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9月11日 警察相談の日 【SS】愛した人(目撃)

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 警察相談の日

警察庁が1999年(平成11年)に制定。

日付は警察への電話相談番号「#9110」から。#9110に電話すると警視庁と各道府県警察本部に設置されている総合相談室につながり、この日に限らず一年中、各種事件に関する困りごとなどの相談を受け付けている。


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【SS】愛した人(目撃)

 証刑事と縁梨刑事は警察署で落ち合った。唯一の目撃者とも言えるドライブレコーダーの映像を確認するためだ。映像をコマ送りにしながら、二人は確認していった。まず、歩道橋からの飛び降りの映像だ。歩道橋の中央部分から手すりを飛ぶように乗り越えて落ちる映像が確認できた。通行人からの連絡もあったのだが、落ちる瞬間を見ているわけではなく、事故になった後の連絡だったため、特に新しい発見は通報者からは得られなかった。ドライブレコーダーの映像が頼りだったのだ。

「縁梨さん、遠くて分かりにくいのですけど、歩道橋の手すりを超えて落ちる時の落ち方が不自然じゃないですか。まるで、足を誰かに掬われているような感じに見えます。手すりを乗り越えて上半身から飛び込むような落ち方じゃないですね。あの、ラグビーとかアメフトでよくありますよね。下から体を持ち上げるようなタックル。この映像もそれによく似た動きに感じるんです。多分、よく見えませんが突き落とされたんだと思います」

「なるほど。落ち方ですか〜。さすが証刑事ですね。言われてみれば確かにそうですね。全く気付きませんでした。しかし、こっちの映像は私でも気づきましたよ。大杉翔太のよろめきかたです。これ、明らかに押されていますね、奥様に。確かに最初によろけたのは大杉翔太さんですが、すかさず手を出すどころか押していますよ。怖いなぁ」

「本当ですね。この二つの事故は繋がっていますね。そして共に事故ではなく殺人ね。司法解剖の結果を待ちましょう。その間に、三人で飲んだというスペイン料理の店を訪ねてみましょうか」

「そうしましょう」

 三人でお祝いをしたというスペイン料理の店に二人の刑事は出かけていった。店はまだ営業前だったが、マスターは仕込み中だったのか店にいた。

「恐れ入ります。開店前に来てしまいまして。私たちは警察署の刑事です。私は証と申します」

「私は縁梨といいます。縁結びの縁に果物の梨と書きます。珍しいでしよう」

「あ、はい。私はここの店長をやってます。音無静といいます。今日はなんのご用でしょうか」

「実は、こちらで食事をされた三人のお客様のうち二名の方が、それぞれ別の場所で交通事故に合われて亡くなられましたのでちょっと事情を調べにきました」

「えっ、そんな。昨日ここで食事をした後にですか」

「ええ、このお店を時々利用されていたお客様だったようですが、心当たりはありますか」

「えーと、誰のことかなぁ。顔見知りになるお客様は沢山いらっしゃいますので、ちょっとすぐには浮かびません。申し訳ありません」

「そうですか。ではまた何か思い出されましたら、こちらまで連絡をいただければと思います」

「あっ、分かりました。そうします」

 証刑事と縁梨刑事は、店を出て、そろそろ司法解剖の結果が出る頃かもしれないと思い、警察署に戻った。コーヒーを飲んで、ホッと一息ついているところに、検死報告を持って同僚の刑事がやってきた。

「おっ、証が担当していたのか。これ、大変な結果が書かれているぞ。直接の死因は両方ともトラックに撥ねられたことによる外傷性ショック、出血多量、内臓破裂なんだが、胃の内容物にとんでもないものが混じっていたみたいだ。二人とも、同じ店で同じものを食べていたということらしいので、胃の中が同じ内容になることは不自然ではないんだが、成分に不自然なものが見つかったらしい」

「なんだか、持って回った言い方ですね。一体何が見つかったというのですか? 青酸カリではないでしょう。店を出てしばらくした後に交通事故に遭っているわけですから」

「おっ、さすがは目の付け所が推理小説マニアだなぁ。まぁ、焦らしてもいいことはないので、はっきり言おう。最近海外から密輸されて少しずつ日本の繁華街でも広がりつつある覚醒剤だったよ」

「えっ、覚醒剤。量は」

「それほど大量ではないのだが、錯乱するちょっと手前くらいの状態になる量だそうだ。例えば、酔っ払いのように足元がおぼつかなくなるくらいかな」

「ということは、平衡感覚がおかしくなってしまうということですか」

「そうみたいだ。飲んでいる時は気持ちよくなるので、ほとんど気がつかないらしいよ。動いて血流が良くなると、途端によろけるような感じになるらしい。しかし、ただ食事をしただけなのになんで覚醒剤なんかが口に入ったんだろうな」

「奥さんの方はなんともなかったということは、男性二人が口にしたものと奥様が口にしたものの違いがあるということですよね」

 さすがの勘の悪い縁梨刑事もピンと来た。証刑事は、しばらく窓の外を眺めながら頭の中を整理しているようだった。

「縁梨さん、スペイン料理の店コンティーゴ店長、音無静の交友関係とか借金などを洗ってくれますか。私は、奥様に食事内容を確認してきます」

「よし、わかった。近所のおばちゃん関連の聞き込みは任せてくれ。どうやら、あの奥様一癖ありそうだな」

「ええ、そんな気がしてきました。話をしながら探ってみます」

 愛子は籍を入れたものの、まだ独身の頃に住んでいたマンションを引き払ってはいなかった。というより、ほとんど一之関家で寝泊まりはしていなかったようだ。それを知って証刑事は愛子のマンションを訪ねた。インターフォンが鳴って、画面に映った証を見た愛子は心臓の鼓動が早くなった。

「はい。どちら様でしょうか」何事もないように装いインターフォンで応答した。

「先日病院でお会いした刑事の証と申します。少しだけお時間を頂きたくまいりました」

「分かりました。どうぞお入りください」

 オートロックの扉が開いて、証刑事はエレベータに乗り込んだ。愛子の部屋は二十階にあるようだ。エレベータの中で証は「夫の死後でもマンションにいるというのは不自然よね」と思い、愛子に対する不信感は高まっていた。


明日に続く



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