yukisaki koko

文章を書くことが好きな大学生です。日記やエッセイ、小説、書きたいことを書いていきます。

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マガジン

  • 『ブラックコーヒー』

    『ブラックコーヒー』 連載小説 カクヨムにも投稿しています。

最近の記事

『名を知らぬ勇者へ』第一話

 魂は瞳に宿るとされている。勇む者の魂はその器に入る際に、その瞳を真っ赤に焦がす。灼ける意思はその熱さで道を切り開く。その熱さで人々の心に火をくべる。見える景色がほんの少しでも輝くように。内に秘める、瞳を焦がすほどの炎をどんな時も見つけられるように。  ――しばし頼りないこの魂で我慢してほしい。この魂が尽きる時、この世界にはまた、陽の光が差すことだろう。  あまりにも、あまりにも眩しかったあの勇者。誰しもが、未来を信じた。ただの一人でさえも、疑うものなどいなかった。  始

    • 誰もいないのに、明るかった。

       祖母の家からの帰り道。電車に揺られていた。車両の中は人一人いなかった。それなのに、笑ってしまうくらいに車両の中は明るくて、反対に窓の外は家の窓から漏れる光すら見えないほど真っ暗だった。窓に映る自分が見えた。これは、どんな顔だろう。どんなことを考えているんだろう。目が合って、首をかしげてみた。相手も同じように首を傾げた。長く、段々小さくなっていく車両の路を見た。本当に、誰もいない。病院の廊下みたいだと思った。ただただ、電車に揺られて、誰もいないのに明るいことに少しの神秘的な印

      • 『noa』 あらすじ

         300年以上も昔、旅人ニレは人智の蓋を開いた。その出来事は人々の心に夢を灯した。  人類最後の目的地noaを目指して、悠久の大地マノアを行く!  主人公は二人、ルヒト・グラトラとサラ・ギリア・ナーズ。    ―――また繰り返す。繰り返し続けるから、悠久と呼ぶことにしたのだろう? by  Scott rhino norn

        • 『noa』第三話「豊賀を築く」

          「そのブレスレットはアップル・トューリー・タヴァンの一員である印だよ。他にはネックレスとリングがある。全部にそのトューリーのマークがついてる。黒のブレスレットは僕が誘った子、ネックレスはアイナでリングはジル。特に分けた理由はないんだけど、みんなブレスレットにしようって言ったらジルが駄々こねてね。独占欲強いよね、彼女」ユルは本当に楽しそうにものを語る人だった。 「もしルヒトとサラが今と変わらない気持ちを持ってマノアに出たのなら、僕らを頼ると良い。マノアを行くなら仲間は必要だ」

        『名を知らぬ勇者へ』第一話

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        • 『ブラックコーヒー』
          4本

        記事

          『noa』第二話「明日はもっと遠くへ行こう」

           壊したいなら壊せばいいじゃないか。  神がそれを断じたことなど一度もないのだから。  あるいは、君が可愛らしく謝れば許してくれるかもしれないだろう。(137)  Scott rhino norn 『没落苑』 より一部抜粋      *  マノアに初めて足を踏み入れて、ルヒトがまず一番に感じたことは安堵だった。その次に、喜びが来た。表しようのない歓喜だった。  空気の変化。あらゆるものを通り抜けてきた細かい空気。その澄んだ感触にルヒトは震えた。夜はもう深い。明かりもない

          『noa』第二話「明日はもっと遠くへ行こう」

          『noa』第一話「二人だけの”noa”」

           ユルは最後に、私とルヒトに不思議なマークの入った黒い革網みのブレスレットを渡してどこかへ行ってしまった。 「なあ、サラ。俺、noaに行きたい」  折れた心の支え木は、私の知らないところでルヒトの夢になり、芯になっていた。だからそれが、私の夢になった。      *  少年は夢を見ていた。  明け方、霜のついたキャンバスのように薄青い世界の中で、細い路地、積まれた木箱の上に歳の頃十六や十七ほどの少年が座っていた。煉瓦造りの住宅の壁に寄りかかり、片膝を立てて目を瞑って

