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【SS】19.異次元空間  ※クリエイターフェス

毎日使うエレベーター。これがなければマンションの魅力は半減どころか住むことを躊躇してしまう。それほどマンション生活には必須の設備ですね。でも、このエレベーターの箱の中、密室空間、なんとなく不安になったことはありませんか?
ドアが開いたら、見知らぬ世界だったなんてことを考えながら書いたショーショートです。お楽しみください。


異次元空間

 何気なくボタンを押してドアが開いたら乗り込むエレベーター。毎日使っている。なので何も不思議に思うことなく使っている。時折、「点検中」という札がかかっているけどエレベーターは複数台あるので、気にしたこともない。生活の一部と化しているエレベーター。空気と同じような存在みたい。

 ある日、遊び疲れて深夜になってしまった。時間は午前二時。誰もいないマンションのロビーを通っていつものようにエレベーターの前に立った。なんとなくいつもと違う空気を感じたが、真夜中だからだろうと思いさして気にすることもなく、エレベーターのドアが開くのを待った。複数あるエレベーターはどれも動いていない。深夜だから乗る人もいないのだろう。十五階に停止していた左側のエレベーターが反応してロビーに向かい降り始めた。下矢印が点滅して動いていることを知らせてくれている。下矢印の表示と共に、通過している階の番号がデジタル表示で次々に変化している。まもなくロビーに到着だ。

 エレベーターのドアが開いた。何も考えずに乗り込んだ。

「あれ、なんか変だ」

 いつもは正面の鏡に映る自分の姿を見ながら乗るのに、鏡がない。その代わりに鏡があった部分がドアになっていることに気がついた。エレベーター反対側もドアになってるのは駐車場とか駅の改札とホームを結ぶエレベーターで見たことはあるが、それとは明らかに違う。見るからに家のドアっぽいのだ。古びたノブまでついている。鍵穴はない。ノブを回してみたくなる衝動にかられる。いや、そうではない。何か強い力で右手がノブに引き寄せられている感じだ。

 エレベーターはまだ上昇し続けている。右手はノブを掴んだ。意を決してノブを回してドアを手前に引いた。ギィーと少し軋むような音を立てながらドアは開いた。エレベーターは確かに動いているはずなのに、ドアの向こうの景色は動いていない。遠くに光が見えるようだ。何がどうなっているのか頭の中はパニック状態になっていく。しかし、ドアを開けた以上進んでみたくなるというものだ。エレベーターはもう少しで自分の部屋がある階に到着してしまう。ごくりと唾を飲み込み、左足からドアの向こう側に踏み込んだ。その瞬間。

「うわーっ、床がない、落ちるー。わーっ」奈落の底に落ちると思った。



 深い穴に落ちる途中、あまりにもびっくりして目が覚めた。体は自分のベッドの上で硬直状態になったまま、状況を認識するのに時間がかかった。


「夢だった」



期間限定マガジン (2022/10/1 -2022/10/31)

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