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【SS】 桜色の龍 #シロクマ文芸部

 花吹雪は美しく風情があるが、目の前で繰り広げられている光景はそうではない。美しく淡い桜の花びらが、一枚二枚と風に舞い始めたかと思っていたら、竜巻のように周りの花びらを吸収し、大きな渦を作り上げた。ほんの数秒で見る見るうちに花びらが吸い寄せられ、まるで大きな生き物のようになっている。もはや、花吹雪の域ではない。そのまま成長すればまるで天に昇る桜色の龍になりそうである。

 じっと息を潜めて見ていると反対側では、なんと大量の小石が引力を無視したかのように地面から浮かび上がっている。浮かび上がった小石たちは、まるで盾を作るかのように、集まり一枚の巨大な岩のような形になっている。

 一体何が起こっているのか。私は怖くて物陰から抜け出すことができない。すでに腰を抜かしているし、漏らしてしまいそうなくらいに怖い。だが私の目だけはこの二つの現象に釘付けになってしまった。ゴクリと唾を飲み込んだ瞬間。

 桜色の龍の中にこの世の人とは思えないほど端正な長髪の美しい少年が姿を現した。一体どこから出てきたのかさえも見当がつかない。昔の着物ようなものをまとっており、花びらが起こす風に裾がなびいている。しかし、表情は凛として正面の小石の岩を貫き通すかのような眼光を放っている。両手を広げ、さらに舞い上がる花びらの速度を上げるような仕草をしたかと思えば、その体は花びらの渦の中でふわりと浮かび上がっている。なんとも不思議な光景だ。

 一方、小石の岩の方に目を向けると、小石が繋がり始めているではないか、次第にその形は槍のような形に変化していった。するとその槍をしっかりと握る右手がじわっと現れ、次第に腕、体、頭、足と現れてきた。こちらは筋肉がたくましい長髪の少年だ。美しいというより逞しい少年だ。日に焼けた顔で眉毛が太く肩から見えている二の腕は花びらの中の少年の三倍はあろうかというほどだ。体全体が全て見えた時、こちらの少年も地面から三十センチほど浮かび上がっていた。

 なんとなく、一騎打ちの様相である。私は最高の恐怖の中に放り込まれた。体が金縛りのようになって動けない。気づかれたら、確実に殺されると感じた。膝がガクガクと音を立てそうで怖い。戦うなら早く決着をつけて、この場から立ち去ってほしいと心の中で祈った。手のひらは汗でベトベト、額や首筋も脂汗が流れ始めている。なにしろ、怖いのだ。

 風が舞う音が次第に強くなってきた。何やら青白い光も見え始めた。桜色の龍の中にいる少年の目が青白く光り始めたのだ。小石の岩の方の少年は、次第に炎に包まれ始めた。目は赤く光り始めている。いよいよ、この二人の戦いの火蓋が切られるようだ。

 私は、再びゴクリと生唾を飲み込んだ。その瞬間、ゲホッ、ゲホゲホ。飲み込んだ唾が緊張のせいで変なところに入っていった。その瞬間「しまった。気づかれる」と思い、恐怖のあまり、目を閉じてしまった。次の瞬間大きな声が聞こえた。

「ストーップ。誰だ咳き込んだのは。今大切な声入れをしている最中なんだぞ。もう一度やり直しだ。最初からスクリーンに写してくれ」
 我を取り戻した私は、現実に戻った。

「すみません。つい、映像の中に引き込まれてしまいました」

「全く、頼むよ。しっかりしてくれよ」

 CGと実写を合成した映像にセリフを入れるスタジオの中での出来事だった。どうやら私には映画スタッフの仕事は向いていないようだ。


あとがき

先日封切りになった「陰陽師0」を見にいったせいで、こんなお話を思い浮かべてしまいました(笑


下記企画への応募作品です。


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