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SDGsに本気でコミットする組織が養うべきGMSとは?(最新のリーダーシップ研究より)

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国連が定める持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」。もうすっかりお馴染みですね。新聞記事や広告、すれ違う人の胸元のバッジなど、その言葉やロゴを目にしない日はないくらいです。

少しおさらいすると、SDGsとは、貧困に終止符を打ち、地球を保護し、すべての人が平和で豊かに生きることを目指す行動を呼びかけるもの。目標を定めた国の政府だけでなく、企業、自治体、国際機関、個人などが協力し合って達成を目指すものとされています。

SDGsの「S」であるサステナビリティーとは、将来世代のニーズを満たすために環境や資源の保全に配慮することと、今の世代の全ての人々ニーズを満たすことの両方を実現することを意味しています。

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SDGsに「本気」で取り組むとは

今や日本に住む人の二人に一人が「聞いたことがある」SDGs(朝日新聞, 2020)、認知度が急速に高まっている背景には、積極的に取り組む企業が増えていることがありますが、なぜ企業が熱心にSDGsに取り組むのでしょう。

その理由には、SDGs貢献による新たなビジネスチャンス、企業価値の向上による投資家からの評価の向上、顧客や消費者からのイメージアップ、従業員のモチベーションアップ、優秀な人材獲得などへの期待があります。実際SDGs に取り組んでいる企業は、収益性が比較的高い傾向にあることも明らかになっています(帝国データバンク, 2020)

良いことづくめに見えるSDGsですが、実は企業による多くの取り組みは、「中身を伴わない広報キャンペーンに過ぎない」という指摘があります。日本企業を対象にした調査結果によると、企業の取り組みのほとんどが、元々行っていた事業をSDGsの目標に紐付けただけの単なるマッピングに過ぎないものだったそうです(アガワル, 黒田, 2019)。

もしもこのような状況が今も続いていて、今後も続いていくとしたらどうなるのでしょう。イノベーションが生まれないばかりか、地球環境の悪化が加速し、企業活動をこれまで通り行うことすらできなくなってしまいます。2019年の「ダボス会議」においても今やビジネスの最大のリスクは気候変動であると提唱され、「待ったなし」の状態なのです。

では、SDGsに本気で取り組むとはどういうことなのでしょう。まず必要なのは数十年後、そしてもっと先にある実現したい社会を具体的に描き、そこから逆算して今すべきことを導き出し、それらにクリエイティブに取り組んでいくこと。「対処療法」ではなく、圧倒的な発想の転換が必要です。

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次に、企業・行政・NPO等などの組織や分野を超えた組織が力を合わせて、課題に粘り強くタックルし続けること。

そう、このように組織の責任・目標・活動範囲が社会や地球環境のサステナビリティーへと広がっていて、今社会は新しいリーダーやリーダーシップを模索しています。そして、これまでの一組織の中でいかに結果を出していくかを追究するリーダーシップや組織理論はあまり役に立たなくなってきたのです。

ということで、前置きがとっても長くなりましたが、今回は近年欧米を中心に急速に広がっているサステナビリティーを実現するための最新のリーダーシップ研究を参照しながら、社会の変革者に必要とされる「Global Mindset for Sustainability(以下GMS)」(サステナビリティーのためのグローバルマインドセット)についてご紹介します(Fry and Egel, 2021)。

GMSとは

自分のいる組織の利益や発展を主眼においた思考ではなく、サステナブルな未来社会に希望を抱きその実現を信じて、他者の幸せを願う組織づくりに価値を置く考え方です。

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このGMSを抱くリーダーや組織のメンバーは、サステナブルな理想の社会像と自分たちとの繋がりをメンバーにしっかり示し、その理想を実現するために「自分たちが変わろう」「変化を起こそう」と呼びかけ、組織やメンバー個々人の持続可能性にも配慮して、思いやりのある助け合いのコミュニティを作ります。

GMSの大きな特徴は、その責任感の範囲にあります。GMSを持つ人は、自分や自分の組織が起こすアクションが、遠くに住む一見全く関係ないと思えるような人や場所、そして将来世代にどのような影響を与えるかについて想像力豊かに見極める能力を持っています。言ってみれば、GMSを持つ人が抱く責任感は時間と空間を飛び越えるのです。

