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聞くことは、大切にしているものを想像すること。~聞いてる時のアタマの中 vol.2

聞いてるときのアタマの中 vol.2
〜看護師 東(あずま)さん〜

「ご飯食べる?」

住宅街を歩いてたどり着いたご自宅は、森の中にあるカフェのようでした。わぁっと歓声を上げる私に、東さんは「お腹空いてる?」と声をかけ、あっという間にキッチンへ。

無垢材のカウンターテーブル。
磨かれたアップライトピアノ。
部屋全体に響くように付けられたスピーカー。
小さく流れるピアノ音楽。

思わず椅子にもたれかかって深呼吸してしまう空間に、しばらく浸っていました。

手作りランチ。見てるだけで幸せになる。
お手製ハンバーグがメインのワンプレート。どれも東さん流の「ひと手間」がかかっている。


東さんは看護師として働いています。
日々、人の心と体に向き合っている東さんの「聞いてる時のアタマの中」を知りたくて、取材を申し込みました。

しかし、ここに来て気になってきたのが「この空間と時間を生み出している源流は、どこからきているんだろう?」ということ。

インタビューが進むにつれて、気が付けば私自身が癒され、「大丈夫」と背中を押してもらっているような時間になっていました。

この企画は、ひよっこライターの私ゆきが独断で選んだ「聞き上手」な方々に、「聞いてる時のアタマの中」についてインタビューします。
テーマは「テクニック」や「コツ」ではなく、その人にとっての「聞く」ってなんだろう? を掘り下げること。
聞き下手な私のための企画ですが、同時に、コミュニケーションに苦手意識を持っている人へのヒントになったら嬉しいな、という思いからはじめました。
インタビューをとおして、私の周りにいる素敵な人たちの紹介もさせてください。


無理にこじ開けて進もうとせず、導かれる方を選ぶ


東:私ね、「看護師になりたい」って最初から思ってたわけではなくて、高校はものづくりをする高校に入ったの。

ゆき:そうだったんですね!

東:「バイオマス」っていう植物とかのエネルギー開発に興味があって、高等専門学校(※5年制)に入ったの。
でも3年生になった時に、担任の先生から「ものを作る仕事より、人に関わる仕事の方が向いてるんじゃない?」って言われて。なんかちょっと待てよ、って引っかかって看護学校に行くことにしたんだよね。

ゆき:いきなりの路線変更! 
先生は、東さんの何をみてそう思ったんでしょうね。

東:成績があんまり良くなかったからだと思う。笑 夏はテニス部、冬は軽音楽部で、すっごい楽しくて遊び惚けてたから。進級の査定が厳しい学校だったから、「このままストレートで5年生まではいけないな」って思ったんじゃないかな。

でも、「人と関わる方が向いてる」っていう先生の言葉が、スッと私の中に入ってきたの。「ああ、そうかもな」って。

そのあと色んなアルバイトをして分かったのは、「私は人と関わることが好きなんだな」ってこと。今があるのは、その先生のおかげだね。

東:少し話が変わるんだけど、最近車を手離したんだよね。
「車を持たないってどんな生活なんだろう」って興味があって。

車がないっていうことは、歩いて行ける範囲でしか買い物をしなくなる。「これが食べたいからあそこの店に行く」っていうことも、容易にはできなくなる。
でもそうなると、行ける範囲内で生活をする工夫をしていくのよ。例えば、前にお店で食べたものを真似て家で作ってみようとか。
生活の工夫をすごくするようになった。

ゆき:車を辞めるきっかけはコロナですか?

東:元々は事故って自分の車を廃車にしたところから。
でも最近までは、遠出したい時はレンタカーを使ってた。そうしたら、そのレンタカー屋さんが閉店しちゃったの。笑 歩いて行けるところに一軒だけあった店だったのに。そこもなくなるってことは、「車を使わないで生きなさい」っていうことなのかなって思って。

ゆき:まず廃車にして次の車を買わなかった、ってことから予感はありますよね。

東:そう。経験的に、何かを増やしたり手を広げたりして上手くいくときはそれでいいんだけど……。
上手くいかない時は、今あるモノとか今いる範囲で、工夫してやった方がいいのかなって思ってる。

ゆき:「無理に手を広げない」っていう考えは、今までの経験からきているんですか。

東:こじ開けて一生懸命に進もうとすると、上手くいかないんだよね。なんとなく、導かれるように流れに身を任せて進むと、結果オーライっていうか。
その感覚は、結構自分の中では大事にしてる。

上手くいかない時は、無理に進まない。
どっちに行くか迷った時は立ち止まって、自然に流れていく方に行くっていう感覚は持ってる。

ゆき:東さんが看護師になろうと思ったのも、自分で腑に落ちて、導かれてって気がします。

東:そうだね。行くべき方向って、自分で無理に頑張っていこうとするより、導かれていく方なのかなって気がしてる。


人には年代によって役割がある


ゆき:あの……。私は「やるぞ!」って気持ちが盛り上がると、周りが見えなくなる時があるのですが。
どうしたら東さんのように俯瞰的な、立ち止まれる冷静さを持てるんでしょうか。

東:私も30代の頃は、こじ開けてたと思うんだよね。努力したり頑張ったりっていう生き方を、今思えばしてたと思う。
40代になって、ちょっと今みたいな「導かれる方にいく」っていう考えに変わって。50代になって、今52なんだけど、余計に……犬だったら「待て」って感じ。自分に沿う波を上手く感じ取れるようになってきたというか、そんな気がする。

ゆき:「流れを待つ50代」ですか。

東:そうだね。今何十代?

