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9月1日 二百十日 【SS】復讐

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 二百十日

「二百十日(にひゃくとおか)」は、「雑節」の一つで、二十四節気「立春」(2月4日頃)を起算日として210日目(立春の209日後の日)にあたる。

その日付は年により変化し、近年では8月31日または9月1日となる。「立春」の変動により9月2日が「二百十日」となる場合もあるが、最も稀で、次に現れるのは2203年である。

「二百十日」の頃は、稲の開花期にあたる上に、台風の襲来する季節とも一致する。そのため、昔から農家では、220日目の雑節「二百二十日(にひゃくはつか)」とともに災難が起こる「厄日(やくび)」として警戒される。


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【SS】復讐

「うわー、止めてくれー。頼む、助けてくれー。まだ、死にたくなーい」

「へへ、大声出しても、誰も助けには来ないよ。間抜けなジャーナリストさん」

 ここは、埠頭の倉庫街の一室だ。暴力団の覚醒剤密輸を追いかけていたジャーナリストの常見正行という男性は、不運にも張り込んでいるところを団員に見つかり、拉致されてしまったのだ。季節は寒い冬。もうすぐ大晦日という時期だった。どうやらコンクリートの足枷を付けられてボートで沖合まで行って海に投げ入れられるらしい。

「おい、周平。コンクリートは準備できたか。できたら、こいつの服を全部脱がせて、足を固めちまいな。脱がせた服は、そこのドラム缶の火の中に入れて燃やしちまいな」

「はい。わかりました。健太兄貴、任せてください」

「くそー、止めてくれー。死んだら化けて出てやるぞー。お前らを殺しに戻って来るからなー。ちくしょう。来年の二百十日の時にお前らに復讐してやるー」

「ははは、健太兄貴、こいつ、裸ん坊で化けて出るって言ってますぜ」

「まぁ、せいぜい、あの世とやらで楽しんでくれよ、兄ちゃん。おい、剛、ボート回しとけよ」

「はい、持ってきます」

 こうして、三人の男たちに拉致された、常見正行というジャーナリストは、コンクリートの足枷が固まる頃を見計らって、さるぐつわをされ裸のままボートに乗せられた。そして、そのまま、東京湾の沖合に行き、海の中に投げ捨てられてしまった。正行はどうすることもできず、海中へ沈みながら大量の海水を飲み込み窒息して息絶え、海底へと沈んで行った。

 暴力団員の三人は、事前に麻薬の密輸が公になることを防いだということで、仲間からは賞賛されていた。万が一、逮捕に繋がってしまった場合は、剛が身代わりで捕まることになっている。三人は、数ヶ月見つからなければ、海に沈めた男は魚の餌になっているはずだから、永久に見つかることはないだろうと自信満々だった。健太と呼ばれていた兄貴分は、功績が認められ組の中でも一目置かれる立場になっていた。

 春が過ぎ、暑い夏となった。今年の夏は台風の被害やゲリラ豪雨による被害が相次いでいた。暑さや台風などの影響で、暴力団としてのしのぎもなかなか上がらず、みんなイライラし始めていた。9月に入り二百十日の日になった。団員の誰もが、ジャーナリストの最後の言葉を覚えているものは誰一人いなかった。その日も、事務所に集まり、しのぎの話をしながら現金の確認をしていた。健太、周平、剛の三人は缶コーヒー片手に今後のことを相談していた。偶然にも、事務所にいるのはこの三人だけになっていた。その時事務所の電話がなった。

「おう、虎組事務所だ〜。誰だー」

「組長秘書のさやかと申します。今晩、内密に健太さん、周平さん、剛さんに組長が話をしたいといっておられます。午前零時ごろに事務所に到着する予定です。よろしくお願いしますね。あ、冷蔵庫の中のビールはどんどん飲んでいいそうです。酔っ払わない程度に楽しんでください」

「あ、は、はい。分かりました。お待ちしています。ビール、ありがとうございます。ご馳走になります」

 剛は、電話のことを健太と周平に伝えた。三人は、何か褒美でももらえるのかなとワクワクした気持ちになり、冷蔵庫から缶ビールを取り出して、飲み始めた。

 ビールを飲み始めた直後、事務所に電気工事業者がやってきた。場所が暴力団の事務所とわかっているだけにどこかオドオドしていた。

「突然すいません。床下のLAN工事をするように依頼されました。よろしいでしょうか」

「あぁ、何も聞いてねえぞ。やらなかったらどうなるんだよ」

「は、はい。電話とかテレビとかが使えなくなると思います」

「はぁ、そうなのか。じゃあ、とっととやって早く出て行ってくれ」

 工事は、二十分程度で終了した。三人は、何もなかったかのように、また話し合いを再開した。組長を待って、午前零時になった。ジャーナリストの常見正行が海に沈められた時間だ。三人はそんな記憶のカケラさえ感じずに目の前のことに夢中になっていた。

 ドッカーン。

 一瞬のことだった。事務所の床下が突然爆発し、事務所は跡形もなく吹き飛んだ。もちろん、三人の男たちは何も考える時間がないまま、あの世へと旅立った。その爆発の様子を斜め向かいのビルの屋上から、一人の女性が双眼鏡越しに見ていた。

「あなたたちは、苦しむ事なくあの世に行けたのよ。感謝しなさい。私の兄さんは、生きたまま寒い冬の海に投げ込まれたんだから。あの時は、怖くて動けなくなってたけどね。一部始終を私は見てたのよ、隣の倉庫から。兄さんが何かあったら公にしてくれと言って、あなたたちの密輸の証拠資料を貰っていたわ。私はそれを公にする前に復讐するって誓ったの。あなたたち三人にね。まぁ、今では、資料は公にできない立場になってしまったけどね」

「さやか姐さん、今日のこと組長にはどう報告なさるんですか」

「ああ、あなたたちも爆弾のセット、ありがとうね。正式な組合員になれるように推薦しておくから安心して。今日のことは長生きしたかったら内緒だからね。組長には、もう話はついてるのよ。心配しないで」


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