見出し画像

『そして誰もいなくなった』読書感想文

ミステリー好きで、この作品をオマージュした物語も読んだことある癖に、オリジナルをまだ読んだことないのは恥ずかしいなと思って読んでみた。

読了した感想としては、面白すぎた。
やっぱり名作は何年経っても名作なんだなと思った。当たり前だけど。

まず、ストーリー運びがめっちゃ丁寧だなと思った。

冒頭、島に向かうまでの道すがらの描写で、それぞれのキャラの性格や振る舞いを明らかにしてから本編が始まる。なので、登場人物が多いにも関わらず、島のパートに入っても余計な混乱をしなかった。

そして、島に入ってからも全然読者を置いてけぼりにしない工夫がいくつもあったように感じた。

例えば、キャラの職業を全員バラバラに配置していることが、読みやすさに大きく寄与していると思った。

まず「判事」を入れることで、登場人物達がストーリー中に現状把握を逐一行なっても無理がないような読み心地になっていた。現状を要所要所で噛み砕いてくれる説明役がいることで、読者としても最後まで推理を楽しみながら読めた。

そして、死んでるかどうかを判断したり、死因の説明に説得力を持たせるためには「医者」が必要不可欠である。

その他のキャラも、それぞれの職業に準えて自分が犯した罪を隠し持っており、その描き分けが物語に華を添えているので、見事だと思った。

結果、物語を進めてくれるキーマンの2人に対する信頼感を読者に産ませること自体が、作品全体のミスリードにも繋がっていたことを考えると、本当にプロットが練られているなと思った。

次に、視点が3人称なのもすごいと思った。
犯人の1人称か、探偵役の1人称にすれば、そいつの目から見て矛盾がなければ物語として成立する。

でも、この物語は色んな人間の視点を含む3人称で進む。そのどこにも、一読しただけでは矛盾を感じないのがすごい。

描写が淡白なのも、その矛盾が生まれないことに一役買っていると思う。しかし、必要なことは過不足なく描かれているので、全く退屈には感じない。それが名作たる所以だろうなと思った。

また、3人目が明らかに他殺されるまで連続殺人鬼の可能性を疑わないのが、めっちゃリアルだなと思った。

偶に出くわすミステリで、登場人物全員が妙に飲み込みが早く、1人目が死んだ時点で「クローズドサークルだ!」みたいになるのが、どうにもリアリティに欠けて、興醒めすることがある。

見せたいのはトリックだから、そこは重要じゃないって意見もあるのかもしれないけど、個人的にはそこがしっかりしてないと物語に入り込めない。そして大抵、そこにこだわってない作品は、トリックも薄いと感じることが多い。

しかし裏を返して考えてみれば、そういう作品が世間的に普通に受け入れられているのは、あまりにもこの作品が人口に膾炙しすぎているせいだと考えると、改めて偉大な作品だなと思った。

最後に、ラストの種明かしで「十角館の殺人」のオマージュたる理由もちゃんと認識できたので、本当に読んで良かった。

この作品が名作たる所以が分かったし、以降クローズドサークルものを書いたら、全部この作品と比べられるって考えると、影響力がエグすぎる。そんな作品をこの世に生み出せる才能に、純粋に惚れ惚れした。

これからは、この作品を足がかりに海外の名作文学も読んでいきたいなと思った。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?