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【SS】 恋人  #シロクマ文芸部

 月の耳は小さくて可愛いね。上がちょっととんがり気味で耳たぶはとっても柔らかそう。小さなピアスがよく似合っているね。

 僕の名前は大原海、彼女は小原月。僕たちは恋人同士だ。もう付き合い始めて同棲三年が経った。そろそろ次のステージへいくことを僕は考えている。でもまだ月には内緒だ。サプライズにしたいから。

「今度、新しいピアス買いに行こうか、月」

「ほんと。最近全然ピアス買ってないから欲しいなと思ってたのよ、でも財布は大丈夫なの、海?」

「だって、来月は月の誕生日じゃないか。そのくらいは任せておけ」

「あっ、忘れてた。そうか、私誕生日なんだ、来月」

 僕たちはもう少し広い部屋に引っ越しをするために、二人で貯金をしている。月は僕の方が毎月たくさん貯金していることを知っているので、すぐに僕の財布のことを心配してくれる。外食しようかといっても「私が作るよ」といつも言ってくれる。月も仕事してるから疲れているはずなのに、いつも僕に気を使ってくれる。そんな月の誕生日が近いから、僕は貯金とは別にちゃんと貯めていたんだ。そんなに高いものは買えないけど、ピアスと内緒のリングを買うつもりだ。

 数日後、少し誕生日には早いけど、二人で外出できるスケジュールは限られていたので、仕事帰りに待ち合わせて一緒にジュエリーショップに向かった。僕は予めリングを決めておいた。当日は月と一緒にピアスを決めるだけでいいように。そしてお店には、リングはサプライズだから何も言わないでくれるように依頼を済ませていた。月は久しぶりに新しいピアスが買えるということでルンルンでお店の中で物色していた。もちろん、そんなに高いものじゃないコーナーばかり見てあれもいいなこれもいいなと探していた。

「ねぇ、海。私これがいい。可愛い花と葉っぱが繋がってるの。いいでしょ?」

「ああ、可愛いね。似合ってるよ。じゃあさ、僕は支払ってから行くから、先に道の向こう側のファミレスで席を取って待ってて。ご飯食べて帰ろうよ」

「うん、わかった」

 そして月はそのままピアスをして店を出た。僕は、支払いをすると同時に予約していたリングも一緒に買った。ファミレスで月に渡してプロポーズするために。会計のときにお店の人が一言声をかけてくれた。

「お幸せになってください。きっと笑顔で受け取ってくると思いますよ」

「ありがとうございます」

 僕は高鳴る胸を抑えながら、向かいのファミレスの窓際に座って待っている月のところに向かった。信号を待っているのがもどかしいくらいだ。青になった瞬間、僕は大喜びで手を振りながら横断歩道へと駆け出した。右側に違和感を感じた。

 救急車の音やパトカーのサイレンが響き渡っているのが聞こえてきたけど、次第に何も聞こえなくなった。完全なる暗闇と静寂に包まれた。僕の意識は消えた。

◇ ◇ ◇

 海が交通事故で亡くなって半年が過ぎようとしていた。毎週同じ曜日に海が跳ねられた場所に花を持ってきていた月は、報告していた。

「私、実家に帰ることにしたわ。ここにいると辛いから。あなたがあの時持っていたリングは今もそのまま箱の中よ。私、知ってたんだよ。海がリングを買ってプロポーズしてくれることを。だからピアスは少しだけ高いものを選んだの」

 海がなくなってからピアスをしなくなった月の耳は、ピアス用の穴がすでに塞がっていた。月は、もう二度とピアスをすることはないだろう。


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