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命の源に抱かれる タラソテラピーの世界へようこそ

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新型コロナウィルス感染拡大後、私たちはより自然環境に意識を向けるようになりました。密を避けてやむをえず山へ海へ、という人も少なくないと思いますが、人がいなくなった観光地や都市部で、空が澄み渡り、星空が広り、海が青さを取り戻す様子を目の当たりにして、私たちの営みが自然に与えるインパクトを実感し、地球環境を守ろうと行動を変えた人もいるでしょう。

地球環境を構成する最も偉大なもの、それは海ですね。地球面積の7割を占めるその大きさもしかり、生命が生まれ、進化した場所であり、海には陸上の生物種数の10倍もの生物種が生息していると言われることからも、その偉大さは未知数で、私たち人間の理解をはるかに超えています。

また、陸へと住む場所を移した私たち人間やその他の動植物は、今もなお海からたくさんの恩恵を受けています。私たちを潤す雨は海からもたらされたもの。また、海を漂う生物がつくり出す酸素は、あらゆる生き物になくてはならないもの。私たちはまさに海に抱かれて生きているのです。

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さて、今回からそんな海の活力を肌で感じ、意識的に身体に取り込むタラソテラピー(海洋療法)についてご紹介していきます。世界でも6番目に長い海岸線を持つ日本。私たちがもっと海に親しみ、海の素晴らしさを世界に発信することで、海を慈しむスピリッツや習慣が世界中に広がっていくといいなと感じます。

では、まずはその歴史から・・・。

「タラソテラピー」という言葉。これはギリシャ語で海を現す「タラサ」と、フランス語で「療法」を意味する「セラピー」が組み合わさったもので、日本では「海洋療法」と呼ばれています。

最初にこの言葉が用いられたのは遡ること1867年。フランスのリゾート地で海水を薬として用いた博士によるものです。その後タラソテラピーはフランスを中心にヨーロッパ全土へと広がって行きました。

しかし歴史を更に辿ると、海水を利用した治療は紀元前から行われていたことが分かっています。ギリシャの詩人エウリピデス(紀元前480〜406年)は、「海はすべての人間の病気を治す」と記し、「医学の父」と呼ばれるヒポクラテス(紀元前460〜370年)は、「海水を風呂に入れると、皮膚のかゆみや痛みに効く。蒸気も良い。海草の湿布も良い。傷の治療にも有効・・・」という言葉を残しています。

現在のタラソセラピーは、一般的に海水、海産物(砂、泥、塩、藻、エアロゾルなど)、海辺の気候を利用した治療法と定義されており、本格的な施設では、カウンセリングと医療専門家監督のもとで予防と治療を目的とした施術が行われます。タラソテラピー先進国と言われるフランスでは、医療機関との併設も一般的で、保険が適応される場合もあるそうです。では、日本ではどうでしょうか。

琉球大学ウェルネス研究分野(2015)によると、日本でも江戸期の文献に、病気治療のための海水浴である「潮湯治(しおとうじ)」についての記述があるそうです。タラソテラピーについては、近年全国の施設で導入例が見られるものの、ヨーロッパのように一定期間滞在し総合的な不調の改善を目指すような施設は見当たらず、消費者にとってもタラソテラピーは、「レジャー」「レクリエーション」「エステ」といった認識に留まっているとのこと(琉球大学ウェルネス研究分野、2016)。

さて、気になるタラソテラピーの効果ですが、健康回復・維持・増進まで多岐に渡ります。主なものは以下の通り:

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・肌を健康に保つ 
・血行促進
・新陳代謝の促進
・自律神経の調整
・天然エアロゾルによる呼吸器系の機能向上
・ストレス軽減
・「しあわせホルモン」と呼ばれるセロトニンの増加
・身体のこり(肩や腰)の改善
・疲労回復

体だけでなく、心にも作用するのですね。

これらの効果は、海水、泥、砂、塩、海洋エアロゾルなどに溶け込むミネラルに起因すると言われています。ミネラルを含む水は地球上に何種類もありますが、海水は、それらの中でも最もミネラルが豊富で、天然の化学元素(92種類)をすべて含んでいるのだそうです。また、海水と赤ちゃんが育つ羊水のミネラルバランスはほぼ同じと言われていることからも、海水が細胞を活性化させ、身体の機能を回復させるという説明は納得できます。私たち人間はお腹にいる時は羊水に守られ、生まれてからは海のめぐみに守られて生きているのですね。

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ただ、海についてはまだまだ謎も多く、その海を利用したタラソテラピーの科学的根拠に基づく検証は黎明期にあるそうです。これまでの地球の歴史において海が成し遂げてきたことを思えば、タラソテラピーの可能性は無限大にも思えますが、その一方で、海が危機に瀕していることも忘れてはいけません。

私たち人間の数が、地球上に存在する全生物量の中でどれくらいの割合を占めるか、皆さんはご存知でしょうか。たった0.01%だそうです。その極めて少数派の私たちが、他の生き物や、生き物を育む環境を消失や破壊に追い込んでいます。

タラソテラピーは、私たちに健康な身体や癒しをもたらしてくれるだけでなく、かつての人間がそうであったように、自然の一部として生きることの素晴らしさや大切さを教えてくれるでしょう。また現代の生きづらさの中で居場所を失った人を「命のゆりかご」で優しく包み込み、ありのままの自分自身と再びつながる時間をもたらしてくれるでしょう。

最後にギリシャの歴史学者ポリュビオス(紀元前205〜120年)の言葉をご紹介して、今回の文章を終えたいと思います:

"海にあるものはすべて有益であり、人間の起源であり、その健康を見守り続けている。"

(寄稿:泉谷道子 - 心理学博士)

<引用文献>

Forte Village “Thalassotherapy : what is it and how does it work”

https://www.fortevillagemag.com/wellness/thalassotherapy-what-is-it-and-how-does-it-work/?lang=en

Gomes C.S.F., Fernandes J.V., Fernandes F.V., Silva J.B.P. (2021) Salt Mineral Water and Thalassotherapy. In: Gomes C., Rautureau M. (eds) Minerals latu sensu and Human Health. Springer, Cham. https://doi.org/10.1007/978-3-030-65706-2_16

WORLD ECONOMIC FORUM

「地球の生物量の0.01%にすぎない人間がもたらす甚大なインパクト」

https://jp.weforum.org/agenda/2018/08/0-01/

荒川雅志.”なぜ海は体にいいのか?”~海洋療法と観光の融合をどう図る~, KAIUN 海運 総合物流情報誌(1054), pp77-80, 2015

国立大学法人琉球大学

ウェルネス研究分野 ウェブサイト

https://health-tourism.skr.u-ryukyu.ac.jp/project/1533.html

美プロプラス 「海の恵みで気持ちよく健康になる! タラソセラピーの方法」

https://www.kenkou-job.com/plus/aroma/101.html



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