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脱分業発想でイノベーション

岡村 衡一郎

 「係りの者がまいります」。

 ホテル業の方は、違和感なく使っている言葉のように思う。

 先日あるホテルでズボンプレッサーと携帯充電器をお願いすると、別々の人が部屋まで届けてくれた。チェックアウト後に「部屋に忘れ物をした」とフロントで伝えると、「いま係りの者がお持ちします」との返答だった。
皆、丁寧な対応と笑顔で接してくれるけれど、サービスとサービスの間に隙間ができてしまう。

 これが、分業の弊害だ。

 イノベーションと分業発想は相性が悪い。季節のイベントを企画する人。宿泊客の対応をする人。レストランの運営をする人。それぞれがしっかりとやることで、満足が高まるという前提にあるのが分業である。チェックイン時に朝食のおすすめメニューを伝えられれば楽しみは広がるはずだが、私の経験ではこのような場面に出会うことの方がまれだ。

 パークホテル東京は、ポジションは最低限の役割分担であるとの認識のもと、分業発想のマネジャーはいない。部門を超えて「日本の美意識が体感できる時空間」になるために協働している。自分が率いる部門のクオリティーを上げることとホテルの目指す姿を形にすること。

 この二つの責任を担っているからだ。

 宿泊支配人はイベントの企画もすれば、食事のメニュー開発にも携わる。
企画マネジャーでありながら、宿泊対応の人材育成プログラム責任者でもあり、料飲部門のリーダーは、宿泊客への企画展示案内「アトリウムツアー」を買って出る。

 互いの仕事への線引きはなく、日本の美意識を体感いただくために仕事をしているのだ。各ユニットリーダーが連携するのが当たり前であれば、当然メンバーの連携もよくなっていく。部門間の壁は、リーダー同士の関係がそのまま表れていくものだからである。

 あるゴルフ場はフロント、キャディー、レストランの仕事を持ち回りで行ないサービスの間をなくすことで圧倒的な顧客満足につなげている。
以前はポジションを固定していたが、お客さまはフロント対応の不満があればキャディーに言うし、レストランの味に関するコメントをキャディーに伝える。

 ちょっとした愚痴をお客さまは言いたいものだ。お客さまの不満を間接的に聞けば聞くほど互いの仕事への不信感は膨らんでいく。

 予約受付、チェックイン、プレー、食事、プレー、チェックアウト。
この一連の流れの中で、誰かのミスを誰かがカバーできれば満足を損なわなくてすむ。

 キャディーさんがレストランでのちょっとした不満を、プレー中にフォローできれば感動に変わることもある。このような連携は頭で考えるより難しい。そこですべての仕事を経験し難しさも分かった上で“お客さま感動”を目的に協働できる関係をつくるローテーションを選択したという。

 組織図には最低限しなければならない業務が書かれている。

 お客さまの不満も感動も業務の間から生まれる。

 一人二役、三役を担う仕事が業務の間にある空白をつなぐ。

 お客さまはフロントでの丁寧な対応を求めていない、かかわる人の仕事の総和としての宿泊体験を買っている。


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