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1個5,000円になってしまった僕たちのソウルフード ”うに貝焼き”

生のうにを貝に敷き詰めて蒸し焼きにしたいわきの郷土料理「うに貝焼き」が1つ5,000円と聞いてどう感じますか?郷土料理としてはかなり高額ですよね。私もそう思います。なぜここまで価格が高いのでしょうか?
私たちおのざきは、この価格に納得してお買い上げ頂くために商品に宿る物語を伝えるストーリーテラーでありたいと考えています。
2022年6月いわき市 沼之内漁港にある、うに貝焼き加工所にお邪魔して加工の全工程と競りまでの一部始終を私たちの目で見てきました。伝統の製法、直面する課題など作り手さんが語ってくれた事こそ伝えるべき内容だと改めて考えさせられました。


うに貝焼きとは?

うに貝焼きは日持ちしないうにの保存対策として江戸時代末期から作られ始めたと言われています。新鮮なムラサキウニの身を取り出し、ほっき貝の貝殻に敷き詰めて蒸し焼きにします。生のうにとは全く異なる、ふんわり優しい風味が特徴です。お酒の肴としてちびちびつまむのも良し、ホカホカご飯に乗せてたっぷり味わうのも良し、楽しみ方は様々。かつてはいわきのソウルフードとまで言われたうに貝焼きですが、東日本大震災の影響で震災前の10%程度しか出回らない、貴重な逸品となってしまいました。

うに貝焼きは流通量が少ない希少品

朝9時、いわき市沼ノ内港に着くと既に漁師さん達の仕事は終盤を迎えていました。テキパキと働く彼らは活気があり、ついついこちらも「おはようございます!」の挨拶のボリュームが大きくなります。

競りが行われる棟の脇に新しめの小さな建物があり、ここでうに貝焼きの加工が行われているとのこと。
建物の中は整然と整理整頓されていて非常に清潔感のある空間です。

なぜ伝統的な郷土料理の加工所がこんなに真新しい建物なのか?
福島県沖では原発事故のあと、安全が確認された魚種や海域に限定して小規模な操業と販売を試験的に行い、出荷先での評価を調査して、福島の漁業再開に向けた基礎情報を得る「試験操業」が続けられていました。2015年にようやく試験操業がスタートしたうにですが、魚よりも試験操業開始が遅れた理由は津波で加工所が流され、修復が間に合わなかったからだそうです。水揚げしても加工する場所がなかったんですね。

震災前、うに貝焼き作りの状況はどうだったのか?実は各家庭の奥さんやこども達が主な作り手でした。水揚げ量上限が決められている現在は、いわきに2カ所ある加工施設で共同加工しています。いわきの11の浜から平等に人を集め、作り方も統一、作業人数も1日5人までと決められています。まったくビジネスモデルが変わってしまったんですね。震災前のように6次産業を盛り上げようにも、既に漁業関連の仕事を辞め、やむを得ず違う職業に就いた方も多く、戻って来る人が少ないというお話でした。
肝心の水揚げ量も震災前の数%というデータもあり、流通量の激減が大きな要因となり価格が上がってしまいました。
うに貝焼きは今では地元の人も驚く価格になっています。おのざき四代目(26歳)がこどもの頃は1,000円ちょっとで手に入ったそうなので希少価値とともに価格も急上昇しています。

いざ作り手さんの元へ

うに貝焼きの工程は次の通り。驚くのはこの全てが手作業だということです!

  1. うにの殻を割る

  2. ひとつずつ丁寧に身を取り出し汚れを取る

  3. さらに細かい汚れをピンセットで取り除く

  4. ほっき貝に盛り付ける

  5. 蒸し焼きにする

1.うにの殻を割る

この日は若きエースTさんがひたすらまだ生きているうにの殻を開いていました。ケースいっぱいのうにをさばくのに薄いゴム手袋一枚と包丁で作業するので、手にトゲがささらないのか心配になります。

小さめの包丁で殻を開けていく

2.ひとつずつ丁寧に身を取り出し汚れを取る

身を傷つけないようにまるで生まれたての赤ちゃんに触れるようなタッチで扱います。木製のスプーンでクルッと綺麗に取り出していましたけど、きっと素人がやると身が崩れてしまうんでしょうね。職人技です。

力を加えず優しく取り出していく

3.さらに細かい汚れをピンセットで取り除く

そこまで丁寧に!と驚くほど細かな汚れも見逃さずにピンセットを使ってうにの身だけになるよう作業していきます。ここの工程が本当に時間が掛かる!昔ながらのやり方は殻から身を外す前に汚れを取るスタイルだそうで、このように各家庭毎の特徴があったそうです。

先の細い医療用ピンセットで行う細かな作業

4.ほっき貝に盛り付ける

見学中に面白い事を教えてもらいました。
”このほっき貝、いわきのじゃないんだよ”
教えて下さったのは見学で大変お世話になった、もはやうに貝焼きの広報宣伝部長とお呼びしたい、Mさんです。
え!ほっき貝といえばほっき飯も有名だし、常磐ものの代表格なのになぜ?
”いわきで採れるほっき貝は殻が分厚いから北海道産の殻をわざわざ購入している”、とのこと。分厚い殻だと不具合が生じる理由にびっくりしました。なんだと思いますか?
うに貝焼きは贈答品としても重宝されるため、なんと殻の端を手作業で綺麗にカットしているそう。
”この殻を仕入れるところからうに貝焼き作りは始まってるわけ”とMさん。
丁寧です。丁寧すぎます。

