見出し画像

記憶のなかの台湾旅〜出発〜

※これは2019年に一か月かけてゆっくり台湾を一周したひとり旅を振り返ったエッセイです。

ぐだぐだな旅の始まり

  あ~やっちまったな。

 私は空港にてこの旅最初のため息を漏らした。
 というのも、航空券の予約時にケチって荷物の預け入れをしない方を選択していたのだが、私のスーツケースは機内持ち込みの許容重量の十キロを軽くオーバーしていたのだ。スタッフのお姉さんは「向こうでお土産を買ってこれ以上重くしないでくださいね」と釘を刺しながら見逃してくれたものの、一か月も異国でぶらぶらするのにお土産を買えないのはあまりに悲しすぎる。でも追加で荷物預け入れするとかなりの高額になるので(本当に高額)なんとか機内持ち込みだけで済ませたい。シャンプーや化粧水などは使用しただけ重さも減るはずなので、そこでなんとか…なんとかやりくりするしかない。最悪衣類は全部捨てる。
 大丈夫、こんなこともあろうかと全部着古したゴミみたいな服ばっかり持ってきたのだ。

 ええい、一か月後のことは一か月後の自分に任せよう。
 何はともあれ日本脱出、台湾に無事ついたのだ。こんな単純なことがまるで奇跡のように思える。実は出発の数日前、私は胃を壊して嘔吐を繰り返し、高熱で寝込むという重症状態だった。
 数日後に台湾へ行く旨を病院の先生に告げると「台湾って屋台料理とかでしょ?油ものも多いし全快するまで控えといた方がいいよ」なんてことも言われ、ポカリとおかゆで胃の機嫌を必死に宥めてきた。私の必死のご機嫌取りの成果か、なんとか胃は元の調子を取り戻してくれて、三時間のフライトにも耐えきることが出来た。ご褒美をあげようと早速空港内のカフェで軽食を食べた。フルーツティーとタロイモのロールケーキ。

フルーツティーが滅茶苦茶な甘さ

 まず空港のどこかで食事、若しくは買い物をする、これは結構重要だなあと思う。
 私が思うに異国に来て一番戸惑うのは注文と会計の際のコミュニケーションだ。初めは緊張するものの、一度ここで経験しておくと自信が生まれて、街中に出てもあまり抵抗なく買い物出来たりする。そしてなにより嬉しいのは空港内の職員は外国人慣れをしているので厄介な顔をされないことだ。ドラクエで言うと序盤のスライムでレベル上げするようなイメージ。まあ台湾はそんなにハイレベルなモンスターは出てこないと思うけど…。

空港ではさらに「悠々カード」なるカードを作成することに成功した。これは日本で言うSuicaやPASMOのようなICカードの類らしく、台湾の電車・バス等の交通を乗りこなすうえで必須となるもの…らしい。
普段はこういった現地専用のカード類は作らないのだが、今回は一か月の長期旅だ。持てる装備は多いに越したことはないだろう。(その結果重量オーバーで捨てることになっても)ATMにてのクレジットのキャッシングで現金を手にしていざ空港を出て鉄道で台北へ向かう。


 台湾初の晩餐とタピオカ初挑戦 

 ホテルにチェックイン出来ると一気に張り詰めていた緊張がほどけた。
 とりあえず三日間は雨風防げる拠点が出来たことへの安心感だ。最初の三日間だけはまず台湾という国に慣れようとネットで台北内にホテルを取っていた。ホテルはドミトリーのみのいわゆるバックパッカー宿で、一部屋を四人が共有する形となる。といってもベッドに簡易カーテンがあるので一応プライベート空間は確保できる。
 宿は三泊三千円ほどと日本円にしても破格の値段だったが、設備は新しく清潔に保たれているように見えた。ちゃんとしたドミトリーは初めてだったが、日本のカプセルホテルと思えば抵抗なく受け入れられた。
 二段ベッドの上で寝返りを打つと、古いベッドが悲鳴を上げるのを除けば。

http://www.booking.com/Share-D4ei2C
↑台北の拠点にした宿
○清潔で広い
✕駅からはちょっと歩く

 荷物を置いてひと段落した後、夕飯を食べに軽装で町に繰り出した。当たり前だが、日が暮れても街中が暑く、むしむしとした湿気に満ちていた。でも不思議と嫌な気分じゃない。生暖かい夜風のひとつひとつが異国にやってきたのだと教えてくれる気がした。

