて、
どんな顔をしているのか、
目を閉じていてもわかる。






手で笛を吹くことを覚えたばかりなので、
君の前で披露しておこうかな。


うちはメロディーを吹く。
君は何も言わない。
ぱらっとページをめくる。

終わって
風の音。

君はまだ、
本に目を落として、
しずかにしている。

でも、
なんとなく、

聞いてくれてたんだろうなって、
思ったよ。

君からくる
暖かい雰囲気が、
言っていた。

(どうぞ。もう一曲ふいて。)

だから、
とっておきの曲を吹いた。


風と共演して。
思いのたけをにじませて。

終わった後、
やっぱり君は、黙って
ページをめくった

けれど、
そのめくる音。
ちょっと湿り気があって、
艶っぽかった。

その音が、妙に耳に残って
その日の記憶の中で
鮮烈に光ってる。

返事を、してくれたのかな。







今、思い出す。

やっぱり君のこと、

大好きだったんだ、と思う。

あの頃は知らなかった。
そんな言葉も。

ただ
まぶしさに目がくらんだり、
胸が苦しくなったりしただけ。

誰と会っても、
どこに引っ越しても、

あの頃の時間。
君の横顔、後ろ姿。

記憶が、
魂に沁み込んでしまったみたい。

大気中の酸素のように。
海の塩のように。

今も、この心のなかに。

あの日の、光と風。
名づけられないものまでも
そのままに。


27years old,5.2,Mizuki






絵を描くのは楽しいですが、 やる気になるのは難しいです。 書くことも。 あなたが読んで、見てくださることが 背中を押してくれています。 いつもありがとう。