          『noa』第一話「二人だけの”noa”」

          エッセイ「ハイボールを飲みながら文章を書いている。」

           時刻は1時50分。  リビングのライト一つだけをつけた空間はポツンと真っ暗な道に立つ街灯のような哀愁を漂わせる。この世から人がみんな消えてしまったと思うくらいに静かで透明な時間。  僕は今ソファーに座ってハイボールを飲みながら文章を書いている。隣には僕の太ももに体をくっ付けて眠る我が家の頂点、チョコたん色のチワックス、チョコがいる。チョコが名前である。僕が立ち上がると、チョコは飛び起きて後ろをついてくる。グラスが空になって、もう次のハイボールを作るのも面倒だからとグラス

          エッセイ「ハイボールを飲みながら文章を書いている。」

          エッセイ『やがて灰になる』あらすじ 目次

           泥だらけの少年が、宝物を誰にも見つからないところへ隠しに行くように。毎日のように覗き込み、そこにある宝物を見て心躍らせるように。僕は今日もそこへ行く。僕だけが見えるものを見に。  好きな人の隣で傘を差さなかった日、セミの鳴き声が聞こえなかった夏、季節を見失った一年、初めてお酒を飲んだ日、生焼けのような恋をした三ヶ月。思い出す「日」は年々増え続ける。せめてもと、淡い過去を慈しむ。  僕たちは、踏み荒らして舞った砂埃を掴まなくてはならない。だって僕らは、やがて灰になる。 ※カ

          エッセイ『やがて灰になる』あらすじ 目次

          『ブラックコーヒー』 第四話 にっがいブラックコーヒー 

           私はもう一時間だけ講義があったんで、教室を移動しました。次の講義は実は結構楽しみなんです。 「明後日やれることは明日には絶対にやるな!」  これは私たちの大学の名物おじいちゃんの口癖です。なんでもこの人、以前がんのステージ四だったらしいんですが、七十過ぎてるのに元気になって帰ってきたんですよ。そんな一度死にかけたおじいちゃんが言うんです、説得力の次元が違います。そんなおじいちゃん先生の講義なんですが、これがまた雑談が多くて聞いててすごく楽しいんです。笑っていいんかぎりぎ

          『ブラックコーヒー』 第四話 にっがいブラックコーヒー 

          『ブラックコーヒー』第三話 抗う生き方を知っても、体が追い付かんのです。

           海かいくんと別れまして、私は今次の講義がある教室へ向かっとります。海くんというのはさっきまで話していた彼のことで、彼は今日はもう講義がないらしいので帰りました。人それぞれ帰る時間が違うというのは大学特有なもんで面白いなあと思いますね。  私は大学では心理学を学んでいるんですが、正直人の心なんて測れるもんじゃないなって思うんですよ。妙なほど納得できんし、なんでこんなこと調べるん? と言いたいもんも多いです。一周回ってみんなバカなんじゃないかなあと思ったりします。だったらなん

          『ブラックコーヒー』第三話 抗う生き方を知っても、体が追い付かんのです。

          『ブラックコーヒー』第二話 「死にたい思うんなら、自分以外の全部殺せばええ」

          「死にたい思うんなら、自分以外の全部殺せばええんよ」  彼の口癖です。  彼は私の唯一といってもいい男友達なんやけど、彼は母を自殺で亡くしとるんよ。そんで父は病気で他界。悲惨やなって思うけど彼が今前を向いてるのに同情するんは失礼なんで気にしないことにしとる。でもやっぱつらいことはつらいみたいなんでこの話をするときはいつも似非関西弁を使うねん。なんだが気が楽になるらしいんや。  だから、私も真似をしています。似非どころか、和歌山弁やら奈良弁やら方言の海鮮丼みたいになってま

          『ブラックコーヒー』第二話 「死にたい思うんなら、自分以外の全部殺せばええ」

          ブラックコーヒー 第一話「今日も今日とて」

           今日も今日とて、にっがいブラックコーヒーを飲みました。喉を通した時、顔を顰めてしまうくらいの。そんなブラックコーヒーを一日の終わりに必ず飲むようにしてるんです。これがないと私は生きていけないんです。真っ黒なコーヒーよりも苦くていやーなものが世の中には溢れているんです。それをコーヒーの苦味で溶かしてやらないといけません。  安心するんです。苦いことも辛いことも。嫌なはずなのに、苦いとわかって飲むコーヒーは心地良いんです。一日煮込んで出た灰汁をコーヒーは溶かしてくれるんです。

          ブラックコーヒー 第一話「今日も今日とて」