想像してみてください。あなたが所属する組織のメンバー一人一人にこのGMSが備わっている様子を・・・。きっとその組織はやる気と思いやりに満ちていて、心のこもった仕事で生産性を高め、メンバーの満足度も高いはずです。

GMSを育むために

では、GMSを自分や仲間に育てていくにはどのようにすれば良いのでしょう。

GMSは、途上国でボランティアを行ったり、グローバルな課題についての本を読むなどの単発的な経験では養われないとされています。単なる道徳感やシンパシーではなく、より高いレベルの共感、思いやり、利他性を獲得するために、徹底的に自分自身を見つめ、行動を振り返ることが重要なのです。

自分自身を見つめることで何が起きるのでしょうか。

例えば行き詰まりを感じたり失敗をしたとき、ただ落ち込んだり悔しがったりするだけでなく、自分自身のもろさ、弱み、囚われた考え方と向き合い、それを受け入れます。すると同じような境遇にある人への理解が深まったり、自分とは異なる相手の要求を受け入れたりできるようになります。逆に言うと、自分のしんどさや悲しさを否定している限り、他の人のしんどさや悲しさを受け入れることはできないのです。

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また、自分(もしくは自分の組織)の選択や行動がもたらしたインパクトについて丁寧に振り返ることで、社会で起こっていることのパターンや繋がりが見えてきて、自分自身を社会という大きなシステムの一部に位置づけるようになります。そうすると自分の行動の直接的な影響だけでなく、その先の先に存在する人やコミュニティまでに配慮した行動を選択できるようになるのです。そう、いろんなことが「自分ごと化」できるようになります。

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このような振り返りを実践し続ける人の世界観と、利己的で想像力を欠く人の世界観が圧倒的に異なることは、容易に想像することができますよね。

では、この丁寧なプロセスを習慣化し、個々人にGMSを育て、組織文化として根付かせ、組織の力に変えていくにはどうすればよいのでしょうか。今回ご参照した研究では、メンバーがそれぞれの経験、感情、身体の状態に意識的になれる以下のような取り組みを行うことが有効だと述べています:

- 組織的なマインドフルネス研修プログラム (瞑想やヨガなど)
- 会議に沈黙の時間を設ける
- 精神的な部分を支え合うサポートグループ作り
- 個々人がやりがいや希望について話し合える環境作り
- スピリチュアリティやマインドフルネスに関わる書籍や資料の貸し出しやそれらを集めた場所の設置

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まとめ

今回はSDGsに本気でコミットできる、関わる人の満足度も高い組織に必要なGMS(Global Mindset for Sustainability)についてお話ししました。

おさらいすると、GMSとは、サステナブルな未来社会に希望を抱きその実現を信じて、他者の幸せを願う組織づくりに価値を置く考え方ですが、その大きな特徴は時空を超えた責任感。もしかするとこの「時空を超えた責任感」に重苦しい印象を抱く人もいるかもしれませんね。

しかし、社会的責任感を抱く組織のメンバーや、社会的課題に関心が高い人は、そうでない人と比較して幸福感が高いという研究結果が複数存在しています。人は感謝されることで幸福感を高めると言われますから当然のことと言えるかもしれません。

今社員のウェルビーイングを大切する組織も増えてきました。それ自体はとても大事なことであり奨励されるべきことですが、SDGsに取り組む組織の成果を示す、経済、社会、環境面でのプラスのインパクトを生むには、メンバーに何をどのように意識させるかということに、より戦略的になることが必要かもしれません。

(寄稿:泉谷道子 - 心理学博士)

参考文献:

Louis W. Fry, Eleftheria EgelGlobal, “Global Leadership for Sustainability,” Sustainability ( IF 2.576 ) Pub Date : 2021-06-03 , DOI: 10.3390/su13116360

「【SDGs認知度調査 第7回報告】SDGs「聞いたことがある」約5割」, 朝日新聞, 2020
https://miraimedia.asahi.com/sdgs_survey07/

リシ・アガワル, 黒田 由貴子「日本企業が真にSDGsに貢献するために 表層的な貢献表明は大きなリスクとなる」, ハーバードビジネスレビュー,2019
https://www.dhbr.net/articles/-/6181

石井ヤニサ「SDGs に取り組んでいる企業で高収益性示す ~行政や関連団体の支援や情報提供が SDGs 加速の重要なカギに~」, 帝国データバンク「政策レポート」2020https://www.tdb-di.com/2020/09/p2020091001.pdf

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