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7月31日 パラグライダー記念日 【SS】空からのプレゼント

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- パラグライダー記念日

1988年(昭和63年)のこの日、北九州市で第1回パラグライダー選手権が開かれた。

パラグライダー(Paraglider)はスカイスポーツの一種で、パラグライディングともいう。パラグライダーの原型はNASAが開発した、宇宙船回収用のパラフォイル(柔軟翼)である。スポーツとしてのパラグライダーは、1978年頃、フランスのスカイダイバーが山の斜面からスクエアーパラシュート(四角いパラシュート)で下りたのが始まりとされる。


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【SS】空からのプレゼント

 タワーマンションの建設ラッシュが続いている。過去、タワーマンションが脚光を浴びた時代があったが、その後、自然災害の際にエレベータが止まったりすると階段での移動など、高いところに住んでいることの不便さが露呈し、しばらく不振状態が続いていたのだが、再び人気が高まり始めている。やはり人は高いところからの眺望の魅力には勝てないようだ。そして、ディベロッパー会社も災害リスクが極めて低い場所を選択して土地を取得し建設するようにもなっていった。災害リスクが低ければ停電リスクも少なくなり、エレベータが緊急停止したり、断水したりすることはほとんど発生しないということで、再度人気に火がついたようだ。

 人が集まる街が計画されると、その周りでさまざまな施設も建設され始める。幼稚園、学校、コンビニ、レストラン、スーパー、ドッグカフェなど日々の生活を支える施設やお店が、どんどん出店し建設される。近年では、ほとんどの店がキャッシュレスを推進し、監視カメラも多く設置され、防犯体制も万全に設計されている。便利な街が形成されるとマンション人気にも拍車がかかる。相乗効果だ。煙突のように聳えるタワーマンションは、後から売り出される物件ほど、徐々に価格を釣り上げ、早く買う方がお得だとばかりに消費者を煽っている。

 新しい街が出来上がると、街は集客に力を入れることに注力し、いろんなイベントも企画する。大抵は、進出するお店のオーナーなどがリードして住民を巻き込む形で計画が進む。忘れてはならないのが子供が興味を示すイベントを織り込むことだ。そうすることで親子での参加が増え、集客効果が倍増する。知恵の出しどころだ。露店の出店や花火などの良くある案が出る中、住宅ディベロッパーに勤務している、鳥中広という青年が突拍子も無いアイデアを出してきた。

「何か面白い企画を思いついた方はいますか」

「はい、鳥中と申します。マンションや住宅の開発を担当しています。どうぞよろしくお願いします。私が考えているのは、ちょっと変わったイベントですが、コンセプトは『空からのプレゼント』というものです。複数のタワーマンションの屋上にあるヘリポートから、複数のパラグライダーで飛び降りてもらい、小さなパラシュートをつけた小箱をばら撒いてもらうんです。拾った人は小箱を開けて中を確認。当たりの場合は、その小箱を持ってイベント会場に行って景品と交換するというものです。ここは、公園も広いので子供達も走り回って落ちてくる小箱を追いかけてくれると思いますよ。もちろん、パラグライダーの布には宣伝のためのキャッチコピーを印刷したものを使うことで大人の方々にもメッセージできるのではと思います」

「なんと。壮大なイベント案ですが、いろんな許可も必要になりそうですね。一番気になるのは、パラグライダーを操って飛んでくれる人が集まってくれるかですよね。当てはあるのでしょうか」

「ええ、実は私もパラグライダーを楽しんでいるのですが、私の仲間に声を掛ければ来てくれると思います。もちろん、ボランティアで」

「それは、すばらしい。じゃあ、早速各方面の許可取りに動きましょう。これは楽しいイベントになりそうですね」

 こうして、鳥中が発案したイベントがメインイベントとして位置付けられ、チラシも刷り上がった。マンションや住宅地に配布され、予期せぬイベントがクチコミで広がり、鳥中も気分が良かった。しかし、おりしも天候の問題が発生し始めていた。台風接近がアナウンスされたのだ。台風直撃ということになれば、イベントどころでは無い。パラグライダーのメンバーも有給休暇を調整して集まってくれるので、延期になるとスケジュール調整も難しい。関係者一同、台風が外れて進んでくれることを祈った。

 イベントの一週間前、台風は踵を返したかのように大陸の方に進路を変え、次第に弱まりながら進むという予報に変わった。このニュースに、イベント関係者のみならず、住民たちも歓声をあげて喜んだ。数年間の鬱憤を晴らすかのようなイベントにしたかったのだ。

 イベント当日がやってきた。朝から透き通るような青い快晴で若干の風がある。最も風がなければパラグライダーも飛べないので好都合な天気になったのだ。内装工事中を含め、七本あるタワーマンションには、二人ずつパラグライダー要員がスタンバイしている。パラグライダーの風を受ける布は虹の一色一色を連想させるような色で染められ、協賛するお店の宣伝が印刷されている。午前十時、大勢の人々が集まっている中、パラグライダーは一斉にタワーマンションの屋上から飛び立った。一瞬下降したが、全員上昇気流を捉え、タワーマンションより高い位置まで浮上した後、ゆっくりと全員で時計と反対周りに弧を描きながら、飛び立ったタワーマンションの周りを、ゆっくり、ゆっくり高度を下げて行った。タワーマンションの半分程度まで降下した時、持っているパラシュート付き小箱を一斉に空中に放り投げた。

 小さな小箱のカラフルなパラシュートが雨のように空から降り注いでくる。童話の世界にでもいるような光景が青い空を背景に広がった。イベントは大成功だ。小箱を手にした子供たちは、満面の笑顔でママとパパに見せている。箱の中には、ハズレはない。がっかりする子供の顔を見たく無いからだ。この日は誰しもが笑顔で帰ってもらいたいという主催者側の気持ちが台風の進路までも変えてしまったのかもしれない。


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