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【短編】 未来へのプロローグ #シロクマ文芸部

 風車が所狭しとひしめきあっている。地球上の陸地はほとんど全てと言っていいほど風車で埋め尽くされている。しかも大きな羽が二枚とか三枚ついているスマートな風車だけではない。全体的に丸い形をしていてどこから風が吹いても回るような構造になっている軸が垂直になっている風車も多い。遠くから見ると多くの卵が整然と並んでいるようで見た目は気持ちが悪い。それに風車部分は風の吹く方向を螺旋状の羽が全方位で捉えるような構造になっている。あまりにも風が強すぎるため、この形になったらしいが、風に乗って飛んでくる砂をうまく受け流す効果もあるようだ。

 綺麗な青空と美しい海は過去のものとなり、今では常に雲が流れ強風が吹き荒れる環境となってしまった。人類が犯した過ちのせいで、生態系は破壊され自転速度が上がり常に強風と砂嵐が地表を覆う環境に変わってしまったのだ。

 人類は選択の余地なく、地下に潜ることを決心したが、地表の強風からエネルギーを作り出すため、風車を次々に作ったのだ。そのため、地表は風車で埋め尽くされてしまった。道路も砂で覆われなくなっているが、かろうじて百メートルの高さがある風車は稼働し続けている。だが、砂に埋もれてしまうのも時間の問題かもしれない。

 強風が吹き荒れるおかげで、電力は確保できている。毎日どこかで風車が故障するのだが、修理はほとんどしない。誰も地表に出たがらなくなったのだ。長くなった地下生活の影響で、強風に乗って飛んでくる砂が皮膚に当たると皮膚が裂けてしまうようになってしまったのだった。長い地中生活は徐々に皮膚を薄く透明に変化させ、ついには地上の環境には耐えられなくなっていたのだ。今はまだ、莫大な数の風車が稼働しているので電力の心配はないが、何世代か後になれば風車で賄える電力では生活できなくなることは誰しもが予想していた。しかし、自分の代さえ持ち堪えればいいという歪んだ考えのリーダーが多く、風車の補修計画や代替案の検討は棚上げされたままになっていた。

 今や地球は、世界中の人々から風の星と呼ばれるようになってしまった。青く美しい星だったはずなのに、宇宙から見える地球は黒い雲に覆われ、止まることなく雲が動いている不気味な星になってしまったのだ。宇宙人たちは、「黒い風が吹く悪魔の星」と揶揄し始めていた。だが、そんな中いい傾向にあることも報告されている。風が酷くない時代でまだ人類が地上に住んでいた頃には、幾度となくエイリアンの攻撃を受けながら、かろうじて撃退できていた時代があった。友好的なエイリアンは全く現れず、美しい星を侵略しようとするエイリアンばかりだった。その後、地球上が強風に包まれ砂が巻き上げられ始めると、エイリアンの攻撃が無くなったのだ。最初の方は一時的な気象異常だと捉えていたのか、侵略は続いたのだが、強い風に乗ってくる砂に打ち付けられる宇宙船は、機能が麻痺してしまい墜落し続けた。砂が磁気を帯びた鉄粉とともに宇宙船に付着し厚い幕を作ったようだった。宇宙船は外界との通信も推進装置も機能しなくなり、墜落し続けたのだ。当たり前だが、墜落した宇宙船からの連絡は他の宇宙船に届かない。状況を確認しようと次々に宇宙船が飛来するが、全ての宇宙船は先陣を切って墜落した宇宙船と同じ運命をたどって行った。絵に描いたような宇宙船の墓場が出来上がっていった。おそらく目指した地点は事前に共有されていたのだろう。そのため、次から次へと同じ地点を目指して宇宙船は飛来し続けたのだった。地球の近くに待機していた大船団を組んでいた二千機にも登る宇宙船はたった百機を残して全てが地球の風に屈してしまい墜落してしまった。侵略者だったエイリアンの大船団のリーダーは、母星に報告していた。

「閣下、地球は恐ろしい黒い風が吹く悪魔の星に変わってしまいました。我々のテクノロジーでは制御できない状況に変化してしまったようです。おそらく生命の維持は困難な星となってしまっているということを報告します。二千機での侵略を試みましたが、ことごとく連絡もないまま地球に飲み込まれてしまいました。残っているのはわずか百機飲みとなってしまいました。このままでは、我々も生き残ることが困難だと判断します。地球の侵略は断念して他の星を探す方が懸命かと思います」

「何、なぜそんなに状況が変わってしまったのだ。地球の時間では、たかだか千年程度が経過しただけであろう」

「我々も全くわかりません。今、映像を転送しましたが、以前の美しい青い星は面影もありません。おそらく、地球人による乱開発が原因かもしれません。侵略を開始するのが遅すぎたようです。全ては私の責任だと痛感しています。申すこと侵略用の船団を早く作れていればと後悔するばかりです。地球人は地球時間で百年単位で生まれ変わりますが、同じ時間単位だと我々は三千年単位なので少しゆっくりしすぎてしまいました」

