【SS】監禁 (#青ブラ文学部)
静寂を破る放屁の音が部屋中に響きわたった。そばに寄ってきた男は予期せぬ音に驚きのけぞった。私はそれを見逃すことなく、縛られた両手で男の足を掬った。もとより、男はのけぞったことにより体重が後方にかかっていたので、足を掬うのも容易かったのだ。男はそのまま後方に倒れ込んだ。
その時、私にとっては幸い、男にとっては不幸な出来事が待ち受けていた。狭い部屋で男が倒れていった方向は小さな窓の端で、真鍮でできた頑丈そうなカーテンフックが、男の後頭部を待ち受けていたのだ。そして見事に男の後頭部にフックが刺さり、男は壁に寄りかかる状態でしばらく痙攣し静かになった。背中の方からは赤い血が流れ男の後ろには血溜まりが出来始めた。
私は恐る恐る男に近づき、ポケットをまさぐった。カッターナイフと部屋の鍵そして車のキーを手に入れた。まずロープを切り落として自由を確保し、脱がされていた服を着ようとした瞬間、ドアを開け男が一人入ってきた。入ってきた男は部屋の状況を見て壁にもたれて死んでいる男を見ると私の方に一瞬で駆け寄ってきた。
「おい、一体何があったんだ」
その男は、後ろから私の髪の毛に手を当て引っ張ろうとしているように感じた。私の手にはまだカッターナイフがあった。背後の男に恐怖を感じながらも、私は振り向きざまにカッターを男の喉仏に向かって迷うことなく振り抜いた。まだ裸のままだった私は体中に大量の血を浴びてしまった。恐怖で体が震えていた。
部屋の外からパトカーのサイレンがなっているのが聞こえてきた。数人の警官が部屋の中になだれ込んでくる。血まみれの私の姿を見て驚いている様子がわかり、私はその場で震えていた。
少し落ち着いて足元を確認した時、私がカッターで殺した男は助けに入ってきた夫だったと気付かされた。婦人警官が私に近づき、コートをそっとかけて抱きしめてくれた。
了 (777文字)
下記の企画への参加作品です。
この書き出しでシリアス作品をという難題です。
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