 台湾の夜と言えば夜市だが、長時間の移動により身体も疲労していることから今日のところは近場で済まそう。大丈夫、これから二十九日もあるのだ。焦って観光しない、グルメ&リラックスをこの旅のスローガンとしようではないか。

 宿から少し歩くと明るい大通りに出た。
 高いビルが並んでおり車とバイクの群れが行き交っている。都会だなあ。大きくて綺麗なチェーン店を素通りし、私はとある古ぼけた店の前で足を止めた。店先ではお姉さんが麺らしきものを包丁で切っていて、その横に簡素なテーブルが並んでおり、いかにも地元のお店といった風情だ。
 メニューだと思われる中国語が上の看板に並んでいた。「涼麺」と書いてあった。恐らく冷たい麺だろう。読み方もこの手のお店の注文の仕方など一切わからない。でもこれから一か月この国で生活していく上でこういった店を避けては通れないし、初日で慣れておくのも悪くない。
 お姉さんは私を見ると何か声をかけてきた。私は店のメニューが並んだ看板から一番安い「涼麺(小)二十五元」と書かれた部分を指さした。するとまた何かを聞かれたが何を言っているのかわからない。するとやっとお姉さんは私が外国人観光客だと気づいたようで、店先のテーブルを指さした。「ここで食べてく?」私は頷いた。思えばこれが初めてスムーズに出来た現地の人との意思疎通だったかもしれない。

 テーブルに座っていて出てきたのは、プラスチック製の皿に盛られた麺だった。具材は細かく切られたキュウリのみ。
 とても美味しそうには見えなかったが、口に入れるとその評価はガラリと変わった。さっぱりとした早ゆで麺に甘辛いゴマ(なのかはわからないけれど)ダレがちょうどよく絡んでとても美味しい。これは想像していなかった味だ。絶品!感動!舌が唸る!という訳ではなかったが、ここのお店の涼麺はなんだか食べやすくてほっとする味がした。
 そして何より、店先の簡易テーブルで熱風を顔に受けながら麺をすすっていると、少しだけ自分もこの土地の仲間入り出来た気がして嬉しかった。
 店先からの様子をスマホで写真を撮っていると、店のお姉さんがピースをして写真に入り込んでくる。そのまま撮ろうとするとあわてて「冗談よ」と恥ずかしがって持ち場に戻ってしまった。お茶目で可愛い。

席からの風景(ブレブレ)


涼麺、美味そうにみえないけど美味いんだなこれが


 調子に乗った私は、デザートにタピオカ店らしきモダンな雰囲気のティースタンドに洒落込んだ。
 日本では大ブームで行列をなしているタピオカ店だが、台湾では十メートル歩けば一店舗はティースタンドやジュース屋があるので苦も無く本場のタピオカミルクティーを手に入れることが出来る。店のバイトの女の子に先ほどと同じ要領でメニューを指さし、タピオカミルクティーを注文した。

タピオカ屋というかジュース屋かも?

 ラップで包装されたカップを渡されて「さて、本場のタピオカはどんなもんかな」と一緒に渡されたストローをカップに刺そうとする。ぐにゃり。ストローがラップの強度に負けて曲がる。あれ、刺さらなくない?

 意地になった私はファミマの前に座り込んでカップを地面に置き、エイヤ!と力任せにストローを直角に押し込もうとするが、更に曲がって刺さらない。力を入れれば入れる程にストローはぐにゃぐにゃのゴミになっていく。
 五分ほど格闘したが、滝のような汗をかいたもののミルクティーは飲めそうもない。なんで旅の初日からタピオカに振り回されているのだろうか。
 私は泣きそうになりながらさっきの店まで戻ってバイトの女の子たちに「これどうやって刺すんですか…」と日本語で(余裕がない)聞いた。女の子たちは汗だくで半泣きの私を不思議そうに見た後、新しいストローを出してきて人を勢いよくずぼっとカップにぶっ刺した。なるほど勢いが大切なのね。

 まったく慣れないことはするもんじゃないな。タピオカは美味しかったです。

当時の日記
当時の日記②


この記事が参加している募集

旅のフォトアルバム

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?