「今、こちらでも画像を確認しているが、本当にあの美しかった星なのか。お前たちが侵略すべき座標を間違えたということではないのか」

「閣下、我々の座標は間違いありません。この数千年もの間、同じ座標の星、すなわち『地球』を何度も偵察訪問していましたから。過去には文明の進化を手伝ったこともありましたが、放置しすぎてしまったのかもしれません」

「そうか。宝物を一つ失ったような気持ちだな。しかし、我々であっても時間の流れには勝てない。一旦は地球を侵略するのは保留にしよう。今後は三百年に一度程度の偵察を続けてくれ。では、気をつけて帰還してくれ。帰還後は、次のターゲットに向けた準備にかかってくれ。今度は好機を逃さないようにしてくれ。次のミッションを上手くこなせなければ処罰を受けてもらうぞ」

「閣下、ありがとうございます。今回の損失は、宇宙船が千九百機、ロボット隊員一万九千体となります。我が星の生身の隊員は現在、我々とともに全員が揃っていますのでご安心ください。帰還するまでには、次の侵略のためのロボットを製造するように指示を出しておきます。次回こそは、必ずや閣下のご期待に沿うべく準備いたします」
「うむ、隊長、頼んだぞ。今の内に植民地を増やしておかないと大変になるからな」

 こうして侵略しようとしてきたエイリアンのロボットが操縦していた宇宙船は地球上の一箇所でその機能を停止したのだった。千九百機の宇宙船が次々に墜落した場所は、なんと九州の阿蘇だった。外輪山に囲まれており着陸するには目印としてもわかりやすかったのだろう。過去草千里と呼ばれていた場所は、今では宇宙船の墓場となってしまったのである。

 人類が地下にもぐり生活を維持し始めて長い年月が経過した。過去の出来事を経験していない世代が中心となり、前向きな議論も始まった。自分のことだけを考える保守的なリーダーは排除され、三十代の男女がリーダーに取って代わった。彼らは地下で生まれ地下で育った。宇宙船の墓場のことも知らなかった。ある日のこと、今年百歳を迎える祖母のところに行った際に、昔話を聞かされたのだ。

「おお、利彦か。よくきたね。今では九州に来るのも大変なんだろ」

「ああ、おばあちゃん。大変だよ。昔は飛行機が飛んでたらしいけど今はトンネルの中の移動だからね。でも速さは飛行機と変わらないと思うよ。どう、元気だった」

「元気だったよ。できることなら、青い空を一度は見て死にたかったけど、もう世界は変わりそうにないねぇ。美しかった阿蘇は今でも宇宙船の墓場のままなのかねぇ。寂しいねぇ」

「おばあちゃん。今、なんて言った。なんの墓場だって」

「えーっ、宇宙船の墓場かい。おじいちゃんがよく話をしていたよ。大昔に他の星から攻めてきた何千機という数の宇宙船が阿蘇に墜落したんだって」

「そ、そうなんだ。それって事実なのかい」

「さぁ、どうなんだろうね。本当のことだと思うけど」

 利彦は早速調査団を結成して捜索することにした。利彦は大量の宇宙船が実在していたとしたら頑丈な宇宙船の再利用が可能だと考えたのだった。

「そういえば、なぜ阿蘇の地域だけ風車が無いのか気になっていたんだよな。外輪山が風を遮ってるわけでも無いのにと思ってはいたけど、すっかり普段の忙しさのせいで忘れていたな。もしかするとおばあちゃんが言っていたことが事実なら、地球の未来を変えることができるかもしれないな」

 結成された捜索隊は、利彦をリーダーとして阿蘇の外輪山の周りにある風車から防護服を着て外に出て見通しの悪い中、草千里の方を捜索した。砂が打ちつけてくるので長くは捜索できない。だがその心配はいらなかった。山のような円盤の宇宙船が同じ場所に墜落していたのだ。一目では数がわからないほど多くの宇宙船だった。年月が経過しているため、岩にしか見えないが、場所が草千里だとすれば巨大な岩であるはずがなかった。

 新たなる希望を見つけた利彦は、地下トンネルを草千里のあたりまで延長し、宇宙船の真下まで繋げる指示をした。そして、宇宙船を巨大な工場として利用し、墜落した原因と対応を研究しようと考えたのだ。さらに、宇宙船の中には、みたこともない部品を大量に収集できるだろうし、現在の地上の環境を変える装置が開発できる可能性を期待した。

 利彦の挑戦は今始まったばかりである。黒い風が吹く悪魔の星が美しい星に戻れるのか、それは誰にもわからない。だが、挑戦し続ける若者がバトンを渡し続ける限り希望の火は消えることはないだろう。宇宙人の侵略失敗のおかげで人類の未来は細い糸で繋がったようだ。


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