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【SS】23.タオルが消えた世界  ※クリエイターフェス

毎日使うタオル、朝顔を洗った時、トイレで手を洗った時、外出から帰ってきて手を洗った時、お風呂から出た時などなど一日のうちに何度も使うのがタオルですね。毎日洗濯して毎日使う、これって、進化しないのかなって考えて作ったショートショートです。お楽しみください。


タオルが消えた世界

 当たり前のように毎日使っていたタオル。80年前はそれが日常の光景だったと教科書で学んだ。今では自然素材から作られている「布」というものは無くなってしまった。我々が纏っているのは化学繊維で作られた再生可能な「布」で作られたスーツだ。今の時代は「服」という言い方はしない。なぜなら、体を守り保護するのが目的であり昔の「ファッション」という概念は無くなった。過去の世界で言えば「制服」に近いのが今我々が纏っているスーツだ。

 過去「タオル」と呼ばれていたものは、WEMと呼ばれる水分蒸発装置(Water Evaporation Machine)というガジェットに置き換わってしまっている。つまり、体についた「水分を拭き取る」という行為がいらなくなってしまったのだ。結果として「タオル」という存在は過去のものとなってしまった。WEMはコンセントに繋ぐ必要も充電する必要もない。最初は身の回りにある磁場を利用し空気を分解し、その後は分解するときに得られたエネルギーで持続できる設計になっているのだ。従って、最初の起動エネルギーさえ周りの磁場から供給されればいいのである。

 いまでは、腕につけたWEMを濡れている場所に近づけるだけで水滴を含め濡れている肌を一瞬で乾かすことができるようになったのだ。しかも人体へのダメージは一切ない。このテクノロジーの発明により、世の中から「タオル」が消えた。利用している我々も触ることなく体についた水分をなくすことができるので、汗ばむ夏にも便利だし、常に快適な環境を維持することができるようになった。考えてみれば、過去の人類は不便だったんだろうなと同情してしまうくらいだ。

 この装置の原理は至って簡単だ。体についた水分を検知すると分解して酸素と水素にして空中に放出するのである。たったそれだけのことで、体にまとわりつく不快な水分は皆無にしてしまうことが可能となった。結果、タオルというものの出番は完全に無くなったのである。

 ある日、お風呂から上がった女の子が叫んでいた。
「ママ、WEMが動かないよ〜」
「えー、変ねぇ。どうしたのかしら。いつもは自動回復するのに。ママのを使ってみようか。アレッ、ママのも動かない」

 この家だけではなく、街全体で突然問題が発生してしまったようだ。動力源となる磁場が変化したとしか考えられない。

 どうやら地球に異常接近した流星群による磁場の乱れが原因のようだった。この現象は流星群が落ち着く30分後には収まり、元の状態に戻った。人類初の体験だった。

 この短時間の間に、濡れた体を拭く手段を持たない人類は、久々の風邪の大流行の渦を経験することになってしまった。



期間限定マガジン (2022/10/1 -2022/10/31)

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