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日記とエッセイ

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僕のエッセイです。
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#小説

日記:悲しみのモロ

日記:悲しみのモロ

 きのう、僕はバーにいた。疲れ切った彼女に呼ばれて、そこでウィスキーをちびちびやっていた。ただ、じっさい彼女と話し続けていたかといわれれば、そんなことはなかった。瞑想をするみたいにして長く本を読み続けていた――『寺山修司全詩集』、『羊をめぐる冒険』。そのときの僕は無料の落花生の殻に爪をくいこませてそれを剥き出しながら、フィクションの人物になりたいと考えていた。『羊をめぐる冒険』にはそう思わせるだけ

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小説を書きたい

小説を書きたい

 僕は小説を書きたい。
 ここ一週間ほど、そう思っている。スーパーに行き、<にんじん、じゃがいも、たまねぎ、糸こんにゃく、こまぎれ肉>をかごに入れ、明日の朝食のためにパンコーナーでバゲットを手に取るときもそう思っている。僕は小説を書きたい。
 そう思って過ごしていながら、僕は小説を書いていない。なんども、なんども、書こうとはしているのだが書いていない。
 最近書いたのはメモ書きのような日記だけだ。

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エッセイ:「しゃがみこむ太陽、読めない小説」

エッセイ:「しゃがみこむ太陽、読めない小説」

 はじめは「ハンティング・ナイフ」だった。
 みなさんはご存じだろうか?
「ハンティング・ナイフ」。
 小説のタイトルで、作者は村上春樹だ。「ハンティング・ナイフ」は短編小説で、『回転木馬のデッド・ヒート』に収録されている。
 物語が僕に答えを与えることなく、いわば陰を広げるようにして、夕日の砂浜を藍色に染めていく。そのような不思議な感覚をもたらしたのが、「ハンティング・ナイフ」だった。
 しかし

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