美しく加工されたほっき貝

うにの盛り方にも沢山の拘りがありました。
貝の底に敷くうには少し形が崩れていたり色が良くないもの。それをたっぷり敷き詰めたらスプーンで少し身を崩します。こうする事で食感に違いを出しているそうです。その上にこんもりとうにを重ねていき、最上部には形と色合いが美しいものを乗せます。ここでも仕上げにピンセットを使って細かな汚れを取り除いていきます。最後に握るか握らないかギリギリの圧力(私にはそう見えました)を加えます。Mさんの握ったおむすびも美味しいんだろうな〜と連想させる絶妙な力加減でした。
蒸し焼きにするまでの間は水分状態を保つのと乾燥防止のため冷蔵庫で保管しておきます。

ほっき貝にうにを盛る工程

5.蒸し焼きにする

いざハイライト!専用蒸し器には砂利が敷かれていて、その上に貝焼きを乗せていきます。砂利が敷かれている理由は遠赤外線効果で美味しく仕上がるからで、石焼き芋と同じ原理ですね!

専用の蒸し器に貝焼きを並べる

蓋をして9分間蒸し焼きにします。そろそろ蒸し上がるという頃には部屋の中にうにの良い香りがふんわりと香ってきます。蒸し上がりのアラームが鳴るとベテランの方に仕上がりをチェックしてもらいます。勿論、串を刺したり触ったりするわけではないので完全に目視での判断です。これはもう熟練の職人技以外のなにものでもないですよね。素晴らしいです。
蒸し上がったうに貝焼きはバットに乗せて冷まし、粗熱が取れたら手ぬぐいで乾燥と酸化防止をしながら梱包する時間まで保管します。

蒸し上がったばかりの貝焼き

”競りは午後2時から始まるから、絶対にその時間までに間に合わせないといけない。この仕事はちょっと待ってが効かないんだよね。”と言いながらMさんは手際良く作業しながらうに貝焼きの事、漁業のこと、おのざきに期待することを話してくれました。

Mさんが教えてくれた大切なこと

Mさんは手際よく手元の作業を続けながら、私たちが知らなかった事をたくさん教えて下さいました。
昔はうにの殻を畑の端に固めて置いておくことで蛇よけにした事、北海道から取り寄せたほっき貝はひとつひとつカット線を下書きし、ある程度の大きさまではハサミでその後はサンダーで切り口を滑らかにする事、うにの盛り方に個性が出るので誰が作ったかわかる事。
それぞれのエピソードがあまりにも新鮮、そこに加えてMさんのユーモアあるトークに笑いあり感動ありで一同お話に聞き入りました。

中には、どう相槌を打てば良いか難しい話題も。例えばこんな事。

”作業する人は5人って決まってるから少々体調が悪くても休めないんだ”
当日急に体調が優れなくなっても無理を押して仕事にくるそう。誰か一人欠けても支障が出るギリギリの状態で運営されているそうです。人件費問題もあるので安易に人数を増やすことも難しいとのことです。

こんな質問もしてみました。
いわば伝統を引き継ぐ仕事、お子さんにも引き継いでもらいたいって思いますか?
”うちの子にはやらせない!そのかわり外の世界を見たい、と言ってきたら送り出してあげたいからそのための教育費は出してあげようと思っているけどね。”
うに貝焼きの未来はどうなるんだろう、そう感じてしまう自分がとても身勝手だなと思い何も言えませんでした。

そして一番印象的だったのは、Mさんのこの一言。
”私たちは捕ってきて作るだけ。それを上手く売るのはおのざきさん達の仕事だから。頑張って売ってね。”
改めて、商品に宿る物語を発信することで真っ当な価値をお客様にお伝えしていく小売事業者としての使命を考えさせられました。うに貝焼きに限らず、商品を安く売り捌いて誰かが無理をしている状態を、私たちは望みません。その商品が店頭に並ぶまでに関わる方々の想いを乗せて、価値に納得して買って頂く。これまでも、これからも私たちが大切にしていきたいポリシーです。

最後まで読んで頂きありがとうございました。
うに貝焼きは5月〜8月がシーズンです。いわきの郷土料理を楽しんでみませんか?ひょっとしたらお手元に届くのはMさん達が加工したうに貝焼きかもしれません。(加工所見学当日に競りに参加し、おのざきは34個の貝焼きを競り落としました)

左側、黒の半袖Tシャツがおのざき4代目

いわき産うに貝焼きのオンライン販売はこちらから

【2022年新物】いわき産うに貝焼き(1個)
販売価格:5,500円(税込)
※2022年7月1日〜8月31日まで送料無料でお届けします


カメラマン:熊田 誠
https://twitter.com/MakotoKumada
写真家。福島県内のスナップ写真を中心に撮影。写真集「#霞が晴れたら」(2022/3/6リリース)著者。
※一部写真はおのざきスタッフが撮影しました

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