ゆき:35です。

東:ああ〜。その35歳の手前が一番、エネルギーがあった時期だったな。なんであんなに頑張れたんだろうと思うくらい頑張ってて。
でも35になった時に、ふっと立ち止まれた。

ゆき:まさに今そんな状態です。30代は一番お仕事を頑張っていた時期ですか?

東:うん、頑張ってた。別に誰かから評価されたわけじゃないけど、自分の中では一番やった感があるし、やるパワーがあった。
その頑張ってきた分、頑張ってる人の気持ちとか目線が自分の中に入ってくるようになって、40代になると凄く人に優しくなれたんだよね。

30代の前半は自分が頑張ってるからって、今思えば攻撃的だった。
でも35を過ぎた時に、ふっと、「ちょっと待てよ」って立ち止まったの。頑張るのを辞めるわけじゃないけど、立ち止まったら流れが緩やかになって。

そうして40代になった時に「あの人今凄いパワーがあって頑張ってるな。じゃあ支えよう」っていう気持ちが湧いてきた。

ゆき:それは、年を重ねることで身につけた知識とか経験から生まれる「余裕」なんでしょうか。

東:うーん……「余裕」ではないよね、きっと。
人って、ずっと走り続けられないじゃない。年を重ねていけば体力も落ちるし。そういう身体の衰えも関係してるんじゃないかなと思う。
20代や30代のように頑張れなくなってきた自分に気づいた時に、次の段階に進んだというか。

40代を迎えて、先頭切るだけが人の役割じゃないって気づいた時、ふっと思い出したの。「頑張ってた時に確かにいたよな、後ろに40代の人たち」って。

あの人たちって、ふとした瞬間に「あず〜」って優しく声かけてくれたりとか、散らかすように働いてたときに後ろから支えてくれてたりとか、「困ったな」「どうしよう」って時に、ふっと現れて手伝ってくれたりとか。今考えたら確かにそういう人たちは40代、50代だったなって。

先頭切って走る20代・30代がいて、後ろで支える40代がいて、言葉で癒したりサポートする50代がちょっといて、って。各年代がいるっていうのは、やっぱ意味があるんだよね。

私も今の年代の、今の私だからできることをやっているし、やっていきたいと思ってる。


人と関わることでしか、自分がどういう人間かは気づけない。

ゆき:「無理にこじ開けようとしない」とか、「流れを待つ」とかは東さんの人との関わり方にもつながるなと思いました。
人と接する時に大事にしてることって、何かありますか。

東:目の前で会ってる時間以外のことを想像して、相手を理解しようとすることかな。人それぞれに色んな背景があるから。

どんな時間を経て、ここにいるんだろうってことを想像するようになったし、その人の大切にしているものを想像だけでも理解したいって思ってる。

ゆき:それってきっと、患者さんに対してもですよね。

東:もちろん。でも、患者さんも私たちを理解しようとするんだよね。不思議なんだけど、逆にこっちが励まされるってことが凄く多い。
それってやっぱり、人と関わらないと得られないことで、その人と関わらなければ、気がつかなかったことなんだよね。

昔、自分の子どもとのコミュニケーションが全然取れなくて、悩んでた時があって。その時に患者さんから「子供なんてね、お弁当が空になって、帰ってきて、警察の世話にならなければそれでいいのよ」って言われたの。凄くその言葉が腑に落ちて、気持ちが楽になったんだよね。
「自分の言ったことを聞いてくれない」って、子育てに対するハードルを上げて、高い次元で物事を捉えてたなって気がついて。

自分がどうみられてるかとか、どういう人間かっていうのは人から言われないと分からないなって思う。

ゆき:自分で自覚するっていうより、周りから見たもので型どっていくのが自分。

東:そうだね。


目の前にあるもので豊かになれる暮らしをつくりたい

ゆき:最後に、これからの東さんの夢って何かありますか。

東:私の人生の中での役目って、ほぼ達成したなって思ってるの。子供たちが世の中に出て、ある程度人に迷惑をかけないで生きていけるようになって。

今まで、自分のためだけに何かをしたことがあんまりなくって。親の役目を終えて、「自分のために」ってことを初めて今突きつけられていて。私の夢はほぼ達成されたし、今の私の夢ってなんだろう?って思ってたんだけど。

ターシャが、、、

ゆき:ターシャ?

東:ターシャ・テューダーっていう、アメリカでお庭づくりをしていた絵本作家がいて。57歳の時に広大な敷地のお庭を自分で耕して、お花を植えて、素晴らしいガーデンを作って、絵本を描きながら一人で暮らしていた方なんだけど。
夢っていうものでもないんだけど……一人でも「幸せだな」って思えること。

例えば天気の良いあったかい日に、ゆったりソファに座りながらコーヒーを飲んで音楽を聴くとか、そんな些細なこと。
どっかに出かけて素晴らしいものを見て感動して、とか、そんなことじゃなくて。
自分の目の前にあるものとか、身の回りにあるものとか、そういうもので気持ちが豊かになれるような暮らしを作っていきたい。それだけでいいなって。

些細な日々の生活の中で、ゆったりと「ああ、今日も幸せだな」って思える時間を作っていくのが、今の夢かな。夢っていうか、夢でもなんでもないけどね。

そんな感じ。


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