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『これが生活なのかしらん』読書感想文

nobrock tvの「ダウ90000蓮見 嫉妬した芸人&クリエイターベスト10」の回を見て、読みたいと思った本。


視聴後すぐにAmazonにて購入したのだが、急速に人気が出たせいで在庫がなくなったのか、到着予定日当日に注文がキャンセルされてしまった。

こんなことは初めてで驚いたのだが、どうしても読みたかったので直ぐに再トライした。すると、増刷されたおかげか、すぐに届いた。
蓮見さんの影響力、すごい。


作品は、「これが生活なのかしらん」という詩から始まる。

「ワクワクする始まり方だな」と思いながらページを捲っていくと、びっくりすることに、そのワクワクは最後までずっと続いた。

というのも、その後に続く文章にも独特なリズムがあり、詩の様な読み応えだったのだ。
作者の小原さんは、「詩人」が本分なのかな、と思った。

それは、ユニークな表現方法にも度々表れていた。特に作中に何度も使用される擬音は、見たことない平仮名の並びばかりで、より強く「詩人」という印象を与えられた。

作品全体の構成のとしては、一つ一つのエッセイが短く、詩の延長の様な読み応えだった。
しかし、それらが連なると、登場人物を頭の中で思い描きながら読み進めることができ、小説の様な読み心地もあった。
とはいえ、一章ごとの時系列はバラバラで、厳然として小説には出せない趣もあるという、本当に不思議な作品だった。

なので、やめ時がわからなくなり、吸い込まれる様に一気に読んでしまった。


内容も、とても面白かった。

私は勝手に、エッセイとは、それぞれのエピソードに自分の考えが紐付くことによって成立するものだと思っていた。
例えば「風呂場と町田さん」などは、手紙を残していなくなった町田さんに対し、筆者が思いを馳せるところまでがワンセットなのだと思っていた。しかし、このエッセイはいなくなったという事実だけで話が終わる。
他にも、トイレットペーパーの話や斎藤さんの話など、ただ描写に終始する話が多々あり、表現の自由さに驚いた。

最初は、筆者がどう感じたのかをもっと知りたいと物足りなさを感じた瞬間もあったのだが、読み終わってから、この読み心地だからこそ自分の思いが重ねやすかったのだなと思った。

私の解釈と違う余計な考察が挟まれないため、自らと作品がリンクして、思い出がクリアに蘇ってきたのだ。

夏に誰もいない実家でチューペット食べながらいいともを見た思い出や、新社会人でキャッチの様な仕事をさせられた時に得た学びや、兄弟に対して抱えたコンプレックスと感謝など、自分も似た様な経験をしており、読みながら、それらの記憶をありありと思い出すことができた。
これは、この作品の描写が美しくて鮮明なおかげだと思う。

記憶は移ろって、新しい記憶にすぐ塗り替えられてしまうけど、きっかけさえあれば良い保存状態のままで取り出せることもあるのだな、と思った。

この作品は、色んな人の何かを刺激するトリガーのような作品に感じた。

また、作中で自身の経歴を説明しすぎていなかったため、作者の人となりが、ぼんやりとしか捉えられなかった。

基本的に同じ作者のエッセイを複数冊読みたいと思うことは稀なのだが、この作品は、読み終わった後に、もっと作者について知りたいと思わされた。


最後に、表現の鋭さにも触れておきたい。

これまでは、「作品の持つ曖昧さ」に触れてきたが、エッセイ独特の痺れる感覚にも何度もなった。

特に「恋って反射でしょう」とか「おなじふたりに名付けられた私たち」とかは、自分の中のモヤモヤを人生の先輩に言語化される気持ちよさと悔しさがいっぺんに襲って来た。言葉の操り方のうまさに舌を巻いた。

結論として、綺麗な描写に感傷的になったり、独特な文体を楽しんだりと、今までに経験したことのない読書体験だった。

処女作や新作もぜひ読みたいと思った。

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