見出し画像

14.人情と衰退〜『大阪SFアンソロジーOSAKA2045』感想書評〜

文芸フリマにて買わせていただいた本。当日は神戸のガイドブックや東京と大阪の往復書簡など地理的なものばかり買ってしまったが、この一冊もその一つだ。


「バンパクの思い出」北野勇作
落語を思わせる軽妙な語り口で「バンパク」の思い出が語られる。1970年のものと2025年のものが混ざり合い、いつしかその記憶が自分のものなのか、誰かのものなのかわからなくなる。ラストの叫びが明快かつ鮮やかですっきりしたエンターテインメント。なんとなく漫画『アイアムアヒーロー』を思い出した。

「みをつくしの人形遣いたち」玖馬巌
AIと人間の関係性を、文楽の人形と遣い手に例えたのは面白い。我々は技術の発展に恐怖することもあるが、この技術の遣い手の人間の思想にもっと目を向けるべきだと思えた。

「アリビーナに曰く」青島もうじき
アリビーナは有名なソ連の宇宙犬ライカの控えだった犬。文体が抽象的だが、詩的で幻想的な雰囲気があり個人的に1番好きな作品。人類の進歩と調和という過去の万博のテーマと「持続可能性」が繋がり、自律して新陳代謝して再生産を行う機械が宇宙を目指す物語を想像させる。僕はかねてから人類の技術の探究の究極点は「宇宙の複製」だと考えているので、読んでいて脳みそが刺激された。

「チルドボックス」玄月
舞台設定が面白い。少子高齢化や福祉の逼迫の対応策として若者と高齢者のペアリングは面白い思考実験だ。時代に適応できない高齢者の哀愁と、国粋化する若者の描写には切なさがリンクするのは作者の「優しさ」を感じる。「うまく生きること」という課題を老若に共通させることがその優しさを思わせるのだろう。

「Think of All Great Things」中山奈々
生き辛さを綴った短歌編だと思ったが、現代でも通ずるもので、あまりSFらしさや大阪らしさは感じられなかった。短歌は光景や心情を限られた文字で表現する特性故に、読み手と書き手が同じ時代背景を有していることが重要なのか? SFと短歌の相性をもっと探ってみたいと思った。

「秋の夜長に赤福を供える」宗方涼
何がいつ起こりどうなったのか、丁寧で無駄のない文章だと思った。大阪に菊人形があるとは知らなかったし、南海トラフ地震が起きた時の地理的な状況を想像することが新鮮だった。浪漫の作品ではなく、自然派的な作品だと感じた。

「復讐は何も生まない」牧野修
痛快エンターテインメント。ただ大阪要素が関西弁だけなのが個人的にちょっと残念。

「みほちゃん見に行く」正井
個人的に一番「大阪市内」を感じた。寂れた住宅街や、物の多い部屋、淀川の河川敷で鳥について教えてくれたみほちゃん。大阪に限らないが、こういった生活感のある文章は特有の匂いがある。その匂いに寂寥を感じるか郷愁を感じるかは人それぞれだが、僕は愛おしさを感じる。劇場版パトレイバーの東京の下町の描写を思い出した。

「かつて公園と呼ばれたサウダーヂ」藤崎ほつま
故人の記憶を追体験する手段として、3D映像やCGが使われる時代はもうすぐそこまで来ているだろう。偉人や著名人だけでなく、一般市民にもそんな体験が開かれたとしたら……という物語。公園を巡る叔父さんの名前にピンとくる。遊び心がたくさん詰まった素敵な作品。大阪の公園で将棋や野球に憩う人々を自然に思い描けた。

「アンダンテ」紅坂紫
大阪、というか大阪行政は文化に冷たい街……という印象はかなり強い。音楽もまた然りで、それに抗うバンドを描いた一作。長編小説のごく一部という印象で、もっと長い作品も読みたくなった。


どの作品も「大阪」「SF」「2045」という要素に対して、作者のアプローチが異なっていて面白い。アプローチとして目立ったのは「大阪弁」「人情」「おっちゃん」「衰退」というところだろうか。
大阪らしさとは何だろう、と住んでいて常々感じる。以上の作品のアプローチはどれも大阪らしさを感じる。ぶっちゃけ「じゃりン子チエ」的世界観だ。そことSFを掛け合わせると、テクノロジーに翻弄されながらも逞しく共存する市井の人々が浮かび上がる。ブレードランナーの世界の大阪では、おっちゃんがレプリカントの愚痴を言いながら大阪駅ビルの深い地下で飲んでそうだし、人類が宇宙進出して異星間交流し始めた未来でも大阪は「地球土産にオススメ!」と街中デカデカ広告を打っている気がする。

一方で、作品たちの未来の描写として「衰退」している描写が多いと思った。たしかに現代の社会問題……少子高齢化や、芸術文化の保全、テクノロジーと倫理観の問題など、2045年には進んでいてほしい議論がいくつもある。その問題が今以上に破綻に近づいているとしたら、とても悲しいことだ。とはいえ、これはSF的お約束というか、未来を描く時は諸問題が必ずセットになる。AIに職を奪われる労働者とか、テクノロジーについていけない高齢者とか、衰退する集落の最後の住民とか、海からイルカが攻めてくるとか。
僕たちはメディアや学校で「この問題を放置するとこんなヒドい未来が来るぞ!」という刷り込みを受けているので、悪い未来についての素地は十分にあるだろう。ただ、その逆の未来もまた想像できる。つまり「今の問題はこんなアイデアとテクノロジーで解決しちゃいました!」という、希望に溢れた未来だ。ドラえもんの秘密道具のようなアイデアが飛び出してくる作品をもっと読んでみたい。スマホが良い例だが、20年前には出来なかったことが出来る未来に我々はいる。20年後には、きっと今の問題を解決しうるアイデアが生まれているはずなのだ。そう信じよう。

いつか、夢洲の先くらいに軌道エレベーターが出来て、先端のステーションから宇宙船に乗り込める未来、船場エリアが近未来都市として高層ビルがグングン建造され、箕面のスパガーデンまで空飛ぶマイクロバスでひとっ飛びの未来、そんな未来を思い描いてみる。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?